伝説の虹の橋をさがして、夢追い人達は、東の空へと、西の海へと。
想いは遠く、世界を駆けた。
だけど虹は、ここで見つけた……。
夢が叶う、虹の橋よ……。
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「あ、あの……花火大会に、一緒に行きませんか……?」
佐倉さんからその電話を貰ったのは、夕方のことだった。
俺は迷わずそのお誘いを受け、河川敷へと向かった。
2000年8月26日。それは、俺達2人にとって、大きな節目と言うべき日であった……。
俺が河川敷に着いた頃にはまだ、彼女の姿はそこにはなかった。
浴衣にでも着替えているのだろうか?と言うことは、彼女の浴衣姿が見れる。
そのことを考えると、何だか顔がにやけてしまう。
……それにしても遅い。何かあったのだろうか?
「う〜〜ん、迎えに行けば良かったかな……?」
そんな事を考えていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「虹野さん!」
その声を聞くと、何だか胸が詰まる。何度聞いても飽きることのない、俺の大好きな、彼女の声……。
「佐倉さん、どうしたの?遅いじゃない!」
ちょっぴり、意地悪っぽく言ってみる。すると彼女は、少し困ったような顔をして、
「ご、ごめんなさい〜〜〜!ちょっと、来る途中でこけちゃって……。えへへ」
今更、彼女のドジについて何も言うことはないが……。ただ、俺は彼女の、そんなところも好きだ。
本人には言えないけれど。
「まったく、ドジだなぁ、佐倉さんは」
また、ちょっぴり意地悪っぽく言ってみる。
「う〜〜、んもぅ、イジワル!」
彼女はそう言うと、ぷいと顔を反らしてしまった。怒らせてしまったらしい。
「あ、その、ごめん!言い過ぎた……」
俺が困った顔をして謝ると、彼女はクスクスと笑い出した。
「……?何か、可笑しい?」
「ふふ、だって、虹野さんの困った顔、面白いんだモン」
彼女は、まだ笑っている。
「そんなに笑うことないじゃない」
「アハハ、ごめんなさい。それじゃ、許してあげる」
どうやら、機嫌は直ったらしい。とりあえず、ひと安心だ。
「あ、そう言えば浴衣だね、佐倉さん」
と、わざとらしく言ってみる。彼女の浴衣姿を見るのは、去年の花火大会以来だ。
やっぱり、とても似合っていて、可愛い。
「ハ、ハイ!……わたしの浴衣姿、どうかな?変、じゃない?」
彼女が、少し照れながら言う。それがまた可愛い。
「うん、とても似合ってるよ。それに……」
「それに?」
「それに、凄く綺麗だよ」
無意識のうちに出てしまった、その一言。言ってしまった後、少し恥かしくなってしまった。
「え?ホ、ホント!?あ、ありがと……」
頬を少し赤らめて、彼女が言った。その嬉しそうな笑顔が、もうたまらない。
「ね、ねぇ、こんなところで立ち話もあれだし、そろそろ行きましょ?」
「うん、そうだね。じゃ、行こうか」
俺達は世間話をしながら、時々夜店を覗いたりしながら歩いた。
手をつなぎたい、と思ったが、勇気がなくて出来なかった……。
「あら、いつもの少年じゃない!」
かき氷の屋台の前を通った時、声をかけられた。
屋台には、言わずと知れたバイトのお姉さん、九段下舞佳さんがいた。
妙に挑発的なはっぴ姿がとてもセクシー……いやいや、妙に似合っていた。
「舞佳さん!またバイトですか?」
「そうよん♪夜店ってのはねぇ、結構儲かるのよ〜〜」
「は、はぁ……」
儲かるのは、あなたのその格好のせいでは?と言いたかったが、やっぱりやめておこう……。
「もぅ、少年ったら、またいつもの彼女とデート?ヒューヒュー、熱いわねぇ。青春だねぇ」
「か、彼女だなんて!ち、ち、ち、違います!」
佐倉さんが、慌ててそう言った。
「あはは、照れない照れない」
佐倉さんとデートをしているとき、何度か舞佳さんに遭遇(笑)したことがある。最初の頃は、佐倉さんは怒って帰ってしまったりもしたが、今は舞佳さんは良き理解者(?)である。
それにしても、そんなにはっきりと「違います!」なんて言わなくても……。
「それはそうと少年、かき氷はいかが?彼女とふたりでかき氷を食べる!う〜〜ん、絵になるねぇ」
「は、はぁ……。それじゃ、ください」
「はいは〜〜い!で、何味にする?イチゴ?メロン?ブルーハワイ?何でもあるわよ〜〜」
「そうだなぁ……佐倉さん、何味がいい?」
「う〜〜ん、どうしようかな……え〜〜っと、じゃぁ、メロン」
「は〜〜い、メロンね。ちょっと待っててねぇ〜〜」
そう言うと、舞佳さんはかき氷を作り始めた。氷の山が、どんどん大きくなっていく。まだまだ大きくなっていく……。
「あ、あの、多過ぎません?氷……」
「サービスよ、サービス♪」
「は、はい……」
最後に、ソース(のような物)をかけて、かき氷(特盛りメロン味)が出来上がった。
「ハイ、お待ち!300円ね」
俺は、舞佳さんに300円を渡し、かき氷を受け取った。その時、ストローがないことに気付いた。
「あれ?舞佳さん、ストローは?」
「あ、ごめんねぇ。ちょっと待っててね」
舞佳さんはストローを取り出し、かき氷に刺した。2本。
「あ、あの、何故に2本ですか……?」
「え?だって、彼女とふたりで食べるんでしょ?」
「そ、そうなの……?」
俺は、佐倉さんの方を見た。
すると彼女は、ちょっぴり頬を赤らめて、こくんと頷いた。
「ハイ、じゃぁ、決まり!」
「い、いいのかなぁ……?」
俺が困った顔をすると、舞佳さんは小声で、
「ホラ、同じ釜の飯を食べると、親しくなれるって、よく言うじゃない」
「は、はぁ……」
「それとも、何?彼女と間接キスするのが嫌なの?」
「え!?そ、それは……」
佐倉さんと間接キス。
そんなことは考えてもみなかったが、よくよく考えれば、これはチャンスかもしれない。
……と、考えてしまう俺は、やっぱりダメ男なのだろうか……?
「さぁ、ハッキリなさい!」
「は、はい、いいです。2人一緒でいいです……」
「はい!それじゃ、毎度あり!少年、頑張るのよん☆」
かき氷を受け取り、俺達は屋台を後にした。
やっぱり、舞佳さんには敵わない。
「面白い人だね」
かき氷を食べながら、佐倉さんが言った。
「うん、そうだね」
「ねぇ、かき氷、食べないの?溶けちゃうよ?」
「う、うん、食べるよ」
俺はストローを手に取り、かき氷を口に運んだ。冷たくて、美味い。
その時ふと、舞佳さんが言った、あの言葉が頭の中に浮かんだ。
「間接キス」という、言葉が……。
間接的といえど、佐倉さんと……。
そんなことを考えると、頭が熱くなって来る。
そんなこんなで、特盛りかき氷をなんとか食べ終えた。
その間の会話は、上の空だったのでよく覚えていないが、何だか、かき氷がいつもより甘く感じられた気がした。
「どうしたの?人の顔ばっかりじろじろ見て……。何かついてる?」
俺は、佐倉さんの声で我に返った。
知らず知らずのうちに、彼女の顔……正確には、唇を見つめてしまっていたようだ。
「い、いや、何でもないよ」
「そ、そう……?」
「うん、そうそう。あ、花火が始まるよ」
「え?あ、うん!」
空を見上げると、一発目の花火が揚がった。
なんと言う種類の花火かは分からないが、七色の、大きな花を夜空に咲かせていた。
次々と揚がる花火。そのひとつひとつが、大きな花を咲かせ、そして儚く消えて行く……。
「うわぁ、綺麗……」
隣で、佐倉さんが呟いた。
俺は、ちらりと彼女の顔を見た。その顔が、花火が揚がる度に赤くなったり、黄色くなったりする。
花火も綺麗だけど、佐倉さんも凄く綺麗だ。
俺はその時、心の底からそう思った。
でも、言葉には出せない……。
そして、ふと彼女の唇に目が行った。
うすいピンク色をした、小さくて可愛い、彼女の唇。
まだ、誰も触れたことのない、佐倉さんの……。
「ねぇ、今の花火、見たっ?」
「え?あ、うん。凄く綺麗だったね!」
俺は、とりあえずそう答えた。本当は、彼女の唇を見つめていたのだが……。
「ね、すっごく綺麗だったよねっ!えへへ、嬉しいな。一緒に花火見れて……」
「うん、俺も嬉しいよ」
「来年も、一緒に見たいな……」
その言葉を言った後、彼女の表情が少し陰ったように見えた。
「うん、来年も一緒に来ようね!」
「………………」
彼女は急に黙ってしまった。俺が、何か悪いことでも言ってしまったのだろうか?
「佐倉さん?どうしたの……?」
「……あ、あのね、虹野さん」
「何?」
「……私、明日……明日ね……」
「うん、明日?」
「……う、ううん!何でもないの!何でも……」
「そ、そう……?」
彼女が何を言おうとしたかは分からなかったが、彼女が見せた、どこか淋しげな表情が妙に気にかかり、胸騒ぎがした。
花火は、1時間ほどで終わった。河川敷から帰って行く人が目立ち始めた。
「それじゃ、佐倉さん、俺達もそろそろ帰ろうか?」
「………………」
彼女はまた、黙り込んでしまった。
「佐倉さん?」
と、その時、彼女は突然、俺の胸に顔を埋め、泣き出してしまった。
「さ、佐倉さん、どうしたの!?」
「もうちょっと、このままでいさせて!お願い……」
「う、うん……」
俺は、彼女の言う通り、しばらくその状態で、そして彼女をそっと、抱きしめてあげた。
大切に扱ってあげないと、壊れてしまいそうな体が……
小さな、とても小さな肩が、小刻みに震えている。
彼女は、その小さな肩に、背中に、体に……どんな重荷を背負っているのだろうか?
その時俺は、ただ彼女を抱きしめてあげることしか、出来なかった……
…………どれほどの間、俺達はそうしていただろうか。
やがて、河川敷から人がいなくなると、彼女もようやく落ち着いたらしく、俺から身を離した。
俺の手にはまだ、彼女のやわらかく、あたたかい感触が残っていた。
「……虹野さん……」
「……何?」
「……そ、その、ありがとう」
「い、いや……」
その時、俺は思った。彼女にこの気持ちを伝えるのは、今しかない、と……。
「……佐倉さん」
「……な、なぁに?」
「実は、俺……」
体中が熱い。全身が、がたがたと震えてきた。
「……俺、佐倉さんが……いや、楓子のことが、好きだ!」
……思ったよりも、自然に出てしまった、その言葉。
言ってしまった後は、ついに言った、という達成感と、彼女の返答に対する不安でいっぱいになった。
彼女は、少し驚いた様子で、しばらく言葉を失っていたが、突然、こう言った。
「……ごめんなさい!」
そして、彼女はその言葉を言った途端、どこかへ走り去って行ってしまった。
「ごめんなさい」
……そのひとことによって、俺と佐倉さんの距離は、とても、とても遠くなってしまった気がした。
転校。
その事実を知ったのは、2学期最初の登校日のことであった・・・・・・。
さてさて、佐倉さん誕生日記念、僕の初めての「まともな」SSの、前編が終了いたしました。
とにかく、佐倉さん!誕生日おめでとう♪ ※ミ△(><)
前編は、花火大会に一緒に行き、佐倉さんが転校してしまうという、お馴染みの(?)お話でした。
後編は、これまたお馴染みの(笑)再会と、そして……
あとは、実際読んでみてお確かめください(爆)
なんとなく、舞佳さんが活躍していた気もしますが、それはさておき。気がついたら、「キス」の話になってました。
たぶん、直前に「ラ@@な」の5巻を読んだからでしょう(笑) 作者が、まだ接吻というものをしたことがないので、ここまで純粋に(?)書けたのではないでしょうか?(??)
実際、どんなんなんでしょうねぇ……?
女性に告白したこともないので、そこら辺もかなり適当です(苦笑)
さて、続いて、後編をお楽しみくださいませ。