「虹野さん!」

……永い間、とても永い間、聴いていなかった気がする、

とても懐かしい、その声。

俺の大好きな、彼女の声……。
 

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虹の橋を見つけて……<後編>

〜Look to the Rainbow〜

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9月19日、修学旅行2日目。今日は自由行動だ。

でも、特に一緒に行こう、という相手がいない。

1学期の終わり頃、「一緒に見てまわろう」と、佐倉さんと約束をした。

しかし、彼女はもう、ひびきのにはいないのだ。

「はぁ、今日は1日ホテルにいようかな……」

ちょっぴりナーバスになっていると、匠がやってきた。

「おい、そんなところで何やってるんだよ?ははぁん、さては一緒に行く相手が居なくて、悲しい青春だなぁ〜〜、なんて項垂れてたんだろ?」

「ぐっ……」

「あはは、図星だね。じゃぁ、俺と行こうぜ」

「正気か?何でお前なんかと……。大体、お前は大勢の女の子に、『匠く〜ん、一緒に行こうよ〜〜☆』な〜んて、誘われてるんじゃないのか?」

「ん〜〜、そりゃそうだけどさ。ほら、1人の女の子だけと仲良くするとさ、他の子に勘違いされちゃうだろ?」

「はいはい……。ところで、純はどうした?」

「あぁ、あいつならもう、水無月さんと出掛けたよ」

「奥手だと思ってたら、なかなかやるな、あいつ」

「あはは、そうだな」

そんなことを話ながら、俺は匠に言われるがまま、小樽運河へとやって来た。

「きれいな、けしきだなぁ〜〜」

どことなくわざとっぽく、匠が言った。

「はぁ……」

「何、ため息ついてんだよ?」

「だってさぁ、男2人で小樽運河なんて、淋しすぎると思わねぇか?」

「まぁ、それも一理あるね。それじゃ、何?お前は誰と来たかったの?」

「そ、それは……」

「佐倉さん、だろ?」

「うっ……あ、あぁ……」

「転校しちゃったんだもんな」

「……あれから、何か分かったか?」

「それが……」

「……そうか……」

花火大会の日以来、俺は佐倉さんとは会ったことも、声を聞いたこともない。

その翌日、彼女は誰にも何も言わず、どこかへ引っ越して行ってしまった。

そのことを匠から聞いたとき、ショックで目の前が真っ暗になった。

そして、あの日。彼女に想いを伝えた、花火大会の夜。

「ごめんなさい」のひとことによって、俺は全てを失ってしまった気がした……。

「おっと!」

突然、匠が言った。

「俺、急用を思い出したから、ホテルに帰るよ」

「な、何ぃ!?」

「悪いな。……頑張れよ。じゃぁな」

匠はそう言うと、ホテルの方へと走って行ってしまった。

「な、何だよ、急に……。ところで、頑張れよ、ってどう言う……?」

と、その時。

「虹野さん!」

後ろから、懐かしい声が聞こえた。

胸が締めつけられるような、この感じ。

俺は、とっさに後ろに振り向いた。

……そこには、もう二度と会えない、と思っていた彼女、佐倉さんの姿があった。

「さ、佐倉さん!」

「えへへ、久しぶり」

彼女が、とても可愛い笑顔で言った。

制服は、どこか違う学校のものであったが、彼女は紛れもない、佐倉さん本人であった。

「どうして、佐倉さんがここに?」

「実はね、私も修学旅行できてるの。それでね、昨日、坂城さんから電話があったの。ここに連れて来るから、待っていてくれ、って……」

「そ、そうなんだ……」

道理で匠が俺なんかと一緒に行くはずだと思い、そして心の中で匠に感謝をした。

「ホント、久しぶりだね」

「うん、そうだね。あ、そう言えば佐倉さん、どこの高校に転校したの?」

「うん、大門高校って言うんだけど、知ってる?」

「大門高校って……もしかして、野球がめちゃくちゃ強い、あの大門高校?」

「うん!」

「じゃぁ、もしかして、野球部のマネージャーやってるの?」

「うん!みんな、一生懸命頑張って練習してるよ」

「やっぱりね。嬉しいな」

「何が?」

「佐倉さんが、相変わらず元気で頑張ってくれてて」

「えへ、ありがとう。私も、あなたに会えて、嬉しいな……」

「佐倉さん……。俺もだよ」

「そ、そう?……ありがとう」

転校前と同じように、こうして、彼女と一緒に話が出来る。

俺は、そのことが嬉しくてたまらなかった。

ところで、彼女は俺が告白したことについて何も言わないが……。

やっぱり、彼女にとって俺は、ただのお友達でしかなかったのだろうか……。

「ねぇ、虹野さん」

「ん、何?」

「これから、暇……?」

「うん。匠が急用があるって言って帰っちゃったからさ、どうしようかなって思ってたんだ」

「じゃ、じゃあね、一緒に見てまわらない?30分しか時間ないから、お散歩ぐらいしか出来ないと思うけど……」

「うん!約束したもんね」

「えへへ、覚えててくれたんだね」

「え?」

「一緒に見てまわろうって言う、約束」

「当たり前じゃないか。さぁ、行こう」

「……ハイ」

俺達は、最近ひびきのであったことや、彼女の高校の話をしながら、川沿いの道を歩いた。

久しぶりに会ったせいか、話が弾む。

……そして、楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。

「あ、もうそろそろ時間だね……」

「うん……」

「それじゃ、送って行くよ」

「ううん!大丈夫、すぐそこだから。それより……」

「どうしたの?」

「……あ、あのね、花火大会のときのことなんだけど……」

「あ……」

花火大会と言われて、俺は少しドキッとしてしまった。

もしかしたら、俺が告白したことについてかもしれない。

でも、そのことなら、もう結果は……

「……その、あの時はありがとう。それと、服をぬらしちゃって、ごめんなさい」

「う、うん。全然、気にしなくていいよ」

「えへ、ありがとう。……それとね」

彼女の顔が、とても真剣になった。瞳が、少し潤んでいる。

「……それと、その……わ、私も、あなたのことが好きです!ずっと、ずっと前から……。だから……」

俺の告白に対する、彼女の返事。

それは、花火大会の時の「ごめんなさい」ではなく、「私も好きです!」だった。

俺は、そのことばを聞いたとき、一瞬、自分の耳を疑った。

しかし、彼女は実際に、そう言ったのだ。

「佐倉さん……」

「……えへへ。やっと言えた……」

「……もう一度言うね。好きだよ、佐倉さん」

「うん、うん……変だな、私。嬉しいのに、泣いちゃってる……」

彼女はそう言って涙をふき、とびきりの笑顔を見せてくれた。

「その、佐倉さん」

「なぁに?」

「楓子って、呼んでもいいかな……?」

「うん!……あ、もうそろそろ行かなきゃ」

「やっぱり、送っていくよ、楓子」

「うん、ありがとう……」
 

…………その後、俺達は電話や手紙で連絡を取り合い、長期の休みには会ったりして、遠距離恋愛を続けた。
 

そして、月日は流れ、2002年3月20日。

ひびきの駅に、一本の電車が到着した。

電車から降りた人々が、続々と改札を出てくる。

春休みなせいか、今日はやけに人が多い。

俺は、その沢山の人の中から、目を凝らして彼女をさがす。

「奏詩くん!」

彼女の方が先に俺を見つけ、手をあげて走ってくる。

「楓子!」

「えへへ、ただいま」

彼女が、可愛く、そしてちょっぴり大人っぽい笑顔で言った。

「おかえり。荷物、持つよ?」

「うん、ありがとう」

楓子は大門高校を卒業し、これからひびきのにある雑誌社に入って、手芸関係の雑誌のライターをすることになった。「夢が叶った」と言って喜ぶ彼女を見ていたら、俺まで嬉しくなった。

そして何よりも、これからは同じひびきので、一緒にいられる時間が多くなったということが、嬉しかった。

「ねぇねぇ、荷物置いたらさ、ふたりでどっか行かない?」

「うん、そうしようか。どこに行きたい?」

「う〜〜ん、どうしようかな……。歩きながら考えようよ、ね?」

そんなことを話ながら歩いているうちに、彼女の新しい家に着いた。俺の家の近くの、マンションの一室である。

とりあえず荷物を置いて、俺達は再び外に出た。

「で、どこに行くか決めた?」

「うん!どこに行きたいか、分かる?」

「そうだなぁ、ショッピング街?」

「ブー!はずれ〜〜」

「う〜〜ん、じゃぁ、動物園かな?」

「違うよ〜〜。どうして分からないの〜〜?」

少しいたずらっぽい笑顔を浮かべ、彼女が言った。

「う〜〜ん、どこだろう……?じゃ、ヒント!」

「ヒント〜〜?そうだなぁ……。ヒントその1!たぶん、今は桜が綺麗じゃないかな?」

「分かった!中央公園でしょ?」

「う〜〜ん、おしい!じゃぁ、ヒントその2!わたしとあなたにとって、とっっっても大事な場所」

「俺と楓子にとって、とっっっても大事な場所?」

「そう」

「え〜〜っと……。あ、河川敷!」

「ピンポ〜ン!大正解〜〜♪」

「河川敷かぁ〜〜。そう言えば、最近行ってないなぁ」

「じゃ、早く行こうよ、ね?」

「うん!」

彼女が、俺の手をつかんで走り出す。

出会ったばかりの頃は、恥ずかしいと言うか、何と言うか、そんな感じで手をつなぐことが出来なかった。

でも、今ではそれが自然に出来る。

彼女の手のぬくもりを、感じることが……。

そんなこんなで河川敷に到着。桜の花が咲き乱れ、花びらが雪のように舞っている。

「えへへ、懐かしいね、ここ」

「そうだね」

2年前の夏、花火大会の日。

彼女に想いを告げた、思い出の日。

そして、彼女が転校してしまった、忘れられない日。

その日、俺と彼女はこの場所にいた。

一緒に、楽しく会話をし、かき氷を食べ、花火を見た。

とても、とても楽しかった、あの日。

それと同時に、淋しさ、虚しさ、不安と絶望感に襲われた、あの日。

そして、ふたりの絆が深まった、あの日……。

その場所に、俺は再び立っている。

彼女と一緒に。

そのことが、とても嬉しく、そして幸せだ。

その想いはまるで、七色に輝く、虹のような……。

どこまでも続く、空に掛かる虹の橋……。

夢が叶う虹の橋を、ここで見つけた。

「……奏詩くん」

「ん、何?」

「これからは、ずっと一緒だよ、ね?」

虹の橋を見つけて……。

〜Fin.〜
 
 
 


あとがき♪

さてさて、と言うワケで……
佐倉さん誕生日記念、僕の初めての「まともな」SSは、これでお終いです。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

作者の力量不足により、前・後編通して文がどことなくおかしい部分がとてもよく目立っていたりしますが、
そこら辺は多めに見てやってください(笑)
前編の冒頭で意味ありげに出てきた虹の橋も、結局はかなり適当になってしまいました(苦笑)
しかも、皆さんから白い目で見られそ〜な部分がいくつかあったり (^^;
もうちょっと、勉強しときます〜〜!
え〜〜っと、ご意見ご感想がありましたら、聞かせていただけると嬉しいです。
宛先は、こちらです。
ファンレターも、随時受付中(笑)
それでわ、最後に……
佐倉さん、誕生日おめでとう!!


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