ごくり、って喉が鳴る。
恐る恐る、体重計に足を乗せてみる。
神様、お願いだから、ちゃんと減ってて下さい・・・!
祈るような思いで、測定結果が出るのを待つ。
PiPiPiPiPi...
小さな音と一緒に、表示されたのは・・・。
『(秘密だよ)kg』
「やったー! 目標達成〜!」
思わずバンザイって、手を叩いちゃった。
だって、毎日ゴハンを少な目にして、野球部の練習にも出来るだけ参加して。
そ、そりゃ、北条さんと一緒に走ったり、バットの振り方を教えてもらったり、色々楽しかったのも事実だけど。
でも、本当に頑張ったんだよ?
だから、大変だったから、物凄く嬉しいの。
これであのTシャツ、着れるカナ?
去年の水着、ちゃんと入るよね?
入らなかったら・・・どうしよう〜。練習、忙しかったし、新しいの買ってないよぉ・・・。
神様、お願いっ! ちゃんと着れますようにっ!
ここのところ「いじわる」って言い続けて来た神様に、今日だけはお願いする。
そんなわけで・・・しばらく待ってね。
これから水着に着替えるんだから・・・見ちゃ、駄目だよ?
「・・・良かったぁ、ちゃんと着られる〜」
水着に着替えて、ほっと息を吐く。
まだちょっと、胸のところとかお尻とか、少しだけキツイけど、このくらいなら大丈夫だよね。
・・・うん、平気。変じゃない。
鏡で確認していると、急にドアがコンコンってノックされた。
「姉ちゃん、昨日借りた辞書なんだけど・・・」
「きゃあ、待って待って待ってぇ〜!」
弟の声がして、慌ててドアのノブを押さえようとする・・・ケド、それより先にドアが開いちゃった。
「これ、ありがと・・・・・・って、何してんの、姉ちゃん?」
「もう・・・待ってって、言ったでしょ!」
うう〜、今度絶対絶対、お父さんに言って部屋にも鍵、付けてもらうんだから!
「はいはい。別に姉ちゃんの見たって嬉しくないよ。これ、サンキュー」
「もう・・・今度は待ってって言ったら、ちゃんと待つんだよ!」
「へいへい」
う〜、なんか全然反省してないよぉ! もう、最近生意気になって来たんだから!
閉まったドアを睨んでから、渡された辞書を本棚にしまう。
ふ〜んだ、別に良いモン! 弟に誉められたって、嬉しくなんかないもんね。
誉めてもらえて嬉しいのは、一人だけだモン!
・・・でも、明日は北条さん、言ってくれるかな?
去年みたいに・・・可愛いって。
言って欲しいなぁ・・・。
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をとめの戦い
<3:幸せのシーサイド!>
書き人:柊雅史
(注:季節外れでゴメンなさい!)
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昨日の神様へのお願いが届いたのか、昨日作ったテルテル坊主さんが頑張ってくれたのか、今日はとっても良いお天気だった。
曇りでも海には入れるくらい、もう暑くなってるんだけど、やっぱり海に行くならお天気の方が良いもんね?
日に焼けないように、ちゃんと日焼け止めも持ったし、今朝も油断しないでトースト一枚だけにしておいたし。
早く北条さん、来ないカナ・・・。
「お〜い、楓子ちゃん!」
北条さんのこと、思い浮かべた瞬間に名前を呼ばれて、かぁって頬が熱くなる。
呼んだのは、やっぱり北条さん。多分、さっき来たバスに乗って来たのかな?
「ゴメン、待った?」
「ううん、わたしも今来たところだよ。・・・でも、来てくれて良かった!」
「え、なんで?」
「うん、わたしっておっちょこちょいでしょ? 待ち合わせ場所、間違ってたらどうしようって、思ってたの」
わたしの言葉に北条さんが笑う。
「そっかぁ、僕も待ち合わせの時間、間違えちゃったのかと思ったよ」
「えへへ、迷っても良いように、ちょっとだけ早めに来たの。大丈夫、時間ぴったりだよ?」
「うん、良かった良かった」
わたしが差し出した時計を見て、北条さんがほっと息を吐く。
手に触れた吐息が、なんかちょっと、くすぐったかった。
「それじゃ、行こう? どうせならいっぱい遊びたいよね?」
「うんうん、賛成〜! すっごく楽しみ〜」
北条さんに促されて、二人で並んで駅に向かう。
ホントはね、手とか繋ぎたいな、って思うこともあるんだけど。
やっぱり、まだそれはちょっと、恥かしいんだよね。
わたしももうちょっと、積極的だったら良かったな。
それに・・・北条さんだって。
「手、繋ごう」って言われたら、「うん」って答えるのに。
そのくらいなら、わたしにも出来るのに・・・ね。
★ ☆ ★
電車に乗って1時間。その間は野球部のこととか、他愛ない話をした。
こうして一緒に出掛けられるのも嬉しいけど、来年はそんなことも出来ないくらい、忙しいと良いよね。
甲子園出場を決めて。約束、だもんね。
・・・そんなことを話していると、すぐに目的の駅へ到着した。
やっぱり、北条さんと話していると時間が経つのが早い。
時間の神様、ちゃんとお仕事、平等にしてくれてる?
なんて、ちょっとだけ神様にあっかんべして、北条さんと別れて水着に着替えに行く。
でも・・・どうしよっかな。
やっぱり・・・まだちょっと、恥かしいし・・・パーカー、着ていこうカナ・・・。
物凄く迷ったけど、結局パーカーは羽織って行くことにする。
だって、ほら、今日は日差しが強いでしょう? 休む時に使うじゃない? だから、だよ?
大丈夫だモン、ダイエットもちゃんとしたし、泳ぐ時は脱ぐんだから。
日焼け止めとかタオルとかを小さなバッグに入れて、更衣室を出る。
わたしって日焼けすると真っ赤になっちゃうんだよね。だから、日焼け止めは必須アイテムなの。
野球部の練習の時も、ちゃんとつけてるんだよ?
「お〜い、楓子ちゃん、こっちこっち!」
更衣室を出て砂浜の待ち合わせ場所に行くと、北条さんが手を振って呼んでくれた。
大きな声でちょっと恥ずかしかったけど・・・えへへ、恋人同士に見えちゃったカナ?
「ゴメンね、遅くなっちゃった」
「ううん、気にしないで良いよ。・・・ところで、楓子ちゃん・・・?」
わたしを見て、北条さんが困ったような顔になる。
「あ、今日は日差しが強いから。泳ぐ時はちゃんと脱ぐよ?」
「あはは、やっぱり覚えてたんだ?」
「うん!」
だって、北条さんが「可愛いよ」って、言ってくれた時だモンね。
忘れるワケ、ないよ。
北条さんが立ててくれたパラソルの支柱にバッグを結んで、早速海に入ることになった。
不用心かもしれないけど、貴重品はちゃんと海の家に預けてあるから大丈夫。
海に入るからにはパーカーを脱がないといけないんだけど・・・やっぱりちょっと、恥かしい、カナ。
「えっと・・・変、じゃないカナ?」
「全然! すっごく似合ってる。可愛いよ!」
「えへ・・・ありがとう!」
北条さんが照れながら、「可愛い」って言ってくれた。
その一言で、今日までの努力が報われたって感じがする。
「じゃあ早速泳ごうか!」
「う、うん。・・・あ、ちょっと待って。えっと、日焼け止め、塗るから」
「あ、そっか。今日は日差し強いもんね」
「うん。わたしってすぐに真っ赤になっちゃうの。去年はちょっと曇ってたから、大丈夫だったけど、今日はすっごくお天気良いから。・・・北条さんは塗らなくて平気?」
「う〜ん、念のため塗っておこうかな・・・。赤くはならないんだけど、すぐに剥けちゃうんだよね」
「じゃあこれ、使って良いよ。海に入っても、あんまり落ちないんだよ、これ」
塗り終わった日焼け止めを北条さんに貸して上げる。
北条さんは腕とか首とかに日焼け止めを塗って、それからよいしょって腕を回して、背中にも塗る。
苦労して背中に手を伸ばす北条さんに、思わず笑いが零れちゃった。
「・・・な、なに・・・? なにか、変?」
「だって・・・それじゃあ背中、斑になっちゃうよ?」
「う・・・それはちょっと嫌だなぁ・・・」
「だよね? じゃあ・・・塗ってあげようか?」
「え? う、うん・・・」
北条さんが照れたように頭を掻きながら、日焼け止めを渡す。わたしもちょっと、顔が赤くなってるかもしれない。
ぺたぺたって、北条さんの広い背中に日焼け止めを塗ってあげる。
最近は雨の日も筋肉トレーニングをしている北条さんの背中は、やっぱり筋肉質で物凄く広い。
これってちょっと、お父さん、って感じがする。
「・・・はい、これで大丈夫だよ」
「うん、ありがとう。・・・あ、ところで楓子ちゃんは大丈夫なの?」
「え・・・?」
「その・・・背中・・・」
真っ赤になって言う北条さんに、わたしの顔がかぁ〜って熱くなる。
「もう・・・北条さんのエッチ!」
「あ、いや・・・そういうんじゃなくて・・・」
「知らない! あっかんべ〜!」
照れ隠しも含めて、べ〜ってして、海に向かって駆け出す。
「あ、楓子ちゃん! 待ってよ、誤解だよ!」
「ふ〜んだ、知らないモン!」
「楓子ちゃ〜ん!」
二人で追いかけっこをするように、熱い砂浜を抜けて海へざぶん、と飛び込む。
「きゃ! 冷た〜い!」
子供みたいにはしゃぎながら、わたしと北条さんはしばらく砂浜で遊び回った。
★ ☆ ★
「あ〜、疲れた〜!」
波打ち際で遊んだ後パラソルに戻って、北条さんがシートの隅っこにゴロン、って転がった。
「ホント、疲れちゃったね。でも、物凄く楽しかった!」
北条さんの隣に腰を下ろして、わたしもふ〜って息をつく。
「楓子ちゃん、子供みたいにはしゃぐんだもんな〜」
「あ、ひど〜い! 北条さんだって、子供みたいだったよ?」
「そ、そう・・・? あ、ところでそろそろお昼にしない? お腹空いたでしょ?」
「あ、話そらしたぁ〜」
「あはは・・・ばれちゃった?」
「もう、しょうがないんだから! でもホント、お腹空いたね。・・・けど、どこも物凄く混んでるよ?」
実際、ちょうどお昼時だから、どこの海の家も行列が出来るくらいに混んでいる。
「う〜ん、ホントだ。どうしよっか?」
「せっかくだもん、もうちょっと遊んでからにしよう? 1時間もすれば、きっともう少し、空くよ」
「そうだね・・・。じゃ、少し休んだらもう一回泳ごうか」
北条さんが頷いて、持って来た水筒を取り出す。まだ十分に冷たい麦茶でしばらく休んで、もう一度海に入ることにした。
だってせっかく海に来たんだモン、いっぱい遊ばないともったいないでしょ?
確かにちょっとお腹は空いてたケド・・・大丈夫、昨日までのダイエットに比べれば、まだまだだモン!
「・・・よし、そろそろ行こうか!」
体についた水滴が乾ききった頃、北条さんがよっと立ち上がって言った。
「うん、そうだね!」
わたしも羽織っていたパーカーを脱いで、立ち上がる。
その瞬間、急に足元がぐらり、って揺らいだ。
「・・・あ!」
「楓子ちゃん!?」
転びそうになったわたしを、慌てて北条さんが支えてくれる。
まるで北条さんにすがり付くような恰好になっちゃって、頭が一気にかぁ〜って、沸騰しそうになる。
「・・・大丈夫?」
心配そうな北条さんの声に我に返って、慌てて北条さんから離れる。
「あ、平気平気! ちょ、ちょっと急に立ち上がったから、立ち眩みしちゃっただけだから・・・」
「でも・・・もうちょっと、休んだ方が・・・」
「ううん、ホントに平気だから。ゴメンね、びっくりさせちゃって」
「それは良いけど・・・本当に大丈夫?」
「うん、もう大丈夫だから! えっと・・・支えてくれてありがとう、ね?」
「あ、うん・・・」
「ほら・・・また競争だよ! 急がないとおいてっちゃうよ〜!」
心配そうな北条さんを安心させるのと、やっぱり照れ隠しに、わたしはまた海に向かって駆け出す。
「あ、楓子ちゃん! 走ったら危ないよ!」
北条さんの慌てた声を背中に聞いて、ドキドキしてる胸を押さえながら海に入る。
・・・さっきは、物凄くびっくりしちゃった。
急にぐらって来たのもそうだけど・・・。
倒れかけたわたしを、咄嗟に、片手で支えてくれた北条さんの、力強さに・・・。
当たり前のことなんだけど、やっぱり、北条さんも男の子なんだって、再確認しちゃったみたいで。
びっくりして、ドキドキした。
北条さんと顔を合わせるのがちょっと恥ずかしくて、鬼ごっこをするみたいに沖の方へ泳いで行く。
でも、沖って言っても、そんなに深いところはないんだよね。一番深いところで、ぎりぎり足が届かなくなるくらい。
北条さんなら、きっと足が届くんじゃないカナ?
わたしはあんまり運動が得意じゃないし、八重さんとかに比べるとやっぱり全然下手なんだけど、水泳は普通の人くらいには泳げる。
北条さんは泳ぎも上手なんだけど、手加減してくれているのか、振り返って水をかけると、派手な仕草で嫌がる。
いつも、わたしに合わせてくれる。そういうところが、優しいんだよね。
「えへへ、捕まえてごらん〜!」
ばしゃばしゃって北条さんに水をかけてから、顔をつけないクロールで泳ぎ出す。
「くそ〜、捕まえてやるー!」
北条さんが追いかけてくる水音が聞こえて、わたしはスピードを上げた。
聞こえてくる水音はぐんぐん近付いてきて、このままじゃすぐに追いつかれちゃう。
だから、わたしはくるって反転して、北条さんを待ち構えようとした。
クロールを止めて、溜めていた息を吐き出す。
そして北条さんもクロールを止めて、顔をあげる。
そこに水をかけちゃおうって、思った瞬間。
ぐら・・・。
また急に、さっき感じたような揺れる感覚、って言うか、全身が冷たくなるような喪失感がわたしを襲う。
あ、まただ・・・って、思った時には、突然口の中に塩辛い海の水が飛び込んで来た。
突然のことに、思わず水を飲み込んでしまう。辛い・・・って思った時には、急に体から力が抜けて、冷たい水が頭の先までを包み込んでいた。
「・・・楓子ちゃん!」
って。
北条さんの声が聞こえたような気がしたけど・・・変だよね、水の中なのに聞こえるはず、ないのに・・・。
おかしいな、って思ったところで、目の前がす〜って暗くなった。
>つづく<
3話はいかがでしたでしょう? ラブラブな雰囲気、出てましたでしょうか?
「くそ〜、羨ましいぞ!」って、みんなが思ってくれれば大成功なのですが・・・。
続く最終話は1話と同じくちょっと短めになるかもしれません。
まだ分かりませんが・・・。
とりあえず今回残った最大の謎。
楓子ちゃんの弟達の名前は、一体なんなのだろう・・・?
公式設定はあるのか!? それとも勝手に考えて良いのか!?
今回は誤魔化したけど・・・いると分かった以上、今後も出てくるでしょうな。次も誤魔化せるだろうか?
弟の名前、知ってる人は至急教えて下さ〜い!
それでは、書いている内にネタよりも甘い会話シーンの方が楽しくなっちゃって、「あれ〜?」とか首を捻っている、
柊雅史でした★
作者:柊雅史