バレンタインに贈るとってもあま〜いものって、なぁ〜んだ☆
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Sweet Valentine's Day
書き人:柊雅史
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そろそろ届いている頃かなぁ・・・。
壁の時計を眺めながら、わたしはドキドキする胸をそっと押さえた。
時間帯指定の郵便屋さんて、どのくらい正確なんだろう。
事故にあっちゃったりしてないかな。
どこかに紛れちゃっていないかな。
あの人の帰りが遅くって、届かずじまい・・・なんてこと、ないよね。
去年はね、結局ちゃんと渡せなかった。
「野球部だから・・・」なんて、余計なことも言っちゃった。
きっと気持ちは届いていない。
でも、それが臆病なわたしの精一杯だったから。
仕方ないって思ってる。
・・・でも、でもね。
後悔も、してるから。
こうして直接あの人に手渡せない風になっちゃって。
ちゃんと、頑張って勇気を出せば良かったなぁ、って。
そう、思うんだ。
だって今日は、わたしみたいな臆病な女の子が、勇気をもらえる魔法の日。
バレンタインだもん・・・ね。
・・・もう、さすがに届いてるよね。
一生懸命、心をこめて作ったチョコレート。
言葉に出来ない思いを込めて。
会って言えない思いを込めて。
会えないからこそ言える思いを込めて。
甘い、甘いチョコレート。
もう、届いてるよね・・・?
わたしは用意していた袋を取り出した。
あの人に贈ったチョコレートと同じ物。
小さなハートがいっぱいの、チョコレート。
これだけたくさん好きなんだよ、っていう気持ち。
恥ずかしいけど・・・でも、ちょっと鈍いあの人だから、分からない、かな?
残念なような、ほっとするような。
不思議な気持ち。
甘い、甘いチョコレート。
一緒に食べれたらなぁ、って思う。
だから、今日はちょっとだけ、甘い物食べないゾって言う決意を横にやって。
あの人と一緒に食べるの。
甘い、甘いチョコレートを。
・・・・・・。
・・・・・・あれ?
・・・・・・なんだか・・・・・・。
・・・・・・しょっぱい・・・・・?
・・・・・・。
「い、いやぁ〜〜〜〜〜ん!! お砂糖とお塩、間違えちゃった〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
☆ ★ ☆
「あ〜〜〜ん、馬鹿馬鹿馬鹿ばかぁ〜! ちゃんと味見してから贈れば良かったのにぃ〜〜〜〜!」
ポカポカと頭を叩きながら、楓子はぽたぽたと涙を流した。
それはそうだろう。
一生懸命、それこそ何日も前から練習を重ね、徹夜を繰り返して作った手作りチョコ。
親や友人からも好評を頂いて、準備万端本番用を作り上げたところで、砂糖と塩を取り違えるという、基本的な失敗をしてしまったのだから。
「うぅう・・・これじゃあ気持ちが伝わるどころか、ただの嫌がらせだよぅ・・・」
嘆く楓子だった。
楓子の言う通り、例え嫌がらせと受け止められても文句は言えない。
甘党のあの人のために、いっぱいお砂糖を入れた・・・つもりだったのだから。
「うぅ・・・・・・なんで、わたしってばいっつもこうなんだろう・・・・・・」
しょぼん、と楓子は肩を落とす。
元々おっちょこちょいでドジなところがあるっていう自覚はあるのだけど、こういう大事な時には必ずと言って良いほど失敗しているような気がした。
引っ越す直前の夏合宿の時もそうだ。
一生懸命ゴハンを作って食べさせてあげるんだ、って思ったのに、寝坊しちゃって結局お昼のおにぎりしか作れなかった。
いや、もっと遡るならば・・・・・・。
ぷるるるるるるる・・・・・・☆
びっくーーーーーーん!!
しょんぼりと過去の回想に浸っていた楓子だが、その思考を中断するように突然電話が鳴った。
ドキドキする心臓を押さえながら、そっと電話本体に備え付けられたディスプレイを伺ってみる。
「あうぅ・・・・・・やっぱり・・・・・・」
あの人からの電話だった。時間的に考えても、いつもこの時間の電話はあの人からの電話だ。
だから、お母さんも気を使って電話を取ったりしない。
ぷるるるるるるる・・・・・・☆ ぷるるるるるるる・・・・・・☆
いつもなら飛びつくような勢いで取る受話器も、今日ばかりは躊躇いがちになる。
原因は、まだ手の中に残っているチョコレート・・・・・・のような物と、口の中に残るしょっぱい味覚だ。
・・・・・・やっぱり、食べちゃったよね・・・・・・。
どう思っただろう。文句を言われるたらどうしよう。
そう思うとこのまま耳をふさぎたくなる。
でも、もしかしたら・・・・・・。
もしかしたら、まだチョコレートを食べてないのかもしれない。
うんうん、そうだよ。だって、普通こんなチョコもらったら、怒って電話なんかしてくれないモン・・・・・・。
そんな一縷の望みを抱いて・・・・・・それに、やっぱり毎日あの人の声を聞かないと、寂しいから・・・・・・楓子は受話器を取った。
「ハイ・・・・・・佐倉ですけれど・・・・・・」
『あ、楓子ちゃん? 俺オレ、柊』
「う、ウン・・・・・・ひ、久しぶりだね!」
『久しぶり?? いや、昨日も電話したけど・・・・・・』
「あ、ウン、そうだったね! あは、あははは・・・・・・」
楓子は乾いた笑いをもらした。
(でも・・・・・・ウン、いつも通りの柊さんだぁ〜。まだきっと、チョコは食べてないんだよね☆)
幾分楓子は気が楽になった。
だとすれば、今楓子がするべきは、正直に事情を話してチョコを食べないようにお願いするだけである。
バレンタインにチョコを渡せないことになってしまうが・・・・・・大丈夫、ちょっとくらい遅れても気持ちは伝わるハズだ。
「あ、あのね、柊さん? ぅんと・・・・・・今日、柊さんにチョコレート、届いてないかな・・・・・・?」
『うん? 楓子ちゃんからのでしょ? うん、届いてるよ』
「そ、そうなんだ・・・・・・」
危なかった。もし彼がチョコを食べてから電話して来ていたら・・・・・・。
「あ、あのね、そのチョコなんだけど・・・・・・」
『うん、今ちょうど食べてるところだけど・・・・・・?』
「・・・・・・・・・・・・」
ガビーン!
「た、食べてる・・・・・・」
『うん、そうだけど・・・・・・?』
「うぅう・・・・・・た、食べちゃったんだぁ〜・・・・・・」
『え? え? た、食べちゃ駄目だったの・・・・・・?』
楓子の泣きそうな声音に、彼の声も焦りがちになる。
「だって、だって・・・・・・わたし、お砂糖とお塩、間違っちゃって・・・・・・」
『あ、そうなんだ?』
「それでそれで・・・・・・すっごく変な味になっちゃって・・・・・・」
『どうりであんまり甘くないと思ったけど・・・・・・』
「こんなの贈っちゃったら、怒っちゃうし、嫌われちゃうと思って・・・・・・」
『そ、そう?? いや、なんかむしろ嬉しいんだけど・・・・・・?』
「それにそれに、嫌がらせなんじゃないかって思われ・・・・・・って、う、嬉しい・・・・・・?」
えぐえぐと涙を流しかけていた楓子の涙腺がぴたりと止まった。
空耳か聞き間違いでなければ、なんとなく「嬉しい」とか言われたような気がする・・・・・・。
『え、だって、これって楓子ちゃんの手作りってことでしょ?』
「う、ウン・・・・・・そうだけどぉ・・・・・・」
『だったら、嬉しくないはずないじゃない?』
さも当然のように言う彼に、楓子の目がきょとん、と丸くなった。
「で、でもでも・・・・・・お砂糖とお塩間違っちゃったから・・・・・・」
『楓子ちゃんはちょっぴりドジだからね・・・・・・』
「うぅう〜・・・」
『一生懸命になると周りが見えなくなっちゃうから、ちょっと失敗しちゃうんだよね。・・・・・・でもさ、それって一生懸命作ってくれてた、ってことでしょ?』
多分にっこり笑いながら、彼が優しく言う。
『・・・・・・僕のために、さ・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ウン・・・・・・・・・・・・」
カァって頬が赤くなるのを感じながら、それでも楓子は頷いた。
ちょっと失敗しちゃったけれど。
でも、良いんだよね。
一生懸命ココロを込めて贈ったんだから。
このくらい、素直になっても良いんだよね?
だって今日は、バレンタインなんだから・・・・・・・・・。
バレンタインに贈るとってもあま〜いものって、なぁ〜んだ☆
それはね、あなたに贈る甘くて切ない
好きって気持ちだよ☆
*あとがき*
なんか指名を受けたので、急遽ネタ出しから文章化まで一日で仕上げた、「おひコラ☆」的なバレンタインスペシャルSSです。
SSはサイドストーリーぢゃなくてショートストーリーですね、これぢゃ(^−^;
まぁ実質4時間くらいしか時間なかったので、勘弁してくださいましm(_ _)m
あたしの苦労を慮って、運営者の川鍋さんが速攻でUP、14日までに公開してくれることを切に願います。
・・・・・・ちなみに完成したのが13日の9時過ぎです。
が、頑張れ、川鍋さん!!
とまぁ、ちょっぴり練れてない感のある言い訳はこのくらいにして(曝)
皆さんは冒頭の楓子ちゃんからの(?)問いかけに、何を連想しましたか?
「バレンタインに贈るとってもあま〜いものって、なぁ〜んだ☆」
ここでチョコレートと迷わず答えた人は、現実主義者よりです(笑) もっとロマンを抱いていきましょう(笑)
迷わず「女の子の気持ち」などと答えたあなた!!
仲間ですね。一緒にロマンを語りましょう(遠慮する? そりゃ残念)。
実際、バレンタインはチョコを贈る日ではなく、気持ちを贈る日だと思うのだが、どうなんでしょう??
最後に。
「あたしゃ楓子ちゃんの作ったチョコなら、塩入りだろうが謎のジャム入りだろうが喜んで食うぜ!!」
と、言い切れます。
なので、今回の相手役は僕にしました。
なので、守る会の皆様。
チャットで出会い頭に撃つのはやめましょう(笑)
以上、柊でした☆
2001.2.13(強行軍にて)