☆楓子☆
「はぁ・・・、なんかドッキドキするね!」
グラウンドで試合前の練習を行っている両校の選手達を見て、楓子はドキドキする胸を押さえながら、傍らのマネージャー仲間を振り返った。
「えー、そっかなぁ? だって、たかが練習試合じゃない?」
頬を紅潮させて、同意の返事を期待していた楓子だが、返って来たのはのんびりした、いつも通りの友人の声。
「そ、そうだけど・・・・・・、でも、今度の大会に向けての、最後の練習試合だよ?」
「まぁ、確かにそうなんだけどさぁ。でも、レギュラーは先輩ばっかりじゃない? イマイチ、実感湧かないよねー。今度の大会で最後だ、って言われてもさぁ」
「でもでも・・・・・・、やっぱりドキドキするよぉ! 先輩達、勝てるかな? 大丈夫だよね?」
「そんなの、やってみなくちゃ分からないわよ」
「もう・・・! どうしてカナちゃんってそんなに落ち着いていられるの? 信じられないよぉ」
「わたしにゃ練習試合の度に興奮している楓子の方が、信じられないけどね・・・・・・」
むぅ、と顔をしかめた楓子に、友人はちょっと呆れたような声で答えた。
「・・・・・・だって、みんな頑張って来たの、見てるモン。だから、勝ってもらいたいんだもん・・・」
楓子は拗ねたように、小声で言い返した。
今日は楓子の通う中学、中込中学校野球部の練習試合の日である。
相手は昨年、県大会でベスト4入りを果たした上中里中学。一月後に控えた3年生最後の夏の大会への試金石として、これ以上ないような強敵である。しかも、会場は相手校。県大会ベスト4だけあって、ちらほらと見学している生徒達もいた。
これでドキドキしなくちゃ嘘だよねと、楓子は思うのだが、残念なことにマネージャー仲間の同級生には、その想いは伝わらなかったようだ。
仕方ないので、一人でドキドキしながら、練習を続ける先輩達に声援を送る。
練習試合で大声援とは、マネージャー仲間が言う通りちょっぴり浮いてしまっているかもしれないが、そういう性分なのだから仕方ない。勝ち負けに拘っているわけではないが、やっぱり全力を出しきって欲しいと思うのだ。
(うん・・・、高宮先輩、今日も調子良さそう! 4番の磯貝先輩も良い当りしてるし、今日はきっと良い試合が出来るよね!)
頼もしい先輩達の様子に鼓動を早めながら、楓子はうんうん、と頷いている。
楓子のボルテージは、実際に試合をする選手達よりも遥かに急速に、試合が近付くに連れ高まっていったのだが・・・・・・。
極度の緊張と興奮からか、しばらくすると・・・・・・・おトイレに行きたくなってしまった楓子だった。
「・・・・・・カナちゃん、カナちゃん!」
そろそろ試合開始時間ということで、楓子は慌てて同僚のカナちゃんのところに駆けていった。
「なぁに、楓子?」
「う、うん・・・。あのね、わたし、ちょっとお手洗いに行ってくるけど、ちょっと任せちゃって、良いかな?」
申し訳なさそうに言う楓子に、カナちゃんはくすくすと笑って頷いた。
「はいはい、楓子はいっつもそうだもんね〜。早くしないと、試合始まっちゃうよ? ここは良いから、行ってきなよ」
「うん、ありがとう! すぐに戻ってくるからね!」
楓子はほっと安堵の息を吐くと、急いで体育館の方へ走っていった。
「全く、楓子ってばホント、忙しないんだから・・・。ま、それがあの子の良いところなんだろうけどね・・・・・・」
走りながら練習中の先輩達に声を掛け、それでギャラリーにぶつかりそうになっている楓子を見送って、カナちゃんは苦笑を浮かべた。
無事お手洗いを出た楓子は、そろそろ試合時間かな〜と思いつつ、グラウンドへの帰路を歩いていた。
気持ちは急いでいるのだが、仮にもここは相手の学校。ドタドタと走るわけにも行かないので、体育館脇の渡り廊下をゆっくりと進む。
そうして、楓子が体育館の入り口辺りに差し掛かった頃だった。
「はい、次、行くよ! ブロック、ちゃんとついて来てっ!」
鋭い掛け声が、体育館の方から聞こえてくる。
そう言えばおトイレに行く時、体育館でも部活動をしてたっけ・・・と思いつつ、人並みに好奇心のある楓子は、体育館の中をそっと覗いてみた。
ばしっ!!
途端、そんな鋭い音が聞こえて。
真っ白なボールが、楓子に向かって飛んで来た。
「え・・・!?」
びっくりして、反射的に身を堅くする楓子。
ぎゅっと目を閉じた楓子だが、ボールは幸いにも楓子の脇、入り口付近の壁にぶつかっただけだ。
「・・・・・・はぁ〜、びっくりしたぁ〜・・・・・・」
ボールが壁に当たったと知って、楓子は安堵の息を吐く。
そして目を開けて視線を体育館の中に投じると、一人の女性が慌ててこちらにやってくるところだった。
「・・・すいません! ボール、当たらなかったですか!?」
溌剌とした声で声を掛けて来たのは、スラリと背の高い、ショートカットの女の子だった。
いや・・・・・・、楓子からみると、女の子ではなく女性である。
(うわ・・・・・・、すっごく綺麗な女性(ヒト)・・・・・・!)
額から流れ落ちた汗が爽やかに光り、短く揃えられた髪が健康的な雰囲気を醸し出している。運動選手らしく引き締まった手足に、この年代の少女としては頭一つ分ほど高い身長。
例えるなら猫科の動物だろうか。俊敏さが体中から滲み出ている。
それに、ちょっと大人びた顔立ちは、楓子が見たことのないようなほど、整っていた。
(ホントに・・・こんな綺麗な女性って、いるんだぁ・・・。羨ましいなぁ・・・・・・)
こんな時だというのに、楓子は思わずその女性に見とれてしまった。その様子に、女性が心配そうに話しかけてくる。
「あの、大丈夫ですか? もしかして、当たっちゃいました?」
「あ・・・! い、いえ、大丈夫です! あの・・・、この通り、ピンピンしてます!」
はっと我に返り、思わずぐっと元気さをアピールしてしまう楓子。
再び我に返って、カァーッと頬を熱くした。
「・・・そう、良かった。ごめんなさい、驚きましたよね? ちょっとレシーブが横にそれちゃって・・・」
楓子の様子に微笑しながら、その女性がぺこりと頭を下げる。
「い、いえ! ホントに、全然大丈夫ですから! その、覗いていたわたしも悪いんだし!」
恐縮した楓子は、慌てて両手を振る。
(あ・・・! また子供っぽいこと、しちゃってる・・・・・・!)
自分の仕草を顧みて、楓子は再び頬を染めると、振っていた手をおずおずと下ろした。
そんな楓子に、女性はにこりと笑いかける。
「もしかして、バレーボール、好きなんですか? 良かったら、練習、見て行って下さい」
「あ、いえ! あ、じゃなくて、バレーボールはやったことなくて、わたし、野球部の練習試合に来てて、別に、嫌いってわけじゃなくて、その、バレーボールのことは、良く分からないって言うか・・・・・・」
いったん首を振った楓子だが、取りようによっては「バレーボールが嫌い」と思われてしまうと気付き、慌てて言い直した。
もっとも、自分で呆れて、恥かしくなるくらい、支離滅裂だったが。
それでも、女性は優しい笑みを浮かべた。
「そうですか・・・。見学は他校の人でも自由ですから、気にしないで見ていて下さいね?」
「あ、はい! ありがとうございます!」
それじゃあと、練習に戻っていく女性を見送って、楓子はほ〜と息を吐き出した。
「はぁ・・・、すっごく素敵な女性だったなぁ・・・。わたしも、あんな風になれないかな・・・・・・」
練習に戻って、ずば抜けて鋭いスパイクを披露するその女性に、「そんなの無理だよね・・・」と、羨望と落胆の入り交じった溜息を吐く。
実際、その女性は綺麗なだけでなく、バレーの実力もかなりのものだった。
しなやかな肢体は美しいフォームで宙を舞い、弓弦のように引き絞られた体から、鋭いスパイクが放たれる。
迸る汗なのか、それとも真剣な彼女の表情に錯覚しているだけなのか、まるで宝石のようなきらめきが、彼女の周囲を舞っているかのようだ。
ちょっと子供っぽくて、イマイチ太めのスタイルで、どちらかと言うと運動の苦手な楓子が思い描く、理想像のような。
なのに、素直な感嘆と羨望の念は湧いてきても、嫉妬や妬みは湧いてこない。
そういう曲った感情を跳ね返すような、爽やかな空気と笑みを、その女性は纏っていた。
「ホントに綺麗・・・・・・。天使がいたら、あんな感じかなぁ・・・・・・」
しばらくぽ〜っと女性のプレーに目と心を奪われていた楓子だが。
はっと我に返り、自分の今置かれていた状況を思い出した。
「い、いっけな〜い! 急がないと試合、始まっちゃう!!」
彼女のプレーにはかなり未練はあったけれど、マネージャーとしての責務を思い出した楓子は、慌ててその場を立ち去った。
☆花桜梨☆
「・・・はい、それじゃ今日はここまで!」
5時を告げる鐘の音を聞いて、花桜梨は練習中の部員達に言った。
3年生の出場する最後の大会までは、残り1週間余り。ここまで来たら、厳しい練習よりも疲れを残さない程度の練習の方が良い。
先月から新キャプテンになった花桜梨は、副キャプテンや先輩と相談して、そういう練習メニューを組んでいた。
「それじゃあ、今日の練習はここまでにします。一年生はコートのモップがけと、ネットの片付けをお願いね。・・・あ、ネットは朝練でも使うから、緩めるだけで良いから」
「先輩、もうちょっと練習したいんですけど!」
と手を挙げたのは、まだ余り練習に参加できない一年生だった。
「そうね・・・・・・、じゃあちょっとだけなら良いわよ。でも、あまり無理して怪我はしないようにね」
「はい! あ、先輩、出来たら練習、見ててくれませんか?」
「んー、ゴメンね。今日はちょっと先輩達と打ち合わせがあるから・・・・・・」
花桜梨は申し訳なさそうに言い、それから解散を告げた。
1年生がそれぞれボールを持ち、自主練習に入る。2・3年生は試合前の緊張感からか、まだちょっと練習に未練がある様子だったが、花桜梨と前キャプテンに「一年生に譲ってあげましょ」といわれ、渋々更衣室に向かう。
花桜梨も、もう一度だけ一年生に1時間くらいで切り上げるように伝え、更衣室に向かった。
体育館にはありがたいことにシャワールームがある。とはいえ、それほど数は多くないので、使うのは順番だ。
花桜梨は更衣室のベンチに腰掛けると、ふぅ、と疲れたように溜息を吐いた。
「・・・・・・あら、色っぽい溜息はくわね?」
ぽん、と後ろから肩を叩き、からかうような口調で、前キャプテンが花桜梨の横顔を覗き込んだ。
「先輩・・・、もう、からかわないで下さい」
「はは、ゴメンね〜。花桜梨ってば可愛いから、ついからかいたくなるのよね〜」
笑いながら先輩もベンチに腰掛ける。
そしてしばし花桜梨の横顔を伺ってから、言った。
「・・・・・・どう、キャプテンの仕事は?」
「まだ良く分からないです・・・」
「そう? まぁ、そうかもね。わたしも未だに、キャプテンの何たるかが分からないまま、今に至ってるもんね・・・」
苦笑しながら、先輩は花桜梨の頭を軽く叩いた。
「ま、そういうことだから。キャプテンなんてそんなもんよ? そのくらいじゃないと、花桜梨みたいな後輩が育たないからね〜。って、そりゃ単なる言い訳だって」
笑いながら言い、先輩は「んじゃね」とシャワールームの方へ向かった。
「お疲れ様でした」と声を掛けて、花桜梨はもう一度溜息を吐く。
多分、先輩はそんなに根を詰めなくて良いから、と言ってくれたのだろう。
そんな気はない。花桜梨は普通にしているつもりだ。
でも、だけど・・・・・・。
ちょっとだけ、前よりも溜息が増えたのは、花桜梨も気付いていた。
花桜梨は一年の頃から、エースに抜擢された。
初めは先輩や同級生からも、嫉妬の混じった目で見られたが、一途に練習に打ち込む花桜梨に、その目も次第に好意的なものに変わって行った。
別に深く考えてのことではない。ただ花桜梨はバレーボールが好きで、好きなことに没頭していただけだ。
だからこそ、だろう。周囲の花桜梨への信頼は増していった。
同時に、期待も。
チームのエースとしての、信頼と期待。
それに応えるべく、花桜梨は頑張って来た。また、頑張るのが楽しかった。
そして・・・当然のように、キャプテンに選ばれ。
キャプテンとしての、信頼と期待。
それまでのエースとしての立場に、新しい立場が重なることになった。
頑張れば頑張るほど、応えれば応えるほどに増していく、信頼と期待。
重圧。
「花桜梨なら出来る」「花桜梨なら大丈夫」「花桜梨に任せておけばなんとかしてくれる」・・・・・・。
そんなに自分は特別じゃないと、心の中で首を振る自分がいる。
そんなに期待をしないでと、怯える自分がいる。
少しずつ、少しずつ。
疲れて来ている自分がいる・・・・・・。
「・・・・・・り、花桜梨!」
軽いまどろみのような状態にいた花桜梨は、肩を揺すられてはっと瞼を開いた。
「もう・・・! そんな汗まみれで寝ちゃったら、風邪引くわよ! 花桜梨がダウンしちゃったら、来週の大会、困るんだから!」
花桜梨を起こした同級生は、ちょっと怒ったような顔でそう言った。
「あ・・・・・・、うん。ゴメン・・・」
「まぁ、疲れてるのは分かるけど。キャプテンの仕事、まだ慣れてないだろうし。でも、ちゃんと健康管理はしなくっちゃ! 大丈夫よ、花桜梨ならすぐに慣れるってば!」
「うん・・・・・・、ありがとう」
花桜梨は笑みを浮かべて頷いた。
・・・・・・私なら、大丈夫なの?
・・・・・・そんなに期待、しないで・・・・・・。
心に浮かぶ声を、心の奥に押し込めながら・・・・・・。
気だるい疲労感を感じながら、花桜梨は帰路についていた。
先輩達とのミーティングは思いの他早く終わったが、既にシャワーを浴び終わった後なので、一年生の練習には顔を出さなかった。
・・・それに少しだけ、そんな気分でもない。
肉体的な疲労とは違う、体の奥底でくすぶっている気だるさ。
そんなものを感じながら、体育館を出て校門に向かう。
そして校庭にやって来た時。
「よ〜し、みんな、逆転だよ! 大丈夫、みんななら絶対絶対、出来るから! 声出して、頑張っていこうっ!」
そんな溌剌とした声が、花桜梨の耳に届いた。
そう言えば、今日は野球部の練習試合があるんだっけ・・・・・・。
ふと、練習中に話をした、他校のマネージャーを思い浮かべ、花桜梨はグラウンドに視線を移した。
そろそろ6時になるが、まだ試合は終わっていない様子だった。
そしてその中に、花桜梨は思い浮かべた少女の姿を、容易に見出すことが出来た。
「西山さん、ファイトぉ!!!」
ノートを丸めた即席メガホンで、一際大きな声援を送っていたからだ。
「きゃあ! 西山さん、ナイスバッティング!! 山崎さん、続いていこう! チャンスだよ、チャンス! 積極的に、ね!」
興奮して頬を染め、彼女は恐らく先輩にも、同級生にも、同じように声援を送る。後輩・・・がいるようには思えないが、多分後輩がいても、同じように声援を送っていることだろう。
その練習試合には不釣り合いな興奮振りに笑みを浮かべていると、打席に立ったバッターが、鋭いレフトライナーに倒れた。
「あぁん、惜しいっ! 山崎さん、ナイスバッティング! 流れはこっちに来てるよ、しまっていこう!」
惜しくも先頭打者に続けなかったバッターにも、ヒットを打ったバッターと同じように拍手と声援を送る。
良いな・・・と、花桜梨は思いがけない感想を抱いた。
純粋に応援している姿。
結果だけを求めていない、真っ直ぐな声援。
結果が良くても悪くても、全力を傾けたことをちゃんと見ていてくれて、認めてくれる。
本当に、真っ直ぐで、純粋な声援・・・・・・。
バレーを始めた頃には、みんなからあんな声援をもらっていて、それで頑張れていたような気がした。
久しく忘れていた、応援されることの嬉しさ。
それを感じさせる、本当の声。
どこが違うとか、はっきりとは分からないけれど、確かに彼女の声援は心に響いてくる。
自分に向けられたものでなくても。
頑張れ、頑張れ、と。
頑張っている誰もに送られているような。
純粋で、真っ直ぐな声援・・・・・・。
その声を受けて、活き活きと野球に打ち込んでいる選手達が、花桜梨には羨ましかった。
☆楓子と花桜梨☆
「・・・今日はさ、すっごく良い試合だったよね!」
練習試合を終え、学校へ戻る道中で楓子はカナちゃんに言った。
「そうかな〜。結局大敗だったじゃない・・・」
「そうだけど、でも、みんなすっごく良いプレーしてたでしょ? この調子なら、きっと大会でも良いところまで行けると思うな!」
「・・・全く、楓子は楽観的なんだから・・・」
苦笑しながら、カナちゃんはふと、試合中感じていたことを思い出した。
「そう言えば・・・楓子。あんた、今日はいつにも増してハイテンションだったよね? 何かあったの?」
「え、そっかな〜?」
楓子はちょっと首を捻ってから、にこりと、嬉しさいっぱいの笑みを浮かべた。
「えへへ、実はね、今日、すっごく綺麗で、カッコイイ女の人に会えたの!」
「ふ〜ん。・・・・なんだ、女の人か・・・」
「うん! あのね、もう、本当に綺麗で、優しくて、かっこ良くて・・・! あのね、天使みたいな人だったんだよ!」
興奮する楓子に、カナちゃんは「やれやれ」というように、肩を竦めた。
「・・・あれ、先輩!? 帰ったんじゃないんですか!?」
一年生が練習中の体育館に花桜梨が顔を出すと、一年生達が驚きと歓びの入り交じった顔で集まって来た。
「うん・・・、ちょっとね。やっぱり、練習見てあげようと思って。だって、みんな頑張ってるからね」
「え、ホントですか!? うわ〜、うっれしぃ! 先輩先輩、じゃあ、ちょっとスパイクの打ち方、教えて下さい!」
「ええ、良いわよ。じゃあ、トス上げるから、順番に打ってみて」
いつにも増して優しい笑みを浮かべる花桜梨に、一年生達は揃って「やった〜!」と声を上げる。
なにしろ花桜梨は、県の選抜に選ばれるほどのエーススパイカーである。
「は〜い! やった〜、先輩に見てもらえれば百人力ですよ〜!」
にこにこ笑う後輩を優しく見詰め、花桜梨はふと、尋ねた。
「・・・・・・そう言えば、さ。天使って、いると思う?」
「え!? 天使、ですか・・・?」
きょとん、とする後輩に花桜梨は優しく言った。
「私はね、いると思うわ。誰でも同じように、優しく包み込んでくれるような・・・優しい天使みたいな人・・・・・・」
突然らしくないことを言い出した花桜梨に、その後輩は目を瞬いた。