この物語は、日曜日の一本の電話から始まる。

「プルプルプル、プルプルプル、プルプルプル。」
「はいはい、今出ますよ。」
「はい、佐倉です。」
「あっ!佐倉さんのお宅ですか?」
「はい。そうです。」
「わたし、クラスメイトの瑠璃と申します。」
「いつも楓子がお世話になっております。」
「楓子を呼びましょうか?」
「いえ。今日は、お母さんにお願いがあってお電話したのですが・・・」
「えっ!どのようなご用件で?」
「今度の火曜日は、佐倉ちゃんのお誕生日ですよね?」
「そうですね。」
「実は,その日は、学校が休みなんです。」
「はい、それは、知っています。」
「でも、楓子ちゃんは、知らないみたいなんです。」
「はっはっはっ。楓子らしいわね〜」
「そこで、楓子ちゃんを一日お借りしたいのですが・・・」
「はいはい、いいですよ。それだけですか?」
「本題は、ここからなんですが・・・」
「はい?」
「その日は、家族で誕生日会を開くって聞いたのですが・・・」
「はい。」
「私たちも参加したいのですが・・・」
「それは、どうぞ遠慮無く。」
「それだけではなく、お母さんにご協力してもらいたいんですが・・・」
「はい?」
「お母さんには、普通にしていてもらいたいんですが・・・」
「えっ!普通って?」
「そうです。何があっても普通にしていてもらいたいのですが・・・」
「具体的には、何をすれば良いのかしら?」
「いつも、楓子ちゃん朝練習に行ってますよね?」
「はい。」
「楓子ちゃんが出かけるときに、声を掛けて欲しいんです。」
「どのような?」
「<今日は、早く帰ってくるのよ。何があるのか分かっているわね?>って」
「そんなので良いの?」
「はい、ただ、わたしたちがいる事は内緒にして欲しいんです。」
「はいはい、分かりました。」
「それでは、よろしくお願いします。長々とスイマセンでした。」
「いえいえ、これからも楓子をよろしくお願いしますね」
「はい、それでは、失礼します。」
「おやすみなさい。」

そして、次の日の昼休みの教室にて

「楓子ちゃん、あした、いっしょに遊園地に行かない?」
「え〜。あしたの放課後?」
「ちがうわよ、朝からよ!」
「だって、あした学校あるのにどうするの?」
「サボっちゃおうよ」
「え〜でも〜」
「デモもストライキも無いのよ」
「先生に怒られちゃう。」
「良いの、良いの!たまには生き抜きも必要よ!楓子ちゃんは、行きたくないの?」
「遊園地には、生きたいけど・・・」
「じゃあ、あした、朝7時に駅に集合よ。いいわね。」
「え〜」
「はい、きまりね!」
「うぅ〜」

そして、放課後、職員室にて

「先生、あしたの朝練習をお休みしても良いですか?」
「ああっ、あしたか?俺はいないから休んで良いぞ。もちろん放課後も無いぞ」
「えっ!いいんですか?」
「ああっ、からだ休めておけよ。マネージャーも大変だからな。」
「はい!有難う御座います。」
「さあっ、練習だ!」
「はい!」

(先生に言えなかった・・・学校サボるの)

そして、佐倉邸の夕食後、居間にて、

「おかあさん?」
「なあに、楓子?」
「あした、私の誕生日だよね?」
「なにをいまさら。」
「ううん、何でも無い」
「おかしな子ね。」
「ごちそうさまでした。」
「あらっ、もういいの?」
「うん。」
「そうそう、あしたも朝練習あるの?」
「えっ!あっ あるよ」
「あるなら、早く寝るのよ」
「うん。おやすみなさい」
「はい、おやすみ」

(おかあさんにも言えなかったな〜学校サボるの)

そして、問題の11月14日の朝

「楓子、起きなさい!」
「楓子、起きなさい!きょうも朝練習あるんじゃないの?」
「えっ!あっ!もうこんな時間!」
「えっ、じゃないわよ。待っている人がいるんじゃないの?」
「えっ!待っているって?」
「おともだちでしょ。」
「うっ、ウン。」
「気を付けていくのよ。」
「うん」
「みんなに迷惑掛けないのよ。」
「えっ?」
「なんでもないわよ。」
「うん。」
「いってらっしゃい。」
「いってきます。」
「あっ!今日は、早く帰ってくるのよ。何があるのか分かっているわね?」
「うん、わかってるって。」
「たのしんでくるのよ。」
「えっ?」
「なんでもないわよ。」
「うん」

(やっぱり、言えなかったな〜学校さぼるの)

そして、朝の駅にて

「楓子ちゃんおはよう!」
「あっ、瑠璃ちゃん、おはよう。」
「内緒にしてきた?学校サボるの。」
「言えるわけ無いじゃない。」
「それもそうね。」
「あした、先生になんて言われるかなあ〜?」
「なに心配しているの。私が謝ってあげるわよ」
「えっ〜、お母さんもだましちゃっているのにぃ。」
「そっちは、大丈夫!」
「えっ?」
「ううん、何でもないわよ!」
「そお?なんか変だよ。」
「なんでもないわよ!」
「強く否定するのが、あやしいぞ〜。」
「さあっ、遊園地にGO!」
「ううっ。」

(いいのかなぁ〜、さぼちゃって・・・)

そして、夕方の駅にて

「楓子ちゃん、楽しかった?」
「うん、でも、やっぱり、学校をサボるのはよくないよぉ。」
「そう?そうは見えなかったわよ。あの、はしゃぎ方は・・・」
「たのしかったけどぉ〜」
「いいじゃん、たのしければ・・・」
「そうかなぁ〜」
「そうだよ。」

(そうしよう)

「じゃあ、楓子ちゃん、またあした。」
「瑠璃ちゃんバイバイ。」

(本当にそうだったのかな?)
(やっぱり、お母さんだけには話そう)

そして、佐倉家の玄関にて

「お母さん、ただ今。」
「おかえりなさい」
「あっ、お母さんに謝らなければならないの・・・」
「今日は、楽しかった?」
「えっ!」
「遊園地、どうだった?」
「えっ!えっ!」
「みんなが待っているわよ、早く入りなさい。」
「えっ!えっ!えっ!」
「謝らなければならないのは、わたしのほうよ、楓子」
「楓子ちゃん、遅い!」
「あれ〜、何でみんながいるの?」
「みんな、楓子の誕生日を祝ってくれているのよ。」
「えっ〜〜〜」
「楓子ちゃんは良いな〜」
「なんで?」
「毎回、誕生日が休みだから・・・」
「えっ?瑠璃ちゃん、それってどう言う事?」
「今日は、何の日か知っている?」
「私の誕生日?」
「そう、でもそれだけじゃないの。」
「えっ?」
「今日は,埼玉県の県民の日で、学校は、休みなのよ!」
「えっ、そうなの、お母さん?」
「ええっ、わたしも最近知ったんだけど・・・」
「何で教えてくれなかったの?」
「だって、教えない方が面白そうじゃない。」
「おもしろくない、プンプン!」
「あっ〜、楓子ちゃんがふくれたぁ〜」
「瑠璃ちゃんのいじわるぅ〜」
「それじゃぁ、そのまま、ろうそくを消してもらおうかな。」
「あ〜、お母さんまで〜」

「ハッピーバースデイトゥユー・ハッピーバースデイトゥユー・
 ハッピーバースデイ・ディア・楓子・ハッピーバースデイトゥユー」

「さあ、ろうそくを消して・・・」
「みんな、ありがとう、」
「さあ、はやく。」
「うん、フ〜〜フ〜〜」

「楓子ちゃん、17回目の誕生日おめでとう!」

「みんな・・・ゥゥゥ・・・、みんな・・・ゥゥゥ・・・」
「なに?楓子ちゃん、泣いているの?」
「今度の誕生日は、前夜祭からしてもらうからね?」
「ええっ?」
「だって、私の誕生日は休みなんでしょ?、なら前の日から大丈夫でしょ?」
「楓子ちゃん、キャラ変わった?」
「ううん、みんなと同じになっただけ。」
「えっ?」
「だって、みんな友達でしょう。」
「そうだね、みんな友達だよね。」
「今日は、みんな、楽しんでいってね」
「楓子?」
「なに、お母さん?」
「あしたは学校あるのを忘れないでね!」
「は〜い」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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