11月のある日曜日、野球部の練習も終わって学校からの帰り道、楓子はこちらで最初にできた友達、橘絵里といつものハンバーガー屋でくつろいでいた。
絵里がセットメニューを平らげている間、楓子が烏龍茶を飲みながらその様子を恨めしそうに見ているのもいつも通りだ。
「絵里ってそんなに食べてよく太らないね」
「体質よ……で、例の楓子のカレ、誕生日プレゼントとか送ってきた?」
「ううん、そういうのは全然ないけど」
「ほー……」
絵里の眼鏡がキラリと光った……ように楓子には見えた。
「プレゼントも送って来ないのね。2か月……まぁ、持った方ね」
「え? え? なんのこと?」
「遠距離恋愛してるアンタのカレシの話……それとも、元カレって言った方がいいかな」
「別に彼ってわけじゃないけど、でも元じゃなくて……」
楓子は話の展開に付いて行けず、ただオロオロするばかりだった。
「甘いっ!」
絵里はフライドポテトを一本つまみ上げて、楓子の鼻先に突きつけた。
「恋愛なんて会えなくなったら基本的におしまいなんだから、お互いが努力しないとこういうのはダメなの! 『彼じゃない』なんて言ってる間に、向こうではとっくに新しい彼女ができてるって」
「おしまいじゃないもん!」
楓子は自分のカバンを開けて、いわゆる「定型サイズ」の封筒を取り出し、叩きつけるようにして絵里の目の前に置いた。
「見せてもらうね」
絵里が封筒の中を覗くと、そこにはJRの切符が4枚入っていた。
楓子が以前住んでいた街までの乗車券と特急券がそれぞれ往復分…
…それだけで結構な金額になる。
「へぇ……」
目の前の紙切れと、得意げな笑顔の楓子をしばらくは交互に眺めていた絵里だったが、行きの特急券に目を留めて驚きの声を挙げた。
「楓子、こんなところでノンビリしていて大丈夫なの?」
「えっ?」
「出発は今日の7時でしょ? あと2時間しかないよ」
「ウソっ?」
「11月12日、19:00……ほら、ちゃんとここに書いてあるでしょ」
「あーっ、本当! 教えてくれてありがとう」
楓子は荷物を抱えて慌てて立ち上がった。そのまま走り出そうとする楓子のスカートのすそを絵里が掴む。楓子の悲鳴に店内の客の視線が集まった。
「待ちなさいってば。切符、忘れてるよ」
「あ、うん……えへへ。ごめんね、おみやげ買ってくるから」
「おみやげの心配するヒマがあったら自分の心配しなさいって。ほら、急がないと間に合わないよ」
恐縮しつつ店を出ていった楓子を笑顔で見送り、絵里はほうっとため息をついた。
「『みんなも会いたがっているから。列車の時刻に遅れないように気をつけてね。M・H』……か。そのとおりになりそうね。帰ってきたら前の学校のことも聞き出さなくちゃ」
切符の裏に走り書きされた言葉を思い出しながら、絵里は残っていたコーラを飲み干し、自分も荷物とトレイを持って立ち上がった。