注:)この物語は完全なフィクションです。ひびきの高校レベルでも、フィクションであります。
   このお話はあくまでもギャグです。そのつもりで読みましょう。(切実?)


 

 
 

「・・・ットライーーーク、バッターアウト!」

主審の手が晴天の秋空に向けて突き上げられる。

「よっしゃーーーーー!」

マウンド上では初回の3人を3者三振に切って取った須貝が、ぐっと拳を握って雄たけびを上げた。

「きゃーーー、須貝さん、ナイスピッチングっ!」

ベンチからはマネージャーの楓子の声援が飛ぶ。

須貝はその声援に応えるように、ぐっと拳を楓子に向けた。

「・・・・・・須貝、ナイスピッチングっ!」

 どがし。

なんかいかにも「今回は俺が主役だぜ」みたいなポーズ決めてる須貝に、駆け寄ったファーストの綾野が拳を叩き込んだ。

相手の健闘を称えるための荒々しい歓迎である・・・・・・ように見えたが。

「ぐ・・・・・、鳩尾・・・・・・」

須貝が思い切り顔を歪める。綾野の拳はピンポイントに須貝の鳩尾を捉え、ついでとばかりに抉り込んでいた。

「てめー、須貝! 調子良いじゃねーか! 俺達にボール回さないつもりかぁ?」

綾野と同じくマウンドに駆け寄ったショートの西山がにこやかに須貝に蹴りを入れる。

むろん、こっちも本気で腰の回転を破壊力に転化し、脇腹からレバーに衝撃を叩き込んでいく。

「よーし、須貝! その調子だぞ!」

笑いながら駆け寄った勢いで肘をテンプルに打ち込んだのは、キャッチャーのアミーゴ(愛称)だった。その一撃で吹っ飛んだ須貝に、各ポジションから殺到した部員達が、「いいぞ!」「よくやった!」「この調子で行こうな!」などと激励の言葉を投げ掛けながら、容赦のない蹴りを転がった須貝に叩き込む。

「えへへ・・・・・・、今日はみんな、すっごく気合い入ってるね!」

そんなマウンド上の光景を見て、マネージャーの楓子は嬉しそうに傍らでスコアを付けていた柊を振り返る。

「・・・・・・気合いねぇ・・・・・・。うん、確かに入ってるわな・・・・・・」

苦笑して、柊は初回を終えたばかりだというのにボロボロになってベンチに戻って来る須貝と、にこやかに笑いながら殺気を纏っている他の面々を順に眺めて行った。

「確かに気合いだけは入ってるよな・・・・・・意味はともかくとして」

呟く柊の隣にどっかと須貝が腰を下ろした。

「くっくっく・・・・・・なんとでも言うが良いさ。今日の試合は、俺が、この俺が、主役なんだ・・・・・・」

「須貝さん、ナイスピッチング! お疲れ様っ!」

ぶつぶつ呟いている須貝に、楓子が早速激励の言葉とタオルを渡してくれる。

それを受け取った須貝は、爽やかな笑みを楓子に向けた。

「ありがとう、佐倉さん! 俺、今日は頑張るよ!」

「うん、頑張ってね!」

にっこりと眩しい笑みを浮かべる楓子に、須貝の顔が一瞬幸せ色一色になり・・・・・・楓子が他の部員に呼ばれて顔を逸らした瞬間に、一転して大きく歪む。

横から伸びた柊の足が、容赦なく須貝の足の小指を踏みにじり、ぐりぐりと捻り、ダムダムと踵を叩き込んでいた。

しかもマネージャーのくせに、今日はスパイクなんぞを履いてたりする。

「・・・・・・おひ・・・・・・」

「ああ、すまない、須貝さん。てっきりチャバネゴキブリでも踏んだかと思ったよ」

にこやかに笑いながら、柊は踵で足の小指を攻撃するのを止めない。

「ふ、ふっふっふ・・・・・・何を言おうがしようが、今日の主役は俺だよ、柊さん・・・・・・」

「ああ、そうだな。是非とも頑張ってくれたまへ。マネージャーとして、心から応援させてもらうよ」

にこやかに笑い合う二人の間には、紛れもない殺気が交錯していた。

「さぁ、それじゃー気合い入れて行こ、みんな! まずは先制点、だよ?」

唯一ベンチに漂う殺気に気付かず、元気よくハッパをかける楓子。

「よっしゃ、一番バッター虹野! 意地でも塁に出て来やがれ!」

2番バッターの水無月が、激励の肘打ちを昏倒目的で虹野の延髄辺りに容赦なく叩き込んだ。
 
 
 
 
 

ひびきの高校野球部、11月の練習試合は、異様な熱気と殺意とその他諸々の中で始まった・・・・・・。
 
 
 
 

**********************************
楓子ちゃん誕生日特別SS
 
君へ贈る勝利のために
 
書き人:柊雅史
 
**********************************
 
 
 
 

事の発端は、練習後の何気ない会話だった。

「そう言えば今度の日曜日、佐倉さんの誕生日だったよね?」

グラウンドにトンボをかけていた楓子に、川鍋が思い出したように尋ねた。

「うん、そうだよ? あ、覚えててくれたんだ?」

「そりゃそうだよ。・・・忘れるわけないじゃないか!」

答えたのは川鍋の独断専行、抜け駆けを阻止すべく、間に割って入った柴崎だった。

「そうだ、佐倉さん。何か欲しいものとか、ある? 余り高いものは無理だけどさ」

「そうそう、いつも世話になってるもんね、部員からプレゼントするよ?」

わらわらと楓子の回りに集まり、「抜け駆けするんじゃねー!」ってな殺気を漂わせる部員達(の一部)。

いつものことだなと、部長のK氏は溜息を吐いた。もはや注意する気も起きないらしい。

「まぁ、実害があるわけでもないしな・・・・・・」

呟いたK氏だが、後にそれが間違いであることを身をもって知ることとなる。

「佐倉さん、遠慮しないで言ってみてよ。無理だったら無理って言うからさ」

「う、う〜ん・・・それじゃあ・・・」

「「「「「「「「「「「「「それじゃあ?」」」」」」」」」」

「今度の日曜日、練習試合でしょ? みんなで頑張って、勝ってくれるのが一番のプレゼント、かな?」

「「「「「「「「「「「「「!!!!!!」」」」」」」」」」」

衝撃が走った。

無言の世界の向こう側をちょっと覗いてみると。

(ああ・・・・・・な、なんてイイコなんだ、楓子ちゃん!!)

(そ、そうか・・・・・・・よし、勝ってやる、勝ってやるぞ!!)

(ぬぅ・・・・・・しかし俺はまだレギュラーぢゃねえ・・・・・・)

(・・・アイツが邪魔だな、アイツが)

(やるか?)

(うむ・・・・・・試合当日までは手を組むか・・・・・・)

(そしてその試合で活躍して・・・・・・)

(((((この俺が、楓子ちゃんに勝利をプレゼントするぜ!!!)))))

・・・概ねこんな感じの、結構黒々としたユートピアである。
 
 
 

かくして、一部部員の怪我やら腹痛やらが相次ぐ中、ひびきの高校野球部は11月の練習試合を迎えたのであった。
 
 
 
 
 

ただの練習試合の割には異様な気合いの入ったひびきの高校野球部は、序盤調子良く試合を進めていた。

ピッチャーの須貝は気合いの入ったピッチングで、相手に点を許さない。

「ふっふっふ・・・打率5割の4番バッターか。・・・・・・早々に去れ!!」

 ごずめり。

2回の打順で相手の4番を病院送りにした作戦が効いているようだ。

キャッチャーのアミーゴ(愛称)のリードも冴えていた。

「・・・てめー、須貝! なんでことごとく俺のサインの逆に投げる!?」

「やかましひ! 抑えてるんだからいいだろうが、俺の力でっ!」

「なんだと!? 逆玉ことごとく捕れる俺だから良いものの、我が侭言うんぢゃねーっ!!」

二人のチームワークも、180度の反発が重なって360度になり、バッチリだった。

セカンドの虹野も華麗な守備を披露する。

「・・・・・・よし、このボールは捕れる! 飛び付けば好感度は倍増だね♪」

華麗な守備を売りにする虹野だが、今日はそれに磨きがかかっていた。

・・・・・・磨きがかかっていたのは、演技の方だったかもしれんが、とにかく大活躍である。

三遊間に飛んだ打球を飛びついて捕球し、ファーストへ素早く送りアウトに仕留めたショートの西山。

楓子の歓声に手を振ってるところを、バックアタックでボールぶつけられて血ぃなど流したが、ファインプレーである。

サードの川鍋は川鍋で、堅実にプレーをこなし、守備が終わると真っ先にベンチに引き揚げてくる。三塁側がひびきのベンチであり、楓子の横というポジションを、常にきっちり保護していた。抜け目のない男である。

・・・もっとも、その逆隣には、マネージャーの柊が攻撃の間も守備の間も、「あんたらにゃ譲らない・隣は俺のものだ・フィールド」・・・通称「ATフィールド」を展開して、幸福に浸っていたりする。

今のところATフィールドの浸食を仕掛けた部員達は、ことごとく足の指踏みにじられて撃退されていた。今日の柊が履いているスパイクは、マネージャーが履くものとしては規格外に凶悪なピンの鋭さを誇っているらしい。

他、外野の守備についている柴崎・水無月・子龍(留学生(笑))達3人も、須貝のナイスピッチングで暇ながら、堅実なプレーを続けている。

・・・ちなみにファーストの綾野は、「絶対奴にファインプレーはさせねぇ!」という、他の部員達の目論見によって、小学生でも捕れる送球しか飛んでこず、非常に影の薄い存在に成り果てていた。

「ふ・・・・・・背中が煤けてくるぜ・・・」

なんとなく涙流してる綾野に、部員一同にやりと笑みを浮かべたらしい。

とにかく、「楓子ちゃんに良いところを見せたい!」「彼女に勝利を贈るのはこの俺だ!」という、部員一同の自己中心的な企みが好転し、ひびきの高校は5回まで相手の攻撃をゼロで抑えていた。

もっとも、スコアは現在0−0。ひびきの高校も1点も取れていないのだが。

「・・・・・・ットライーック! バッターアウト!!」

5回の裏の攻撃。先頭バッターの4番アミーゴが、豪快な三振ですごすごとベンチに戻って来た。

「う〜ん、今日はみんな、なんだか大振りだね・・・。守備は調子良いのに、どうしちゃったんだろう・・・・・・?」

4回まで一人のランナーすら出せず、不振を絵に描いたようなひびきの野球部の攻撃に、楓子は心配そうに隣の柊に尋ねた。

「・・・・・・気合いが空回りしている、ってカンジだよねぇ・・・・・・」

超他人事のように頷く柊だった。彼には部員達の心理が手に取るように分かる。皆、「俺の一発で勝利を手にしてやるぜ!」という気持ちでいっぱいなのだ。

「須貝、塁に出ろよー!!」

そんな声援を送る部員達だが、心の目で見てみると、「打つな!」「三振しろ!」「死ね!」なぞという暗い怨念が立ち込めている。チームワークもへったくれもない。連打で得点・・・などという奇跡は、まず間違いなく起こらないだろう。

そして一発狙いで一発が出るほど、対戦相手の投手はぼんくらではなかった。

「・・・・・・ま、ともかく。俺達に出来るのは声援を送るくらいだよ」

「う、うん。そうだよね・・・。よーし! 須貝さん、頑張れーーーーーー!!」

柊にいわれて思い切り叫んだ楓子。その声が届いたのか、須貝の振ったバットは奇跡的にボールを三遊間に運んだ。

「きゃあ☆ ナイスバッティングーーーーーー!」

ようやくの初ヒットに、楓子が手を叩いて喜ぶ。須貝はファーストベース上から、得意げに手を振っていた。

(ち・・・・・・!)

なぜかひびきのベンチが盛大な舌打ちに包まれる(笑)。

それは次のバッターボックスに入った綾野も同様だった。

(くそー、俺なんか好送球ばっかで目立てないでいるのにぃ! 須貝さんばっかし、ズルイぢゃないかぁ〜〜〜〜〜〜!)

こうなったらもう、攻撃で挽回するしかない。綾野の気合いの入り様は並ではなかった。

・・・・・・だが。

「ふむ・・・・・・。今日は守備が調子良いからのぅ・・・・・・。バントぢゃ」

今まで影が薄かったが、名将として名高い監督はバントのサインを送る。

まぁ妥当な判断であるが、気合いの入りまくった綾野には不満だった。

(俺だって・・・・・・俺だって負けてられねぇ!!)

綾野のグリップを握る手に力がこもった。・・・・・・打てば良いんだ、打てば良いんだ!

そんな思いで、綾野がバントのサインを無視してバットを振る。

 キーーーン!!

澄んだ音と共に、打球が1・2塁間へ飛んだ。

「・・・・・・よし!!」

完全にヒットになる・・・・・・そう確信した綾野だが。

「・・・・・・危ない!!」

ベンチから、楓子が叫んだ。打球の行く手には、バントだと思って飛び出ていた須貝がいたのだ。

 どがっ!

不意を衝かれた恰好になった須貝には、避ける暇もなく。

鋭い打球がその左足に直撃する。

「た、大変〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

楓子が慌てて立ち上がった。柊も冷却スプレーを手に続く。他の部員も今回ばかりは「よっしゃ!」などと思わず、ベンチを飛び出した。

ちなみにプレーは結局ダブルプレーで終わっている。

「須貝さん、大丈夫!?」

蹲る須貝に楓子が駆け寄った。

「あ、ああ・・・・・・大丈夫だよ」

心配そうな楓子に、須貝が引き攣った笑みを浮かべる。

「で、でもぉ・・・・・・」

「いや、平気だろ。須貝さんの体は超合金で出来てるからな」

柊から受け取った冷却スプレーを使いながら、川鍋が言う。

「川鍋さん! そんな冗談言ってる場合じゃないでしょ!?」

楓子がちょっと怒ったように言い、川鍋を睨む。川鍋は軽く肩を竦めた。

「・・・それとも代わるか、須貝さん?」

「冗談じゃない。このくらい、たいしたことないさ」

ムキになる須貝に、川鍋は楓子を振り返った。

「ほらね? この男は超合金で出来てるんだよ。そうじゃなきゃ、普通は交代だ」

「あ・・・・・・」

川鍋の茶目っ気たっぷりな言い方に、楓子が恥じるように俯いた。須貝が続投出来るように、「平気だ」と軽い調子で言った川鍋の心遣いに気付いたからだ。

川鍋は「俺ってば、かなりカッコイイ〜♪」などと小躍りしたい気分だったが、更なる好感度アップのため、あくまでクールな素振りを続けるのだった。抜け目のない男である。

川鍋のぷっくり膨らんだ鼻の穴で、そんな企みに気付いた須貝だったが、とにかく続投させてくれるなら文句は言えない。「このヤロウ」と思う気持ちを抑えて立ち上がった。

「とにかく・・・・・・俺は大丈夫だから。守備につこう」

須貝にそう言われては、それ以上騒ぐのは我慢している須貝に悪い。一同は「仕方ねーな」と言ったカンジで解散していった。

ただ一人、綾野だけが須貝の傍らに残る。

「・・・・・・わ、悪い、須貝さん。俺・・・・・・」

「ふふん、あやのんの企みなど、先刻承知だ。おとなしくバントするとは思わなかったさ」

「ぐ・・・・・・、いや、そうなんだが・・・・・・」

「だがそこで、しっかりプレーが裏目に出る辺り、さすがはあやのん。俺には真似出来ない自爆ぶりだ・・・」

「うぐ・・・・・・。とにかく、その呼び方はヤメロ」

「ま、とにかく。これでサイン無視したあやのんは好感度ダウン。んで、痛みを圧して頑張る俺は好感度アップだな。ふふふ・・・・・・勝つのはこの俺だ・・・・・・」

にんまりと、心の底から邪悪な笑みを浮かべる須貝に、心配した綾野もカチンと来た。

「くそー、まだ5回だからな! ここから俺だって挽回してやる!」

「いや・・・・・・無理だろ。あやのん、自爆キャラだし」

「だから自爆キャラ、言うなーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
 
 
 

何やら言い合いながらベンチに戻ってくる綾野と須貝を見詰め、楓子はちょっとうらやましげな目をしていた。

「良いよね、ああいうの。サインを見落とした綾野さんを責めたりしないで、簡単に許せちゃうんだもん・・・・・・」

「まぁ・・・・・・どっちもどっちの悪人だからなぁ。須貝さんも責めるに責められないんだろうね」

「え? ・・・・・・どういうこと?」

苦笑する柊に楓子が小首を傾げる。

「ライバルほど分かり合える、ってこと」

「ライバル? チームメイトなのに?」

更に困惑の表情を浮かべる楓子に、柊はそれ以上答えてくれなかった。

男の仁義ってやつである。
 
 
 

          ☆     ★     ☆
 
 

・・・・・・だが負傷した足で抑え込めるほど、野球というのは甘いスポーツではなかった。

6・7回と、ヒットこそ打たれるものの守備陣の好プレーによって無得点を続けていた須貝だが、8回に1失点し、9回についに限界が来た。

先頭バッターを四球で歩かせてしまい、短打・四球からヒットを許して2失点。尚もノーアウト1・2塁のピンチである。

須貝の無言のプレッシャーで交代を命じられないでいた監督も、さすがに限界になりつつある。

「須貝、交代じゃ。ショートの西山と代われ」

「くそー、もうちょっとだったのに・・・・・・!」

歯ぎしりする須貝だったが、彼自身も限界を感じつつあった。

「須貝さん、ナイスピッチングだったよ? ね、後は西山さんを信じようよ・・・・・・ね?」

楓子に優しくそう言われ、須貝は恍惚とした表情に代わり、交代を了承した。

もちろん、楓子に優しい言葉をかけられた須貝には、密かに痛めた左足にローキックの嵐が部員一同+マネージャー一名から贈られたが、楓子に気付かれるというへまをする者はいなかった。

ともあれ、ピッチャー交代である。

「ふふふ・・・、御苦労だったな、須貝さん。ここでこのピンチを切り抜けて、一発逆転で俺が楓子ちゃんに勝利を贈らせて頂く・・・」

最後にローキックを叩き込んだ西山は、不敵な笑みを須貝に送った。

どこを見回しても同じ穴のムジナである(笑)。

とにかく、リリーフの西山は「逆転ヒーロー」の野望を胸にマウンドに上がった。

 カキーン☆

んで、打たれた(笑)。

「ぐはぁ! 俺って奴はーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

ライト前に飛んでいく打球を見送り、西山は涙した。

・・・・・・だが。

「おおおおおおおおおおおおおおおお!! ついに来た、俺の見せ場じゃーーーーーーーーーーーー!!」

涙する西山とは逆に、喜色満面で突っ込む男がいた。これまで活躍らしい活躍を出来ないでいた、ライトの柴崎である。

(・・・・・・しまった! 奴はいつも美味しいところを密かに持っていく男っ!)

戦慄する部員一同の危惧を一身に浴び、柴崎は打球に向かって飛び込む。

 ズザザザーーーー!

土煙が上がる。捕っているのか、捕っていないのか・・・・・・・。そして捕って欲しいような、捕って欲しくないような複雑な心境で西山はファーストの塁審を見た。

「・・・・・・アウト!」

審判が手を高だかと挙げる。飛び込んだ柴崎は、見事に打球をグローブに入れていた。

「きゃあ☆ 柴崎さん、ナイスプレー!!」

楓子が叫ぶ。顔面をかなり豪快に地面にぶつけた柴崎だったが、心の中で喝采を叫んでいた。

更に立ち上がり様、ランナーの飛び出した一塁へ送球し、見事にダブルプレーに仕留める活躍である。

(・・・・・・もらったな・・・・・・♪)

鼻を襲う激痛すら心地良い気分で、柴崎はベンチで喜ぶ楓子を見た。

「うう・・・・・・なんてこったい。満を持して登場して、他人の株を上げてどうするよ、俺・・・・・・」

かなり落ち込む西山だが、ショートの須貝がにんまり笑っているのを見て一念発起した。

「ちくしょーーーー! 打てるもんなら打ってみやがれーーーーーーーー!!」

敵愾心に凝り固まった西山は、続くバッターを3球三振で切って棄てる。

「西山さん、ナイスピッチング!!」

ベンチに戻った西山を、楓子がそう笑顔で迎えてくれた。

にやりと笑う西山に、須貝は心底悔しそうな顔になった。
 
 
 
 

「さぁ最終回だよ! みんな、頑張って行こう、ね?」

楓子の声援を受けて、最終回の攻撃が始まろうとしていた。

皆、「ここで逆転勝利・・・・・・くくぅ、美しい結末だぜ! よし、俺が決めてやる!!」という、かなり間違った気合いを入れる。

その気合いがかなり豪快に空回りして、3−0というスコアを生んでいるのだが。

「・・・・・・大丈夫、良い形で守りきったんだモン。逆転できるよね・・・!」

不安と期待の入り交じった表情で、楓子がスコア係の柊の隣に腰を下ろす。

「そうだね・・・・・・」

「ウン。わたし、みんなを信じてるモン・・・・・・!」

そうして「よーし、応援頑張るぞー!」ってカンジで拳を握る楓子だった。

そしてその会話を、耳ざとく聞いていた男が一人。

「・・・・・・川鍋さん。それにみんな、ちょっと良いかな?」

野球部の・・・・・・中にある守る会の良心との呼び声高い、子龍(名前からして恐らく中国かその辺りからの留学生(笑))である。

「ん? 子龍さん、何?」

気合いを入れていた先頭打者の川鍋と、そしてそれぞれが牽制を送り合っていた部員達もわらわらと集まってくる。

さすがに人徳である。

「あのさ・・・・・・この間の楓子ちゃんの言ったこと、覚えてるよな?」

「この試合に勝って欲しいってやつだろ? 当然だ。俺は勝つ!」

一同が何を今更、という感じで頷き合う。・・・・・・子龍は溜息を吐いた。

「でも、負けてるじゃないか。このままじゃ、本当に負けちゃうよ。そうなったら、誰がヒーローだとか、それ以前の問題じゃないか?」

「う”・・・・・・」

一同、散々な今日の打席を思い浮かべて言葉に詰まる。

「そりゃあ、俺だって俺が活躍して楓子ちゃんに勝利を贈るんだって、今日は気合い入れて、んで、空回りしてたけど・・・・・・。でもさ、考えてみたら、それって間違ってるんじゃないかな?」

「間違ってる・・・・・・?」

「うん。だって楓子ちゃんは言ったじゃないか。『みんなで頑張って、勝ってくれるのが一番のプレゼント、かな?』って」

一語一句間違えずに言う辺り、さすがである(笑)。

「・・・・・・どこか間違ってるか?」

「俺達みんなで頑張ったかな? 一人一人は頑張ってたと思うけど・・・・・・『みんなで』頑張ってたかな?」

「・・・・・・・・・・・・」

「楓子ちゃんはみんなを信じてる。みんながみんなで頑張って、逆転してくれるって、信じてるんだ。誰かじゃない、俺達みんなだ。・・・そりゃ、楓子ちゃんだから、負けても『みんな頑張ったね、お疲れ様!』って言ってくれるけど・・・・・・それでいいと思うか? それで俺達、守る会として満足なのかな・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・」

「俺は・・・・・・どうせなら、勝利をプレゼントしたいと思ってる」

「・・・・・・子龍さん・・・・・・」

「・・・・・・よく言った、子龍さん!」

ガッシと、ベンチに座ってたが故に半ば仲間はずれにされていた柊が、子龍の肩に手を置いた。

「・・・途中の楓子ちゃんの口まねは、些か気色悪くて問題ありだが、言いたいことはさすがだ、子龍さん!」

「柊さん・・・」

「俺も同じ気持ちだよ、子龍さん。ようやく分かってくれたか! 僕は最初からそれが言いたくて、活躍した選手達の足踏んだり、ケツ蹴ったり、鳩尾抉ったり、延髄に肘入れたり呪いの藁人形を打ち込んだりしていたんだ! すべては、団結しなくちゃ駄目だゾっていう、メッセージだったんだよ!」

「「「「「「「「「嘘こけっ!」」」」」」」」」

一同の強烈なツッコミが柊を沈黙させた。

「この人は・・・・・・ちょっと油断するとすぐこれだ。抜け駆け大王め!」

「マネージャーなら活躍できまいと油断してたのが間違いだったな・・・・・・」

「とりあえずその辺に埋めとけ!」

「ぬおーーーーー! 俺は帰って来る、帰ってくるぞーーーーーー!」

悪は滅した。

・・・・・・などという冗談は皆瞬時に忘れ、子龍の言葉をそれぞれに反芻した。

「・・・・・・確かに、そうだよな」

最初に言ったのは、須貝だった。

「俺も今日は相手を抑えて楓子ちゃんに勝利をプレゼントしてやるって思ってたけど・・・・・・結局、みんなの好プレーに支えられてたし、最後にはドラちゃ・・・・・・もとい、西山さんに助けてもらったんだし・・・・・・」

「俺達の望みは同じなんだよな・・・・・・。楓子ちゃんに喜んでもらいたいんだって、それだけなんだ・・・・・・」

「考えてみればさ、楓子ちゃんが一番喜ぶのって、俺達が一致団結して勝利をプレゼントすることなんじゃないかな?」

「・・・・・・うん、俺もそんな気がする。だって・・・・・・楓子ちゃんだもんな」

「ああ、そうだ。楓子ちゃんなんだもんな」

「・・・・・・よし! もう一人だけ活躍するとか、他人の失敗を願うのは止めだ! 俺は楓子ちゃんに贈る勝利のために・・・・・・自分のためじゃなくて、楓子ちゃんのために頑張る!」

「俺もだ! みんなで楓子ちゃんに勝利を贈ってやろうぜ!」

「応! 守る会”みんな”から、勝利を贈ってやろうぜ!」
 
 
 
 

楓子ちゃんへ勝利を贈りたいがためにバラバラになっていた部員達の心が、同じく楓子ちゃんへ勝利を贈りたいがために一つになった。
 
「君へ贈る勝利のために!」

一同はそんな思いを抱いて最終回の攻撃に移る・・・・・・。
 
 
 
 

彼らの残された最後の攻撃。先頭バッターは3番の川鍋だった。

「川鍋さーーーーん! 頑張って! まずは出塁だよっ! コンパクトに、ね!!」

楓子の声援に、川鍋は軽くバットを掲げて応えた。

思えば楓子は、みんなの大振りに気付いて最初から同じことを言ってくれていた。

「・・・・・・くそ、馬鹿だな、俺達。こんなんじゃ守る会なんて失格だ・・・・・・!」

グリップを短めに握り、川鍋は集中する。

 キーーーーーン☆

鋭くバットを振った川鍋の打球は、見事に三遊間を破った。

「よし・・・! アミーゴさん、続いてくれよ! 逆転しようぜ!!」

楓子と、そして部員達の声援を受けて、続く4番のアミーゴが打席に入る。

「・・・・・・そういえば楓子ちゃん、俺が4番に選ばれた時、言ってくれたよな・・・。キャッチャーで、頼れるバッターで、だからアミーゴさんしか4番はいないよ・・・って・・・」

ぎゅっと、バットを握った手に力がこもる。

大振りはせず、上手くバットにボールを乗せたアミーゴの打球は、ライトオーバーの長打になった。

・・・・・・これでノーアウト・2・3塁。

続く打者は、須貝である。

「須貝さん、しっかりーーーーー!」

楓子の声に須貝は3塁上の川鍋と目を合わせ、頷いた。

8回までの須貝なら、迷わずに長打を狙っただろう。だけど、足を痛めている自分には・・・・・・。

投手が初球を投げると同時に、川鍋が走った。念のために大きく外したボールに、須貝が飛び付く恰好でスクイズを決める。

「・・・あいつら、サインなど出してないんじゃがのぅ・・・・・・?」

出すだけ無駄と思い込んで沈黙していた名将の監督(ただしど〜もボケ気味らしい)は、ホームベース上で手を叩き合う須貝と川鍋を見て目を丸くした。

「やったやったぁ! 須貝さん、ナイススクイズ! 川鍋さんも、良く走ってたね?」

楓子の笑顔に迎えられて、二人は照れたように言う。

「・・・・・・ま、なんとなくね」

「チームワークってやつ?」

そして、続いてバッターボックスに向かう綾野に、須貝が声をかける。

「あやのん!」

「だぁ! その呼び名はやめいっ!!」

「・・・・・・挽回のチャンスだぞ、自爆王っ!」

ニッと笑う須貝に、綾野は舌打ちして沈黙した。

確かに挽回のチャンスだ。ワンアウトでランナーは3塁。ワンヒットで1点である。

自分で打つよりも、綾野の方が打てる可能性は高いと判断して、須貝がスクイズを狙ったがための状況だ。

ここで打たなくては男ではない。

「・・・・・・くそー、自分のミスは自分で挽回するぜっ!!」

気合いの入った綾野が、見事なセンター返しを炸裂させ、ランナーが生還する。

「よっしゃーーーーーーーっ!」

吼える綾野にベンチも応えて盛り上がる。

続くバッターは、7番の西山だ。

「西山さん、頑張れー!」

次の8番柴崎が声援を送る。

「・・・・・・さっき助けてもらったしな・・・・・・。絶対回してやるぜ、柴崎!!」

とにかくシャープに、コンパクトに。

繋ぐことだけに集中した西山の打球が、レフト前に落ちる。

これでワンアウト、ランナーは1・2塁。点差は1点。

ヒットが出れば同点のチャンスである。長打ならさよならだ。

「柴崎、頼むぞ!!」

1塁上から西山が声をかける。

「柴崎さん、ファイトーーーー!」

後ろからは楓子の、必死の声援である。

「・・・・・・ここで一発打てば、本当に最後の最後の、美味しいところ、なんだけどね・・・・・・」

バッターボックスで柴崎が呟く。

「・・・・・・でもまぁ、僕はさっきのファインプレーで十分だし? 堅実に・・・・・・だよっ!!」

 キーーーン☆

柴崎の転がした打球が、見事に1・2塁間を破る。

・・・これでワンアウト・満塁。点差は1点。

バッターボックスには、9番の子龍が入る。

「子龍さん、まずは同点、同点だよーーーーーーーっ!」

楓子の声援も、ますます大きくなっていた。その声援に頷いて、子龍が気合いの入った顔で打席に入る。

「・・・・・・ここで打てば逆転さよなら、だな・・・・・・」

ボソリと呟く子龍の言葉に、相手チームのキャッチャーは外角に僅かに外れるボール球を要求する。

引っ掛けさせてWプレーの狙いである。

・・・・・・だが、投手がボールを投げた瞬間、またもや3塁ランナーの綾野が走った。それに呼応するように、子龍がスクイズを決める。

「やったーーーーーー! 同点、同点だよっ!!」

楓子が歓声を上げるのに、ホームベース上で綾野と子龍がパンと手を叩き合わせる。

同点。しかもツーアウトながらランナーは2・3塁。

そして打順は、一番の虹野に回る。

「虹野さん、ファイトーーーー!」

声を限りにして叫ぶ楓子。盛り上がるベンチ。

8回までの様子が嘘のように、楓子を中心とした一体感がそこにあった。

「くそ・・・・・・、どうなってるんだ、こいつら? 8回まではみんな大振りしてきたってのに・・・・・・!」

相手校のキャッチャーが困惑気味に言う。この絶好の場面で打席に立った虹野は、ボール球には手を出さず、臭いボールは絶妙にカットして、あくまで粘る体勢を見せていた。

8回までの彼らなら・・・・・・いや、普通の打者なら、一打さよならを意識してしまう場面なのに。

「・・・・・・悪いね、俺達はみんなヒーローになりたいわけじゃないんだよ、今は」

困惑するキャッチャーに、虹野はにんまりと笑った。

「・・・・・・勝てれば良いんだよ、彼女のためにね。別に勝利を決めるのは俺じゃなくてもいーわけよ?」

「・・・・・・ボール! フォアボール!!」

虹野がボールを見送り、主審が首を振って一塁を指差す。

「・・・ま、そんなわけだから。無理はしないよ。俺も、みんなもね?」

バットを投げ捨てながら、虹野はキャッチャーに不敵な笑みを送った。
 
 
 
 

打席にはこの回9人目の打者、2番水無月が立った。

「9回裏、ツーアウトフルベース。かっ飛ばせばヒーローのチャンスか・・・・。ま、でも・・・・・・」

打席に入った水無月が、軽く素振りをする。

「フォアボールでも勝てるよな〜。うん、それでも良いやな・・・・・・」

直前の虹野の揺さ振りを聞いていた水無月は、意地悪くキャッチャーにも聞こえるような声で呟く。

(くそ・・・・・・こいつら、いきなり豹変しやがって! これじゃ臭い球で打ち取ろうにも、絶対無理じゃねーか・・・・・・!)

構えるキャッチャーも、マウンド上の投手も、困惑と共に苛立つ。8回までの攻撃を見て、楽勝だと思ってただけに、尚更だ。

(こうなったら、真っ向から勝負だ!)

投手が腹を括ってモーションに入る。

・・・そして。

甘く入った初球を、水無月は渾身の力を込めて振り抜いた。
 
 
 
 
 
 

「ゲームセット! 7−3でひびきの高校の勝ち!」
 
 
 
 

        ☆     ★     ☆
 
 
 

「みんな、お疲れ様! 最終回の攻撃、凄かったよ!!」

挨拶を終えたナインを、興奮気味の楓子が迎える。

「チームワークの勝利、だよね? あ、もちろん、水無月さんも凄かったけど・・・」

「いや、あれは半分以上虹野のお陰だよ」

照れながら水無月が言う。

繋ぎに徹したバッティング、そしてここぞという場面で1点のために決めた二つのスクイズ。

正にチームワークの勝利だった。

だからこそ、だろう。楓子の喜びようは常にも増しているようだった。

「・・・・・・あの、さ。佐倉さん・・・・・・」

そして、他の面々に押されるような恰好で、密かに今回の功労者である子龍が言う。

「その・・・・・・プレゼント、どうだったかな?」

「え・・・・・・?」

「俺達全員からの・・・・・・勝利のプレゼント・・・・・・」

「あ・・・・・・!」

楓子が驚いたような顔になり、そして・・・・・・・・・最高の笑顔になった。

「ウン! もう、最高のプレゼントだよ!!」

その笑顔に、虹野・水無月・川鍋・アミーゴ・須貝・綾野・西山・柴崎・子龍の9人は、最後の最後に間違いに気付いてよかったと、心の底から安堵した。

そして・・・・・・最高に幸せだった。
 
 
 
 
 
 
 

「・・・・・・良かったよな、勝てて」

帰り道。須貝が感極まったように言った。

「ああ、そうだな。・・・あの楓子ちゃんの笑顔! くぅ〜、生きてて良かったよな、俺達!」

「うんうん! なんかよ〜、抜け駆けしてやるーってムキになってたのが、いかに馬鹿だったか、身に染みるよな〜」

「そうそう! 正に極上の笑顔! うう・・・・・・俺は幸せだ・・・・・・!」

「そ〜思える辺り、やっぱり楓子ちゃんの存在は大切だよな〜」

「あ、言えてる言えてる! 俺達の団結力の要ってやつだよな」

「俺達に勝るチームワークなんて、そうそうあるもんじゃないよな」

「そりゃそうだ。なにせ俺達は守る会のメンバーだからな!」

「ビバ、守る会! ってカンジだよな。な、柊さん?」

・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・あれ、柊さんは?」

「そ〜いや、姿見えないな・・・・・・埋めてから」

「埋まったままだとか?」

「いや、それはないだろ・・・・・・」

熱戦を終え、一丸となったナインは互いに顔を見合わせる。

「「「「「「「「「しまった、部室だっ!!」」」」」」」」」

一同声を揃えて学校を振り向くや、悪鬼の形相を浮かべて元来た道を駆け抜けていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

熱戦の余波が消えた部室で、楓子は最後の後片付けを終えた。

「ふぅ・・・・・・こんなカンジかな?」

額に浮かんだ汗を拭って、楓子は満足げに頷く。

「お疲れ様、佐倉さん。・・・はい、タオル」

「あ、ありがとう、柊さん。・・・・・・わぁ、ケロちゃんのタオルだぁ! かっわいい〜〜〜〜〜!」

「そう?」

「ウン! えへへ、なんか意外だよね、柊さんにこんな可愛いタオルって!」

「いや・・・・・・実はそれ、佐倉さんへのプレゼントだから」

「え・・・・・・?」

「ほら、俺ってマネージャーだからさ、みんなみたく勝利をプレゼント、って出来ないから。その、安物で悪いけど・・・・・・」

「・・・・・・ううん、そんなこと、ないよ・・・・・・」

楓子はタオルをきゅっと握って、首を振った。

「すっごく、嬉しいし・・・・・・それに、今日の勝利のプレゼント、ちゃんと柊さんからももらったもん・・・・・・」

「え・・・?」

「いつもいつも、みんなのために色々してくれるでしょ? だから・・・・・・今日勝てたのは、柊さんのお陰でもあるんだよ?」

「・・・・・・・・・そう、かな?」

「ウン! それにね、わたしもすっごく助かってるモン! 本当に、ありがとうだよ!」

「佐倉さん・・・・・・。その、俺の方こそ、ありがとう・・・・・・。そんな風に言ってもらえると、すっげー嬉しいよ」

「えへへ・・・・・・、そうかな?」

「うん。・・・・・・そっか、今日の勝利は、俺と、みんなと、そして佐倉さんの勝利なんだよね・・・・・・」

「え・・・・・・?」

「佐倉さんも、一緒に頑張ってるもんね?」

「・・・・・・・うん。えへへ・・・・・・嬉しいね、そういう風に言ってもらえると」

「お互いにね」

「ウン!」

にっこりと笑い合う二人。

非常に素晴らしい雰囲気が漂い始めるが。

 ・・・ドッ!! バンッ!!

近付いてくる地鳴り。そして扉が勢いよく開かれる。

「「「「「「「「「柊さん、やっぱりアンタってぇ人はっ!!」」」」」」」」」

「ぬおっ! 帰ったんぢゃねーのか、おまひたち!?」

現れたのは当然、慌てて引き返して来たひびきのナインだった。

身の危険を感じて一歩引く柊。だが殺気を纏った9人は、同じく一歩前進する。

「くそ・・・・・・、甘かった! 俺が甘かったんだ!」

「忘れてたぜ・・・・・・俺達は戦士だったな!」

「応、俺達は戦士だ、孤独な戦士だ!」

「馴れ合いなど小賢しい! って言うか、かなり損だな!!」

「ふ・・・・・・危うく牙を抜かれた猛獣になってしまうところだったぜ・・・・・・」

「柊さん、さすがだよ、あんたは。俺達に大事なことを思い出させてくれた・・・・・・」

「抜け駆けには死を・・・・・・」

「そしてこっそり、自分は抜け駆けすべし!!」

「我々はライバルに過ぎないんだったなっ!」

血走った18の瞳に晒されて、柊は3歩引いた。

「お、落ち着こうぢゃないか、みんな・・・・・・」

「「「「「「「「「出来るか!!」」」」」」」」」

18の瞳は4歩接近した。

そして。

18の手が、柊に伸びる・・・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

かくして、一時奇跡的に団結した一同の心は、元通りライバル心にて満たされた。

そしてこれからもまた、彼らは団結と対抗を繰り返すだろう。

それはどちらも、彼らの勝利の女神のために。
 
 
 
 
 
 

平和なひびきの高校に、団結の掛け声と牽制の嵐が絶える日は、まだまだ遠い・・・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 

>君へ贈る勝利のために・・・・・・Fin<
 
 
 
 
 
 
 
 


*あとがき御挨拶*

ども、最近めっきり株価が暴落しつつある、極悪人・柊雅史でございます(^−^)
って、こんな話作ってりゃ、当然ですな・・・。かなり自虐ネタですが、いかがでしたでしょう?(って、批難轟々やろうな)

え〜、今回は一応「日程早めちゃってゴメンなさいSS」の意味も含めて、登場者にはそこそこの役を振ったつもりです。
・・・・・・あ〜、そこそこ。包丁は危険なので持ち出さないよ〜に!!
まぁ最初は愛と団結の感動物語を書いているつもりだったのですが、どこをどう間違ったのか、結局こんな話になってしまいまして。
お詫びになってるのかどうか、どうも自信ありません。って言うか、なってないね、こりゃ。参った参った(^−^)
とりあえず佐倉さんには完全な「ギャグ話」として読んでもらいたいところであります。
他の皆さんには・・・「あ〜、柊さんがあやのんばりの自爆してるね〜」って感心してもらえれば光栄です。(そうか?)

それでは最後に。
今回の話は誕生日ネタですが、タイムスケジュール的に1999年を扱っております。
その辺りは書き手も承知の上なので、「誕生日って日曜日じゃないよ」っていうツッコミは却下です。

それでは、もしネタが浮かんで間に合いましたら、次の誕生日SSにてお会いしましょう。
・・・・・・今度こそ、マトモでみんなに受けるSSを書きたいなと、思っていますが。
多分無理やろうね・・・・・・(^−^)

作者:柊雅史


SS作品展示場へ戻る。