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<この忙しい時に何やってんだ俺、記念(嘘)>
バレンタイン☆狂想曲(偽)
「戦場のバレンタイン」
書き人:柊雅史
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その一室は昼間だというのに薄暗かった。窓にはぴっちりカーテンがひかれ、厳重に目張りまでしてあるという念の入れ様だ。
机の類はない。そこは現在空教室になっていた。
だが、そこに人の気配がある。それも複数。
不良辺りが煙草でも吸ってるのかとも思うが、室内は煙たくない。
だが煙草とは違う光源が点々と灯っている。
蝋燭の光。
揺らめく炎は人影を不気味に揺らし、闇と明かりとが生物の如く絡み合う。
室内に映し出されたのは4つの人影。
コンコン。
そこに扉をノックする音。4つの人影に緊張が走る。
「・・・誰だ?」
「・・・俺だ」
「・・・合い言葉は?」
「・・・『一緒に帰ろう、ね?』」
「・・・よし、入れ」
瞬間、廊下の明かりが室内を浸食する・・・が、それは室内に滑り込んで来た人物の手によって遮断された。
「・・・これで揃ったな」
「うむ。皆、誰にも見咎められなかっただろうな・・・?」
全員が頷く。
「よし。・・・今日こうして、我等楓子ちゃんを守る会、特殊防衛隊保安強化兵団を集めたのは他でもない。我等が太陽、楓子ちゃんに関する事項である」
ごくり。
誰かの喉が緊張に鳴った。
「我等精鋭部隊が動くということは、可及的速やかに対処せねばならぬ叛乱分子・・・あるいは危険人物の存在が危惧される、ということだ。これほどまでに早く、我等の出番が回ってくるとは思えなかったがな・・・」
苦渋に満ちた口調で、彼は続けた。
「だが・・・時が来たのだ。現実は受け止めねばならぬ。我等は夢の中に生きる詩人ではない。理想に生きる革命家でもない! 我等は現実に立ち向かう兵士だ! 戦うことでしか存在意義を見出せぬ、戦士だ!」
「おおおおおおお!」
彼のアジテーターぶりに、残る4人は熱狂的に拍手する。それをぴたりと止めて、彼は続けた。
「・・・先日、11日のことだ」
ざわっとざわめきが起こった。
「ふ・・・心当たりがある者もいるようだな・・・。そう、楓子ちゃんはあらゆる人物のアプローチを断り、寿美幸と二人、駅前へと出掛けた!」
「・・・それが一体・・・?」
「おのれ、貴様! そのような愚鈍な脳みそなど捨ててしまえ! 今日がなんの日かを忘れたか! そして昨日が日曜日であると言うその事実を! そしてその数日前に訪れた、休日の意味するところを!!」
「!!! ま、まさか・・・・・・隊長!?」
「そう・・・そのまさかなのだよ、ワトソンくん・・・」
「・・・そんな名前じゃないですけど・・・」
「そんな些末なことを論議している暇はない! 証人をここへ!!」
「はっ!」
がたがたと物音がし、巨大な麻袋が担ぎ込まれる。
「・・・騒ぐな。命までは取らん・・・」
ぼそりと呟き、隊長と呼ばれた男が麻袋を開く。
出て来たのは後ろ手に縛られ、目隠しをされた男だった。
「・・・貴様が先日見た光景を語ってもらおうか・・・」
「お、俺は・・・ただ、佐倉さんが寿さんと一緒に駅前の”エンジェル”に入っていくのを見ただけだよ!」
「・・・! くそがぁ!!」
隊長が瞬時に激怒し、その男を殴り付ける。
「ぐふっ・・・! な、なんで俺が・・・!」
「八つ当たりだ」
きっぱり言い放ち、隊長は一同を見回した。
「聞いての通りだ。・・・”エンジェル”に関する報告を!」
「・・・エンジェルはショッピング街にあるお菓子屋さんです。今月一日よりバレンタイン・セールを開始。当ひびきの市及び隣町であるきらめき市より、のべ3万人前後の客を集めました。該当時期の売上の99%がバレンタイン関連商品であります。特に手作りチョコ用の器具揃えが豊富であり、各種の型は人気でした」
「手作りチョコ・・・と聞いて、君は何を思うかね?」
「はい。世の中には単純にお菓子作りを趣味とする人物も少なくはありません。一文字茜なども、その一人であります。ですが、こと2月14日の聖バレンタインにおいて、手作りチョコの意義は変容します。即ち・・・本命チョコ」
「く・・・、お菓子業界の陰謀か・・・!」
隊長はぎりり、と歯を食いしばった。
「・・・そのような世間の思い込みの結果、その曲解は進み、女性側も勘違いを恐れて義理に手作りチョコを手渡すケースは1%を切ると予想されます」
「・・・つ、つまり・・・!」
「・・・我等が楓子ちゃんが、本命用に手作りチョコの器具を購入した恐れがある、ということだ・・・」
「そ、そんな・・・隊長! どうするのですか!?」
「騒ぐな! そのために我等、特別機動殲滅部隊が存在するのだ!!」
「・・・隊長、名前違います!」
「そのような些末なことはどうでもいい!」
一喝し、隊長は冷静なツッコミをかわした。
「今の議題は現れた巨悪に対し、どのように行動するか、であろう? ゴジラが現れているというのに、新商品の缶コーヒーの名前を議題に出すかね!?」
「缶コーヒーの会社なら出します」
「とにかく!! 我々の中にゼアスに変身出来るウルトラ兄弟はいない! ならば自ら武器を手に取り、戦う以外に術はあるかね!?」
「・・・ゼアスってウルトラ兄弟なんですか?」
「知らん!!」
話は時々横道にそれているようだが、隊長はマイペースな人間だった。
「・・・つまり、隊長。隊長はあくまで徹底抗戦をすべきだ、と・・・?」
「私は勘の鋭い者が好きだよ、ゲッシュハルトくん」
「・・・そんな名前、いやです」
「些末なことだ」
「・・・それではルーベンシュトルムゲルンハルト=ローゼンバウワーグロイッツ隊長」
「・・・もう一度言えるのか、貴様?」
「ルーベンシュトルムゲルンハルト=ローゼンバウワーグロイッツ隊長」
「・・・ごめんなさい、今後は気を付けます」
「・・・では、隊長。念のために暴徒に対する徹底攻撃、及び重火器を含む武装の使用に関して、決議を・・・」
「無意味だと思うがね」
無意味だった。5人は揃って「楓子ちゃんの本命には死を!」と願う。
「では、作戦を説明する」
毒蛇の笑みを浮かべ、隊長は紙を広げた。
「こ、これは・・・!」
「ふふふ・・・驚いてくれたかね、諸君?」
「いえ、暗くて読めません」
「誰だ、電気を消したのは!?」
「隊長です」
「些末なことだ」
「その方が雰囲気が出る、とおっしゃいました。議事録を見ますか? 記録テープを再生しますか?」
「・・・ゴメンなさい・・・」
電気が点き、教室は明るくなった。
「・・・やはり雰囲気が良くないな、これでは。やはり仮想空間で、モノリスで、01とか書いてあるのが理想だが・・・」
「アニメの見過ぎです、隊長。そのサン・バイザーはなんです?」
「ふ・・・こんなこともあろうかと、用意しておいたのだよ。人の人生、何度「こんなこともあろうかと」のセリフが言えるかで、生きて来た価値が計れると言うものだ・・・」
「・・・どうぞ御勝手に・・・」
「・・・むぅ・・・」
冷たくあしらわれた隊長がちょっといじける。が、会合は進められた。
「・・・この紙は当ひびきの高校内で、危険人物と目される者のリストである」
「ふむ・・・やはり野球部が多いのぅ・・・」
「誰だよ、お前?」
「こういう会合には老人口調が付き物だろうが!」
「うむ、全面的に肯定!」
「隊長は黙ってて下さい!」
「しくしく・・・」
「ほっほっほ、まぁ良いではないか。しかし・・・何故ゆえ我々の名前も載っているのですかな、隊長?」
「お前達も野球部ではないか」
「しかし、隊長が載っていない」
「そりゃ、私が作成したブラックリストだからな」
「・・・・・・」
「あああ! 何故私を最重要監視対象者にする!?」
「隊長が一番裏切りそうだからです!」
「ぬぬぬ・・・」
「・・・あの、じゃれてないで話を進めませんか?」
「そうだな・・・。ところで先程から、口調と性格を見てみると、どう考えても5人以上が発言しているように思うのだが・・・?」
「仕方あるまい。作者が隊長とその他としか、分類してないからな・・・。その場の乗りだ」
「ほっほっほ、良いではないか、良いではないか。それよりも助さん、格さん、状況の説明を・・・」
「誰やねん、それ」
「ええい、そろそろ読者が怒るか、呆れて「戻る」ボタンをクリックする頃だぞ!」
「それもそうだな。では、作戦行動を説明する」
隊長が珍しく真面目な顔になった。
「まず、これまでのところ楓子ちゃんが誰かに接触後、何かを手渡した形跡は一度しかない」
「一度?」
「うむ。幸い私の目の前で行われたので、有無を言わさずコンボを決めておいた。渡したのは連絡事項のプリントだった」
「プリントとチョコを間違えないで下さい!」
「超薄型板チョコだったらどうする!?」
「楓子ちゃんがそんな嫌味以外の何物でもないチョコを作るとお思いですか!?」
「ふ・・・それもそうだな・・・」
「とにかく・・・今のところハルマゲドンが勃発した様子はないのですね?」
「うむ」
「しかし・・・こうして我等が集まっている、今現在は?」
「問題ない。楓子ちゃんは今頃、職員室で説教を受けている」
「は?」
「こっそり数学の宿題を抜いておいたのだ」
「・・・あんた、それでも守る会の人間か!」
「うお!? 何を怒っておる!?」
「会合の時間を作るために楓子ちゃんをいじめてどうするんです!?」
「・・・・・・あ」
「あ、じゃありません!」
「ぬぬぬ・・・盲点であった! 私は・・・私はなんてことを!? みんな、私を殴ってくれ!」
どかばきぐしゃけり!
「くおお! 上官に手を挙げるとは何事ぞ!?」
「自分で言ったんでしょうが!」
「ぬう・・・しかし最後の「けり」の擬音はなんだ!? 誰か蹴ったな!?」
「些末なことです」
「貴様かぁーーーー!」
「ぐぐぐ・・・と、とにかく隊長・・・、こうしてる間に楓子ちゃんが自由の身になったらどうするんですか・・・」
「そうです! お昼休みと言えば戦場のメリークリスマス! 戦いの突撃喇叭です!!」
「既に第7の喇叭が吹かれている可能性もあるのですよ!?」
「ちぃ・・・命拾いしたな、ドン・松五郎!」
「うう・・・そんな名前イヤだぁ・・・」
「良いじゃないか、名犬だぞ」
「知らん読者の方が多いネタは厳禁です! それで隊長、作戦を・・・」
「うむ。楓子ちゃんが魔の巣窟、職員室から出た瞬間から作戦は開始だ。さり気なく先行尾行を開始」
「それはかなり高度な技術ですが・・・」
「なに、心配はいらん。我々は5人いるのだからな。・・・先行尾行を続け、楓子ちゃんの進路に存在する全叛乱分子に対して無差別攻撃を仕掛ける! 例外はナシだ!」
「・・・リストによると殲滅対象のトップは隊長ですが・・・?」
「それは例外」
「まぁ、我々は例外として・・・問題はそのように大胆な作戦行動に対して、政治的圧力が掛かった場合です」
「左様、風紀委員は恐ろしいよ」
「問題ない。手は打ってある」
「ほう・・・?」
「赤井会長が暴れるので困ります、捕獲して下さい、との投書を300枚ほど投げ込んでおいた」
「さすが隊長・・・天晴れです!」
「ふ・・・もっと誉めてくれたまへ!」
「その根性や天晴れ!」
「わはははは!」
「300枚の投書なんて、そうそう書けませんぜ!」
「わははははははははははははははは!」
「そりゃ、根暗って言うんだよ」
「ぐふぅ!」
「・・・では、結論も出たところで・・・全員、武装装着!」
「「「らぢゃー!」」」
「職員室前にて待機! 以後、各自の判断で尾行を開始! 攻撃対象を発見次第速やかに処分、我々の敵は一人ではないこと、一人に時間をかけている余裕がないことを忘れるな! ただし細菌兵器・核兵器の使用は禁じる! 楓子ちゃんに余波が行かぬよう、気を付けるのだ!」
「「「応!!!」」」
「では、散開!!」
かくして聖バレンタインを巡る戦いの幕は切って落された。
ただ一人、打ちのめされた様子の隊長が、のろのろと重火器を肩にかけて立ち上がる。
「うう・・・、根暗じゃないモン!」
戦いは熾烈だった。
昼休みに戦端は開かれ、午後の授業が始まるまでに捕獲・処分された叛乱分子候補は82名。内、82名を治安維持法案に照らし合わせた上で(大嘘)処罰。
だが未だに安堵の時は訪れなかった。放課後になり、楓子ちゃんは誰かを探すように、校内を歩き回る。
「・・・決して目を離すな。机や下駄箱にチョコを入れる恐れもある」
「その場合、チョコを破壊すれば良いのでは・・・?」
「ならん! 楓子ちゃんが一生懸命作ったチョコだぞ! 破壊するならその対象となった人物だ! 殺せ!」
「「「「らぢゃー!」」」」
だが楓子ちゃんはそんな素振りすら見せない。時々女生徒に話し掛けつつ、校内を歩き進んでいく。
ちなみに男子生徒に話し掛けることはなかった。その前に先行尾行を行った彼ら5人が、タコ殴りにしているからだ。
「・・・隊長、本当に楓子ちゃんはチョコを渡すのでしょうか・・・?」
「渡す。私の勘がそう告げている」
「しかし、あの照れ屋さんの楓子ちゃんが、こうまでして手渡しにこだわるとは・・・」
「それだけ脅威である、と言わざるを得まい。・・・マジで殺す」
こそこそ話しながら彼らは先行尾行を続け、次々に男子生徒を処分していった。
そしてついに、撃沈数が彼らを除く男子生徒の全数に至る。
「・・・どういうことだ・・・?」
「まさか・・・まさか、楓子ちゃんは・・・レ・・・」
「その先は言うなぁ!!」
「ぐふぅ!」
「そんなことはない! そんなことは・・・!」
「隊長、顔、赤いです」
「そ、想像なんかしてないモン!」
「とにかく・・・どうやら我々の心配は杞憂で終わった、ということでは・・・?」
「あるいは既に産業廃棄物置き場に破棄して来た暴徒どもの中に殲滅対象がいたのかも・・・」
「そうじゃのぅ、そもそも楓子ちゃんが真実、手作りチョコの器具を買ったでもなし・・・」
「それに行動基準が隊長の勘だもんなぁ・・・」
「うむ、私も勘違いだったような気がして来た・・・」
「では、我々のこの数時間は・・・?」
「未来の敵を排除したと思えばよかろう?」
「それもそうですね」
「では、これにて解散としようか・・・」
「「「「らぢゃー」」」」
・・・捕獲・処分数、800余名。内、反逆者認定800余名。
以上の戦績を携え、彼らの熱い戦いは終わった・・・かに見えたが・・・。
「・・・あ、綾野さ〜ん!」
「あ、佐倉さん?」
凱旋帰還中だった彼の元に、笑みを携えた楓子ちゃんがやって来た。
「なに? 何か用?」
楓子ちゃんに話し掛けられた喜びだけでも、彼は天にも昇る気持ちだった。
だが、それだけでは終わらない。
「あ、あの、あのね。これ・・・なんだけど・・・」
「え? これって・・・?」
「う、うん・・・。あのね、んとね・・・、も、もしかしたら、美味しくないかもしれないけど・・・その、手作り、だから・・・。だから・・・、美味しくなかったら、捨てちゃって下さい!」
「あ・・・楓子ちゃん!?」
思わず普段仲間内で話している呼び方を口にするが、楓子ちゃんは既に駆け去っていた。
しばしポカーンと立ち尽くしていた彼だが、次第に手の中にあるものが何なのか、認知し始める。
「ま、マジ・・・? そっか・・・考えてみれば、俺達の中に目標がいてもおかしくないわけで・・・」
にま〜と、彼の顔が崩れる。
「あはは・・・あはははは! ぃやったーーーーーーーー!!」
思わずバンザイ、と飛び跳ねる彼だが・・・。
そんな彼を、鋭い目で見詰める人影が4つ・・・。
「ふ・・・その可能性に気付いたのが自分だけだと思うなよ、綾野!!」
「隊長、装弾完了しました!」
「劣化ウラン弾、装填完了!」
「自動追尾爆雷、セット完了!」
「うむ! 全武装、使用許可! この際核も細菌もガスも、なんでも使え!!」
「「「らぢゃー!」」」
「裏切り者に死を!!」
「「「らぢゃー!!!」」」
「突撃ぃーーーーーーーーーーーー!!」
嗚呼、バレンタインの狂想曲は終わらない。
>バレンタイン☆狂想曲:おしまい<
*この作品はフィクションです、全面的に*
ごめんなさい!!m(_ _)m
ちゃんと最初に謝っておきます。
どこでどう間違えたのか、僕にもわからないけど、多分どこか重要なパーツが壊れてしまったんだと思いますぅ。
考えてみればこれに着手したのは卒論進行時。PC画面から出てくるなんとなく凶悪な電波が脳内の言語中枢に語り掛けて、海馬辺りが情緒を司るうんたらとかいう女性秘書にセクハラしても裁判沙汰で負けるでしょう。
・・・駄目だ、自分でもわけわからん。
まぁとりあえず・・・本当にすいません。なんかもう一人の俺にも謝りたい気分。ゴメンよ、俺・・・。
良いんだよ、俺。そうなのかい、俺。うん、この即効性裏側万能薬つまりは毒薬さえ一気のみしてくれれば。死ぬだろ、俺。潔く散れ、俺。
それではお叱り・苦情のメールもお待ちしてます。普通の感想も、もちろん。
同時発行予定のバレパニ2もよろしく〜♪
作者:柊雅史