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<この忙しい時に何やってんだ俺、記念(嘘)>
バレンタイン☆狂想曲(1)
書き人:柊雅史
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2000年、2月11日(金)。
吐く息が白い。
それもそのはずで、今年は例年になく寒い冬が続いている。
3日前に降った雪も、溶けずにしっかり積もっている。
キラキラと日の光を受けて煌く雪は綺麗だが、このところ続いている寒さを象徴しているようでもある。
ぼんやりと路肩に積まれた雪を見ながら、楓子は駅前広場に立っていた。
広場にある時計を見ると、2時5分前。待ち合わせは2時の約束である。
元々時間には律義な性格だったのだが、特に最近は待ち合わせの10分前には来るような癖がついてしまった。
人込みの中から彼が現れ、自分を発見して慌てて駆けて来る様子が、なんとなく好きだったから。
こうしてぼんやりと待っていると、目が自然と人の流れの中に彼の姿を探そうとする。
だが今日の待ち合わせの相手は彼ではない。非常に残念なことに。
彼からデートのお誘いもあったのだが、こっちの方が先着だったし、なにより彼と一緒では肝心要の買い物が出来ない。
だから泣く泣く、デートのお誘いを断ったのだ。
何しろ今日は2月11日。間もなく2月14日、聖バレンタイン・デーを迎える休日である。
幸い前日の13日は日曜日。となれば、休日返上で手作りチョコに挑戦したくなるのが乙女心ってもんだ。
だから、今日の待ち合わせは彼ではない。まさか彼の前で手作り用の板チョコを買いあさるわけにも行かないではないか。
「・・・やっほ〜! 楓ぇ〜!」
どんなチョコにしようかな、などと思いを馳せていると、とびっきり元気な声が聞こえて来た。視線を巡らせると、人込みの中から元気いっぱいといった感じの笑みを湛えた友人が駆けて来る。
「あ、美幸ちゃ〜ん!」
ぶんぶん、と手を振った楓子に応え、美幸も勢い良く手を振り・・・ドンと通行人にぶつかって体勢を崩し、凍った路面に足を滑らせてスッテーンと転ぶ。
ゴン、と非常に危険な音を立てて、友人は路面に大の字になった。
「み、美幸ちゃん!?」
「はれはれ〜、だいじょうび、だいじょうび〜」
慌てて駆け寄ると、美幸は拳大のたんこぶこそ出来てはいたが、すぐに立ち直って明後日の方向に手を振った。
「いや〜、あたしぃ、こ〜ゆうの慣れてるからぁ〜」
「美幸ちゃん・・・そっちじゃないよぉ」
「ほえ〜、楓がぁ、3人〜?」
ぐるぐる目の美幸に楓子は溜息を吐く。
この友人と一緒にいると、飽きない代わりに気の休まることもない。
楓子はなんとなく、今日の買い物のパートナーに彼女を選んだのは間違いだったのかも、と思った。
もう一人仲の良い、かつ頼りになって冷静沈着な友人もいたのだが、彼女はバレンタインのようなイベントに奮って参加するような人ではない。
それで白羽の矢が立ったのが美幸なのだが、どうも白羽の矢は落ちどころを間違えてくれたようだ。
気を取り直して缶のホットコーヒーを買おうとし、何故かおしるこが出て来て、しかもそれが破裂したかのような勢いで噴出し、パニックに陥っている友人を見、今日の買い物が無事終わるのかどうか、非常に不安になりつつある楓子だった・・・。
☆ ☆ ☆
幸いその後は美幸がお腹を空かせたカラスに襲われるとか、屋根から落ちて来た雪に埋もれるとか、滑って転んで通行人にめたくそに踏みつけられるとか、そんな些細なことしか起きず、二人は駅前のショッピング街に到着した。
・・・もう何が起こっても、楓子は「些細なこと」として割り切ることにした。今日ばかりはそうすることにした。もっと大切な用があるから・・・。
ショッピング街には色々なお店が並んでいる。楓子のお気に入りは可愛いものグッズが揃っているファンシーショップだが、今日のお目当てはそこではない。店頭に「あなただけのオリジナルバレンタインチョコを!」と、大看板を掲げたお菓子屋さんだ。
これだけ派手に宣伝し、それに見合っただけの女の子が出入りして、「あなただけ」もないもんだと思うが、まぁそれはそれ。乙女心ってやつが発動して、深く考えないことにした。
「うわぁ〜、すごい人だねぇ!」
カラスに突つかれてボサボサになった髪を手で直しつつ、美幸が目を丸くした。
実際そこは予想以上の混雑振りだった。楓子と同年代の女の子達が、真剣な眼差しで出来合のチョコを漁ったり、手作り用の板チョコや型などを物色している。ラッピングからメッセージカード、手作りチョコの作り方を解説した小冊子もある。
「や、やっぱり私ぃ、恥かしいから良いよぅ・・・手作りなんてぇ・・・」
「今更なに言ってるのよ、メグ。最初が肝心なんだから・・・って言ったのはメグじゃないの」
よくよく見れば、隣町の女の子も多数買いに来ているようだ。
「えっと、サッカー部のみんなに、クラスのみんな。だから・・・やっぱりこのくらいかな?」
「先輩、凄い量ですね。手伝いましょうか?」
「う、うん。お願いしちゃって良いかな?」
手作り用の割チョコを大量に抱えた二人組がいる。
「はぁ、全く・・・。考えてみればチョコなんてカカオの実から作ってこその手作りね。その方が色々混ぜやすいし・・・」
「ほーっほっほ、この10円チョコでも文句は言わせませんわ! わたくしにチョコがもらえること自体、幸福の絶頂ですものね!」
中には一部場の雰囲気にそぐわない方々もいらっしゃるようだ。
「うっわ〜、さすが流行りのお店だね! 見てみて、あれチョー可愛い!」
「はい、本当に、可愛らしい、チョコレート、ですねぇ・・・」
「あーん、もう! そうじゃないって言ってるじゃない! ジャスト・ア・モーメント! やっぱり私に貸して! 自分で書くわよ!」
「お菓子作りの本、図書館にもあったかしら・・・?」
「なになに・・・細かく砕いたチョコを湯煎で溶かす・・・? まぁ、砕くくらいわけないけど・・・チョコ作りって結構体力勝負なんだな・・・」
「はぁ、どうせ買っても渡せないんだろうけど・・・でも、頑張ってみようかな。ぶつかった拍子にさり気なく落して行くとか・・・」
「う〜ん、これくらい大きければ、先輩も喜んでくれるかな・・・?」
「ふ・・・バレンタインか・・・。もらうのも良いが、やはり・・・」
若干一名、男の人がいたような気もするが、とにかく混雑する店内を掻き分け、中に入る。
「ふぅ・・・凄い人。やっぱり女の子の一大イベントだもんね、美幸ちゃん?」
「うんうん、そうだねぇ〜」
案の定入り口付近で安売りチョコ争奪戦の余波を浴び、目の周りにくっきりと殴られた跡の残る美幸が頷いた。
「うふふ、それでぇ、楓はぁ、一体誰にチョコを送るのかなぁ〜?」
「え・・・? そ、それは・・・き、聞かない約束でしょ? それに美幸ちゃんだって・・・」
「にゃはは、それもそっかぁ! んじゃ、早速物色しよう!」
「うん! じゃあ最初は・・・あっちのチョコを見に行かない? 型とか器具とかはさ、凄い人込みだし・・・」
「そうだね。さすがの美幸もぉ、これ以上踏まれるとちょっと辛いかもぉ〜」
二人は比較的空いている出来合チョコ売り場を見に行くことにした。やっぱり手作り、とは思うものの、あるいは無難に出来合いチョコでも、という思いもある。最近は可愛いチョコも多いし、初めての手作りチョコだ。失敗した時のために予備もあった方が良い。
売り場ではしばらく別々に行動、ということにした。気に入ったチョコをことごとく横手から攫われ、涙を流している美幸をよそに、楓子は真剣に並べられたチョコを吟味する。
「えっと・・・これも可愛いし、あれも可愛いし・・・どれも可愛いから、迷っちゃう・・・」
コアラがハートを抱いているチョコ、ケロケロでべそちゃんがハートを抱いているチョコ、メッセージスペースの周りを天使が飛び交っているハート型のチョコ、エトセトラ・・・。イグアナ型のチョコさえ「可愛い!」と思ってしまう楓子だから、目移りしてしまって困る。
「どうしよう・・・、どれも可愛いよぉ〜。全部欲しいぃ〜!」
それが正直な気持ちだが、やはり買い物には予算がある。それにこれはあくまで予備。手作りチョコの器具を買うお金まで使ってしまっては本末転倒だ。
悩みに悩み、美幸がチョコ争奪戦に巻き込まれて殴られ、蹴られ、そろそろ自慢の自己修復能力が底を尽きかけた頃、楓子は一大決心してチョコを選んだ。
手作りでない以上、心が伝わるやつが良い。だから、メッセージスペースのある、天使のチョコに決めた。
悩んでいる内にお気に入りのチョコがなくなってしまう・・・という不幸は、全て美幸が引き受けてくれていたので、その可愛いチョコは奇跡的にまだ売れ残っていた。思いもしない幸運である。
そして「他の可愛いチョコさん、ゴメンね!」と思いつつ、手を伸ばした楓子だが・・・楓子と同時に、横手から伸びた手が天使のチョコを掴んだ。
「・・・!」
驚いて手の伸びて来た方を見る。そこには楓子同様、驚きに目を丸くした少女が一人。
「・・・き、貴様は! こ、これはメイが見付けたチョコなのだ! その手を離すのだ!!」
驚きの表情から一転、居丈高に言い放ったのは言うまでもない。一つ年下の伊集院メイだ。面識はほとんどない楓子だが、科学部を電脳部に変えてしまったり、ヘリで初登校したりと、話題の尽きないメイだ。名前も性格も知っている。
「い、伊集院さん・・・?」
「ほう、メイのことを知っているのか。・・・まぁ、同じ高校だしな。それにメイは有名なのだ。当然なのだ。そんなわけで、メイを知っているなら話は早い。その手を離すが良いぞ、佐倉楓子」
「え・・・? わたしのこと・・・?」
「ふ・・・メイに知らぬことなどないのだ! とにかくその手を離すのだ! このチョコはメイが見付けたのだ!」
自分がメイを知っているのは確かに当然のことだが、その逆があるとは驚きだった。ひびきの高校はマンモス校だ。どんな気紛れで名前を覚えられているかは不明だが、それが幸福なのか不幸なのかは微妙である。
「ええい、佐倉楓子! 何を呆けておるのだ! いい加減、手を離すのだ!!」
?マークを乱舞させていた楓子だが、いらついたメイの声で我に返る。反射的に手を離しかけるが、それより先に立ち直る。
「で、でも・・・わたしだって、このチョコが欲しいモン!」
声にこそ出さなかったが、そんな思いで楓子はむしろしっかりとチョコを握る。何しろ散々悩んだ挙げ句に選んだチョコだ。おいそれと他人には譲れない。
そんな楓子の心情を察したか、メイが不敵に笑う。
「ほう、メイに逆らうつもりなのだ? 中々根性のあるやつなのだ」
「こ、これだけは、いくら伊集院さんでも渡せないモン!」
気圧されながらも言い切る楓子に、どこからか咲之進が現れ、懐から拳銃を抜く。
ぎょっとした楓子だが、手は離さなかった。これは恋する乙女の意地だ。このくらいで引き下がっていては、女の戦場バレンタインは乗り切れない!(んな大袈裟な・・・)
「よすのだ、咲之進! これはメイと佐倉楓子の問題なのだ!」
「し、しかしメイ様・・・!」
「メイに逆らうつもりか、咲之進? いつから貴様はそんなに偉くなったのだ? それに今日は男の貴様が出しゃばって良い日ではないのだ。下がっているのだ!」
「・・・は、はい・・・」
メイに一喝され咲之進はすごすごと引き下がる。楓子は安堵すると同時に、やはり伊集院さんて怖い、と思った。
「・・・さて、佐倉楓子」
咲之進を追い払うと、メイは真っ正面から楓子を見詰めた。
「な、何ですか?」
「貴様がこのチョコを手放したくないという気持ちも分かるのだ。だが、それはメイとて同じこと。やはり譲れないのだ。・・・だがその気概や天晴れなのだ。このメイに真っ向から立ち向かうその勇気をかってやるのだ。そこで平和的手法でどちらがこのチョコを買うのか、決めるのだ」
「は、はい・・・」
「うむ、よろしいのだ! では、早速決闘なのだ!」
「・・・け、決闘!?」
「うむ! 昔から苦労して手に入れたものにこそ価値があるというのだ。メイも同感なのだ。敵を正面から倒し、その上で戦利品を手に入れる。それでこそ3日後に迫った一大イベントも盛り上がるというものなのだ!!」
「3日後・・・ということは・・・その、伊集院さんも・・・?」
「!!! ふ・・・お喋りが過ぎたのだ。とにかく・・・表に出るのだ、佐倉楓子!! 咲之進! 伊集院家特殊防衛隊を総動員し、そのチョコを他の庶民どもから守るのだ!!」
「御意」
「さあ、佐倉楓子! あのチョコを賭けて決闘なのだ! ついて来るのだ!!」
「え・・ちょ・・・、その・・・伊集院さん・・・!?」
ついて来いもなにも、強引に腕を掴まれ、楓子はズルズルと店外へと引きずられて行った。
「そ、そんなぁ・・・わたし、決闘なんて出来ないよぉ〜!」
むろん、そんな嘆きがメイに届くわけもなく。
なんの因果か楓子は、予備用に買おうと思っていたチョコを巡って、あの伊集院メイと決闘することになったしまったのだった。
ちょうどその頃、美幸が幸運にも売れ残りのチョコをゲットしたというのだから、ひょっとしたら不幸の神様が一時的に楓子の方へ乗り移って来たのかもしれない。
☆ ☆ ☆
決闘である。
西部開拓時代のアメリカ辺りならともかく、現代日本ではそうそうあるものではない。
決闘。
そもそもバレンタインと言えば、楓子のような引込み思案な子が、勇気を出して堂々と好きな人にアプローチ出来る、非常に女の子らしいイベントであるはずだ。
間違ってもチョコを巡って血で血を洗うような、殺伐とした雰囲気漂うイベントではない。
賭けの対象がチョコなので、まぁ甘い雰囲気がある、とも言えなくはないが意味が違う。
街頭レポートなどで混雑したお菓子屋さんを中継することはままある事態だが、お菓子屋さんの前に屈強なSPによって作られたバトルフィールドが出来上がる、などという事態はそうそうあるもんではない。
その中央に立ち尽くし、楓子は神に祈りたい気分だった。
「ただチョコを買いに来ただけなのにぃ〜」
そんな嘆きは仁王立ちのメイには届かない。
「ふふふ・・・それではルールを説明するのだ! 戦って、勝った方がチョコを手にすることが出来る! それだけなのだ! 他はルール一切無用!! 咲之進、もし手出ししたら問答無用でクビなのだ!」
メイ様命の咲之進は他の護衛に押え込まれているが、メイは念の為に釘を刺した。そして楓子に向き直る。
「では待たせたのだ。勝負なのだ!!」
ビシッ! と指を突きつけるメイだが、「勝負なのだ」と言われても楓子にはどうしようもない。
「そ、そんなこと言われても、困る〜」
「むぅ・・・ちゃんとやる気を出すのだ! それとも貴様、貴様の心はその程度なのか!? その程度の気持ちでしかないのか!?」
メイの挑発に楓子がハッと我に返る。
「わ、わたしの気持ち・・・」
「負けを認めるか? 別にメイは構わないのだ。貴様の気持ちがその程度であるなら、このような勝負、するまでもないのだ!」
「・・・み、認めないモン! わ、わたしだって・・・わたしだって、伊集院さんに負けないくらい、好きだモン!」
おおっ、とギャラリーから歓声が巻き起こった。
(そ、そうだよ! 絶対絶対、負けないモン! 伊集院さんが相手でも、あの人を思う気持ちだけは負けないモン!!)
・・・というか、いつの間にかお互いの想い人が同一人物になってないか??
思い込みっていうのは怖いねぇ・・・。
そして思い込みの激しさなら誰にも負けないであろうメイと、余り免疫もないので突っ走る傾向にある楓子だ。見事にお互い、現実を屈曲して思い込んでくれた。
「それでこそメイのライバルに相応しいのだ! いざ、勝負なのだ!!」
「ま、負けないモン!!」
メイが疾った! 地を這うような低さで、獣のような鋭い目で!!
普段は咲之進などに守られているメイだが、仮にも伊集院家の娘として生まれ、あらゆる英才教育を受けて来た少女だ。ある程度の護衛術・体術も使う。
そして楓子も身構える。こちらは武道など縁遠い生活をしているが、仮にも野球部マネージャーを勤め、日々何十人という部員を相手にしている根性の持ち主である。「が、頑張るモン!」って感じに両の拳を握り締め、不格好ながらメイを睨み付けた。
メイの素晴らしい脚力で、二人の間合いが一気に詰まる!!
・・・ところで、後程彼女が語るには、こんな事情だったらしい。
彼女は彼女にしては珍しく、幸運にも無事目当ての(?)チョコを買うことが出来た。
普段ならレジに行くまでに5・6種類の不幸に遭遇し、ぐちゃぐちゃになったチョコを手に涙を流すところなのだが、何故か今日は何事もなくレジへと辿り着いた。
「にゃ〜、こんなラッキーもあるもんなんだ〜♪」
普通の人なら当然のことでも、彼女にとっては非常に稀なる幸運だ。スキップなどしながら友人の姿を探し、店内をうろうろと歩き回った。
ところで揺り返し、というのを御存知だろうか。
まぁこの場合、揺り返しというには用法が違うのだが、似たような現象だ。幸運続きだった彼女だから、当然揺り返しは不幸の連続、オンパレードである。
とりあえず友人の姿を探して道路へと出てみた彼女は、店の前に出来た人垣に何事かと近寄っていった。
そこでつるり、と足を滑らせたのは、ごくごく当然の結果である。
「わにゃ、わにゃにゃ〜〜〜〜!!」
つつ〜と路面を滑った彼女は車道へと飛び出し、そこに真っ赤なスポーツカーがぶちかましをかけた。
「はれ〜〜〜〜〜!」
吹っ飛んだ彼女はショッピング街に建設中の伊集院デパート工事現場へと転がり込んだ。
ただいま鉄骨を組み立て中である。
当然、彼女はそんな鉄骨さんに引っ掛かり、宙づりになった。
「ひょ〜〜〜〜〜〜〜!」
驚いて暴れた彼女は不幸にも鉄骨から外れ、地面にまっ逆さま!!
そこに偶然通りかかったショベルカー ⊃=[。。]=3=3=3 の正面にある⊃=こんな部分に彼女は墜落したそうだ。
運悪く(?)そこには薄い氷が張っていた。昨夜お掃除して、拭き忘れていたのかもしれない。
彼女は見事に⊃=こんな部分をつるり〜と滑った。かなりの速度で。
向かう先は先程見た人垣の中心。
彼女は綺麗な放物線を描き・・・・・・。
「・・・覚悟するのだ!!」
一気に間合いを詰めたメイは掌打を放とうとした。さすがに拳で殴るのは気がひけたし、なにより自分の手を傷付ける恐れがある。
だが・・・恋のライバルとして手加減は無用!!
深く踏み込み、裂帛の気迫を吐き掛けた・・・その時!!
ご〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!
突然の、頭上からの重い一撃。「なんなのだ!?」と思う間もなく、メイの意識は一瞬で暗くなる。
驚いたのは咲之進だ。突然空から少女が降って来たかと思うと、見事にピンポイントでメイの頭に着陸したのだから!!
「め、メイ様ぁ!!」
瞬時にSP数人を薙ぎ倒し、咲之進はメイを助け起こす。その際、メイをこんな目に合わせた謎の少女に、さり気なく蹴りを入れることを忘れなかった。
「うぅ・・・、咲之進・・・。一体、どうなったのだ・・・?」
「はい・・・。突如空から降って来た少女にぶつかり・・・」
「・・・そうか・・・」
メイは傍らで目を回している美幸を見詰め、溜息を吐き、それから心配そうに自分を見ている楓子を見上げた。
「ふ・・・どうやら神様は貴様を味方したようだな・・・佐倉楓子・・・」
「そ、そんな・・・」
「良いのだ・・・メイは・・・メイはもう、諦めたのだ・・・。是非とも下僕に欲しかったのだが・・・山口は貴様に譲るのだ・・・」
メイの言葉に楓子は驚愕した! 何故なら!!
「え・・・っと・・・、山口くんて・・・誰?」
「・・・なぬ?」
「ぅんと・・・確かに野球部に、山口くんっているけど・・・、そのぉ・・・」
困ったように、そして照れたように、楓子はぽっと頬を染めた。
「・・・・・・あ、綾野さん、なんだけど・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・(真っ赤)」
「・・・・・・(ぱた)」
「あああ! め、メイ様ぁーーーーーーー! メイ様ぁーーーーーーーーーーーー!」
☆ ☆ ☆
かくして楓子は見事決闘に勝利し、天使のチョコを手に入れたのだ!!
まぁ途中、些細なすれ違いと勘違いこそあったものの、元々はこのチョコを巡る決闘だったのだし、とりあえずOKである。
・・・だが・・・。
「考えてみれば・・・これから手作りチョコの器具を買うんだったよぉ〜」
身も心も疲れ果てていたが、ここで帰るわけにはいかない。
何故ゆえたかが予備用チョコでこんな苦労をしなければいけないのか・・・?
釈然としない思いながらも、根性を振り絞って手作りチョコの器具を買いあさる。
「・・・あ、あの型、可愛いぃ〜」
イグアナさんの型を見付け、楓子は嬉しくなって手を伸ばした・・・が!
またもや横手から、同時に手が伸びていた。
「・・・・・・ほう、また貴様か、佐倉楓子・・・・・・」
ひくひくと頬をひきつらし、メイがそこに立っていた。
「い、伊集院さん・・・」
「貴様、天使のチョコを手に入れたというのに、何故まだここにいるのだ!?」
「だ、だって〜、あれは予備のチョコだったんだモン!」
「・・・なるほど・・・貴様もメイと同じことを考えておったのだな。よかろう! 互いに勘違いは修正したが、このイグアナちゃんの型を使いたいという思いは同じ!! ならば潔く、平和的に決闘で勝負なのだ!!」
「うぅ・・・・・・、ま、負けないモン!!」
その日2度目の決闘は、イグアナの型を巡る決闘だった。
その結果は・・・?
ちょうどその頃、美幸がお気に入りの型を買えるという幸運に巡り合っていたそうだから、まぁそういうことだ・・・。
かくしてバレンタイン・準備期間、2月11日は終わった。
決戦の幕開けとしては、無意味なほど波瀾万丈な一日であったとさ・・・。
>バレンタイン☆狂想曲(2)に続く<
バレンタインSPです。ただし、今回はその準備期間SPやけど・・・。
いやしかし、今回はちょっと楓子ちゃんの影が薄くなってもーた。
それにお気づきでしょうが、もう時系列はめちゃくちゃです。この時点でメイ様が1つ年下で高校生のはず、ないんです。
でもまあ、それはそれ。その場のノリってことでお許し下さい。お遊びお遊び、ね? SPなわけだし。
それとお遊びできらめき市の方々も登場させちゃいました。えへ。
そんなわけ(どんなわけ?)で、運が良ければ2月14日更新、悪ければ綾野さんのスケジュール次第(笑)な2話もよろしゅう!
柊でした!
作者:柊雅史