戦ってます。
毎日毎日、愛のために。
愛のために〜♪
書き人:柊雅史
”ピィーーーーーーーー!”
沸騰したヤカンが悲鳴のような甲高い声で鳴いた。
「あ、やぁ〜ん! ちょっと待って、待ってぇ〜!」
慌てて手にしたフライパンをコンロに置き、ぱたぱたとスリッパを響かせて、楓子はヤカンを下ろす。
”こぽこぽこぽこぽこぽ〜”
沸騰したお湯を電気ポットに注ぎ、保温にセットする。この方が経済的である・・・と、友人が言っていた。
そこに。点けっぱなしにしておいたテレビが次のバッターを告げる。
『6番、セカンド、羽月。背番号24』
「あ、建造さんだ!」
楓子は急いでテレビの前に行き、ちょこんと座ってビデオの録画スイッチを入れる。接続されているビデオは2つ。こちらは楓子の『建造さんの記録用(はぁと)』である。
「建造さん、頑張れ〜!」
テレビの前でもしっかり応援する。
それが『お嫁さん♪』のお仕事だモンね!
”カキーン!”
楓子の応援が届いたのか、テレビの中の羽月は左中間を破る二塁打を打った。
「やった、やった!」
パチパチと手を叩いて、楓子は喜びを顕わにする。羽月のアップがテレビに映り、次のバッターへと切り替わったところで楓子はコレクション用のビデオを止めた。
「これで3打数2安打! シャイアンツも勝ちそうだし、今日はお夕食、頑張らないとね!」
言ってから、はたと思い出す。
「あ、いっけな〜い、わたしったら! 火、点けっぱなし〜!」
急いで台所に駆け込むが、案の定野菜炒めを作っていたフライパンからは黒煙がもくもくと立ち昇っている。
慌てて火を止めた楓子は、焦げ付いた野菜炒めを見て溜息を吐いた。
「はぁ・・・またやっちゃった。もう・・・どうしてわたしって、いつまで経ってもおっちょこちょいなんだろう・・・」
焦げた野菜炒めを大皿に移す。捨てるのはもったいないし、食べれないほどではない。
これは自分で処理しよう、と楓子は決めた。遅くに疲れて帰って来る旦那様には、食べさせられないよね?
・・・楓子と羽月がめでたく結婚して、早1年。20歳の時に羽月が1軍に上がり、そこでプロポーズを受けた。その後2年ほど待って、楓子が大学を卒業、生活基盤も安定したところで結婚。それが大体1年前。
楓子は現在23歳だから、世間的にも若妻さんである。加えて楓子は相変わらずの童顔だから、こうして白いエプロンで台所を動き回る様は、新婚妻そのものって感じだった。
職業柄、羽月は帰りが遅い。けれど試合後は真っ直ぐに帰宅して、遅すぎる感のある夕食を自宅で摂る。もちろん遠征の時はそうも行かないが、ホーム球場で試合の時はそうしている。
「やっぱり楓子のゴハンが一番美味しいからね」
などと言われて、嬉しくてしょうがない楓子だった。最初の頃はその羽月が帰って来るまでしっかり待っていた楓子だが、話し合いの結果、最近は先に夕飯を済ませることにしている。
「待っててくれるのは嬉しいけど、試合が長引いたら楓子がお腹空かせてるんじゃないかとか、心配で困る」
というのが、羽月の主張だった。試合に集中できないと言われては仕方ない、楓子は渋々先に食べて待っていることを了承した・・・。
そんなわけで、羽月の応援をし、活躍を見ながら夕食を作り終えた楓子は、ビデオのリモコンを片手にゴハンを食べるのであった。
今日のメニューは焦げた野菜炒めが二人分、大皿にてんこ盛り。それと上手く固まらなかった茶碗蒸の失敗作が3つ、煮物の試作品、デザートプリンの試作品、である。
はっきり言って未だにラブラブでアツアツでベタベタでアマアマな新婚さんの楓子は、旦那様には絶対に美味しい物を食べてもらうんだ〜と、それはもう健気に決心していた。
故に、新しいメニューは成功するまで練習するし、今日の野菜炒めのような失敗作は、自分で全部処理することにしている。
捨てたりするのはもったいないし、残せば帰って来た羽月が「せっかく楓子が作ってくれたんだもん、食べるよ(にっこり)」などと言い出すので、多少量が多くとも頑張って食べなくてはならない。レパートリーは少なく、現在進行形で練習中の楓子だ。食卓には常に2・3品の試作品が並ぶことになる。時には絶望的な量になることもあった。
・・・そんな熱〜い新婚さんな楓子だから。
現在、非常に切迫した問題を抱えていた。
『(検閲!)kg』
お風呂上がりに体重計に乗ってみた楓子は、そこに表示された数字の列にたらり、と汗を垂らした。
「い、いやぁ〜ん、また増えてる〜!」
体重計の上に座り込み、楓子は半べそになった。身につけているのはバスタオル一枚。これ以上表示を軽くするのは不可能だった。
「や、やっぱり食べ過ぎ、だよね・・・。どうしよう〜」
どうしようもない。
食べる量を減らして失敗作はごみ箱へ・・・ということが出来れば良いのだが、性格的にそれは出来ない相談だった。まして食べ物というのはタダではない。そして生活費を稼いでくれているのは、愛しの旦那様だ。
じゃあ、素直に「失敗しちゃったの」と言いつつ、しょんぼりと失敗作を旦那様に出す、という手もある。
優しい旦那様は「良いよ良いよ、楓子が作ってくれたんだもん、なんだって美味しいさ!」と、愛情たっぷりに笑ってくれるだろうが、それもまた出来ない。
『愛』ゆえに!!
結局楓子に出来ることといえば、羽月がオフの時にも体を鍛えようと購入したトレーニングマシーンで、羽月が帰って来るまでの時間汗を流すことくらいである。
お風呂に入ってからトレーニングってのもどうかと思うが、まぁお風呂ってのはそれなりに痩せるもんだ。2回入っても問題ない。
「よ〜し、頑張るモン! 負けないんだから!」
”がしゃん、がしゃん、がしゃん、、、”
気合いを入れて楓子はトレーニングマシーンでのトレーニングを開始した。
時々各局のスポーツニュースをはしごし、今日の試合結果を見ながら、楓子は辛く厳しいトレーニングを続ける。
「愛のために〜、あなたのために〜、生きて行きましょう〜♪」
なんとなく古臭い歌を口ずさみながら。
楓子の戦いの日々は続くのだった。
・・・そう、全ては愛のために!!
>愛のために〜:FIN<
突然何事!? かとお思いでしょう。書いた本人が思ってるくらいですから。
なんとなく「新婚さん」な楓子ちゃんが書きたくなったので、ギャグだかラブコメだかよ〜分からん物を書いてみました。
書き終わって読み返す毎に、「僕は何を書きたかったんだらう?」との疑問が大きくなる一方です。
「まぁほんわかした新婚生活を満喫しているんだな〜」と、少しでも思ってもらえれば満足です。
「どうリアクションすれば良いんだ?」と、そう思うのが普通でしょうな、やっぱり。
今回は羽月建造さんの名前を使わせてもらいました。ありがとう〜&ごめんなさい、よく分からない作品で。
ラブラブ度もちょっと低めかもしれない・・・。勘弁してね? ね?(媚び媚び)
この程度でも自分を出すと照れて、蕩けて、使い物にならなくなっちゃうんです〜。(ToT)さめざめ〜。
まぁ新婚で、ラブラブでアツアツでベタベタでアマアマなんで、許して下さいませ。
んではっ!!
作者:柊雅史