一年に一度だけの、自分のためのお祝い。
――楓子ちゃん、今日は何でも好きな物を買ってあげるわよ。
――ホントぉ?
――うん。だって、今日は楓子ちゃんのお誕生日ですもの。
小さい頃は、誕生日がいつもいつも楽しみで、一ヶ月くらいも前から何を買ってもらおうか考えていたっけ…。
だけど。
淋しかった。
私のお父さんは転勤が多くて、転校ばっかりして。
仲の良いお友達があまりできなくて、みんなでお誕生会、なんてやったことはなかった。
道路を歩いていて、お誕生会をやっている声が聞こえると、いつも立ち止まって。
羨ましかった。
でも一昨年の誕生日は、お誕生会はできなかったけど…。
――佐倉さん、はい、これ。
――え?これって…。
――今日、誕生日でしょ?だから、プレゼント。
――あ、覚えててくれてたんだ!ありがとう。
嬉しかった。
あの人にプレゼントをもらえたことが、嬉しかった。
あの人がお祝いしてくれたことが、嬉しかった。
でも、去年の夏、またお父さんの転勤が決まって、私はまた転校しました。
その年の誕生日。
私はまた淋しくて。
あの人がいないのが、淋しくて…。
だけど、あの人は今年も、プレゼントを贈ってくれました。
――楓子ちゃん、お元気ですか?誕生日のプレゼントを送ります。誕生日までに届けば良いけど…。
とにかく、誕生日おめでとう!
とっても、嬉しかった。
あの人が、またお祝いしてくれたことが、とっても嬉しかった。
あの人が、私の誕生日を覚えていてくれたことが、とっても嬉しかった。
だけど、すぐ近くでお祝いしてくれないのが、淋しかった。
そして、今年も私の誕生日が来ました。
今年も、プレゼントはもらえると思う。
少しだけ、期待しています。
だけど今年も、あの人は近くにはいない…。
今年は、どんな物もいりません。だから、あの人に会わせて下さい。
――そうお願いした時、玄関のチャイムが鳴りました。