チッチッチッチッチッ・・・・・・。
 

無情に時間を刻む時計の音。
 

  チッチッチッチッチッ・・・・・・。
 

少しずつ減っていく、残された時間。
 

  チッチッチッチッチッ・・・・・・。
 

もうすぐ終わってしまう、わたしだけの特別な日・・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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君へ贈るプレゼント

Hiiragi Masashi

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「はぁ・・・・・・。柊さん、忘れちゃったのかなぁー・・・・・・」

ぽふん、と布団に寝転がって、わたしは溜息を吐いた。

今日はわたしの18回目の誕生日。

16回目のお祝いは、ひびきの高校で迎えた。

部員のみんなから贈られた「勝利」のプレゼントは、今でも凄く心に残っている。

17回目のお祝いは、大門高校で迎えた。

大門のみんなも、そしてひびきののみんなも、たくさんのプレゼントをくれた。

もちろん、柊さんも・・・。

16回目にはスポーツタオル。17回目には毛糸セット。

どちらも大事にしている。毛糸セットの半分は、先日の誕生日にお返ししちゃったけど・・・・・・。

そして、今年は18回目の誕生日。

これで法律上は結婚出来るんだよね・・・なんて考えると、頬が赤くなるのが分かる。

結婚・・・なんてこと、考えたことなかった。

でも、もうそんな年なんだよね・・・。

わたしが結婚する時に、隣にいるのは誰なのかな・・・・・・。

そんなことを考えて、すぐに恥ずかしくなって思い浮かべそうになったイメージを頭から追い払った。

「はぁ、もう・・・・・・そんなこと、あるわけないのに・・・・・・」

確かに仲は良いと思うけど、でもそれだけと言えばそれだけなのかも知れない。

すれ違いも多い。いつもいつも、少し会ってはすぐにお別れが来てしまう。

それに・・・・・・そう。特別に思っているのは自分だけかもしれないよね・・・・・・。

ちょっと沈んだ気持ちでベッドから体を起こして、今日届いたプレゼントの山を見詰めた。

手芸書は西山さんから。

花束は川鍋さんから。

お洋服は綾野さんから。

そして、謎の中国薬湯は、留学生の子龍さんから。

大門のみんなにも、たくさんのプレゼントをもらった。

でも・・・・・・一つだけ、足りない。

一番大切で、一番特別なプレゼントが足りない。

柊さんからのプレゼントが、まだ届いてない・・・・・・。

今年は、忘れちゃったのかな。

そうだよね。当たり前だよね。

ただのマネージャー仲間だもん。

柊さんが選手に復帰してからは、少しずつ話す機会も減っちゃって。

ずっとずっと、大事なコトも伝えられないで。

自業自得、だよね・・・・・・。
 
 

  チッチッチッチッチッ・・・・・・。

    チッチッチッチッチッ・・・・・・。

      チッチッチッチッチッ・・・・・・。

        チッチッチッチッチッ・・・・・・。
 

後20分・・・。

今日と言う日の魔法が解ける。

シンデレラになった気分?

でもわたしは、別にガラスの靴を履いているワケでもないし、王子様と踊ったこともない。

・・・・・・あ、フォークダンスはしたけど。

うん、楽しかったな、あの時は。まだそんなに柊さんのこと、特別に思ってなかった頃で。

でもお互い、なんとなく気恥ずかしくて、真っ赤になっちゃって。

・・・・・・なに考えてるんだろう、わたし。

ヤダな、どんどん気持ちが暗くなっていく。

せっかくの誕生日なのに。

特別な日なのに。
 
 

  ピンポーン
 
 

あれ? 誰か来たのかな? こんな時間に?

「かえちゃーん! 悪いけど出てくれるー? お母さん、お風呂上がったばかりなのー!」

「あ、はーい!」

部屋の向こうからお母さんの声が聞こえて、わたしは玄関に急いだ。

「はいはーい! ちょっと待ってくださいー」

わたしはサンダルを履いて、ドアを開けた。

「どもー、運送屋でーす☆」

「あ、ハイ・・・」

「お、もしかして君、ここの娘さん?」

「え、そうですけど・・・?」

なんだかとっても元気の良いお姉さんに聞かれて、わたしは頷いた。

「ふーん、そうなの〜。いやぁ〜、少年もやるじゃない〜、まさかこんなに可愛い子だとは〜!」

「あ、あの・・・・・・?」

「あ、いやいやいやいやいや、なんでもないのよ〜。あ、こことここにハンコ、よろしくねん♪ それ、君宛てだから、楓子ちゃん」

「あ、ハイ・・・」

「ん。それでは毎度どうもでした〜〜〜〜〜☆」

しゅた、と敬礼をして、運送屋のお姉さんは風のように去ってしまった。

「・・・・・・あれ? どうしてわたしの名前・・・?」

ふと疑問に思ったけど、宛先に『佐倉楓子様』とあるのに気付いて、納得した。

でも、ちょっと変なコト、言ってたような・・・・・・?

疑問に思いながら、受け取った荷物を見てみる。

差出人は・・・・・・。

『柊 雅史』

「・・・・・・柊さんからだ・・・・・・!」

トクン、と胸が高鳴る。

覚えててくれたんだ、わたしの誕生日!!

わたしは嬉しくて、弾むような足取りで二階へ駆け上がった。

柊さんからのプレゼント。とっても嬉しい・・・。

でも、ちょっと待たせすぎだゾ! なんちゃって!
 
 

 ガサガサガサガサガサ・・・・・・パラリ。
 
 

「・・・・・・あれ?」

大きな箱から出て来たのは、一枚の紙。

なんだろう・・・って、落ちて来た紙を拾い上げる。
 
 

『楓子ちゃんへ   お誕生日おめでとう!

 遅くなっちゃってゴメンね。何をプレゼントしようかって、悩んじゃって。

 気持ちが伝わるようなプレゼントって、なんだか難しくてさ。どうしよう、どうしようって。

 結局、思ったんだ。

 ちゃんと相手のことを見て、手渡しするプレゼントに勝るプレゼントはないって。

 だから、ちょっとだけ窓から外を覗いてくれる? 』
 
 

「・・・・・・窓から?」

わたしはびっくりして、恐る恐る窓から外を伺った。

そこには・・・・・・。

ちょっと照れたように手を振っている、柊さんがいて。

わたしは弾かれたように、階段を駆け下りていった。
 
 
 
 



 
 
 

「実はさ、さっきの運送屋さん、ちょっとした知り合いなんだ。んで、話をしたら学校終わってからでも、バイクなら今日中に行って帰って来れるって聞いて。だったらちゃんと手渡ししようって思ったんだ」

家の前でしばらくお互い困ったように黙り込んだ後、柊さんが照れたように言った。

「こんな時間に伺うのもどうかなーって思ったんだけど・・・・・・迷惑だったかな?」

「そ、そんなことないよ! 嬉しいよ、すっごく!」

「そう? 良かったぁ〜・・・。いや、途中で舞佳さん・・・あ、運送屋さんなんだけど、その人が道を間違えちゃってさ、本当はもっと早く着くはずだったんだけど。そーゆうことなら大船に乗ったつもりで任せなさいって言われて、任せちゃったのが悪いんだけど・・・」

はぁ、と溜息を吐く柊さんに、つい笑いが零れる。

「でも、本当にびっくりしちゃった。もしかして柊さん、わたしの誕生日なんて覚えてないのかなーって、思っちゃった」

「はぁ? まさか! いや俺、自分の誕生日忘れても楓子ちゃんの誕生日は忘れないって!」

「え・・・・・・」

「あ・・・・・・い、いや、だってさ、ほら、俺が選手として復帰した時、すげー世話になったし!」

「あ、うん・・・。でも、わたしは何もしてないよ? 柊さんが頑張っただけだもん」

「いやでも・・・・・・頑張れたのは楓子ちゃんのお陰と言いますか・・・・・・

「え?」

「あーっと、そうそう! そうだ、プレゼント! うん、もう時間ないんだったッ! 今日中に渡さないと、何のために6時間も道に迷ったのかわかんねーしッ!」

柊さんが慌てて、上着のポケットから小さな箱を取り出した。

「えーと、そのー・・・なんと言いますか、わたくし、バイトもしたこともなく、生来の浪費グセから貯金もなかったワケで・・・・・・」

わたしに箱を渡すと、柊さんがバツの悪そうな表情でしどろもどろに言う。

「そんなワケで、大したものは買えないんだけど、でもその、いわゆる18歳の誕生日だし、って言うか、いつかきっと・・・」

「あ・・・・・これ、指輪?」

「う、うん。いや、イミテーションなんだけど、ね・・・・・・一応、20軒ばかり店回って、一番楓子ちゃんに似合うのにした辺りの努力を買って頂けると嬉しいかと・・・」

「くすくす・・・・・・ありがとう、柊さん! とっても嬉しい・・・・・・」

「や、そう言って頂けるととてつもなくありがたいです」

ほっと胸をなでおろす柊さん。

でも・・・・・・本当に、嬉しい。

確かに、ガラスで出来たイミテーションだけど・・・・・・6時間もかけて、届けに来てくれた思いが、いっぱいつまってるもん。

ダイヤモンドの指輪を郵便で送られるより、何百倍も嬉しいよ。

こうして会いに来てくれた気持ちが・・・・・・。

「・・・・・・ね、柊さん。似合う、かな・・・・・・?」

わたしは少し考えてから、綺麗なガラスの指輪を左手の薬指に嵌めてみた。

サイズはぴったり。

「・・・・・・に、似合うよ」

「ありがとう・・・・・・」

ちょ、ちょっと大胆、だったかな・・・・・・?

顔が真っ赤になっていくのがわかる。

でも・・・・・・でもね?

この指輪は、きっとこの指が一番似合うって思ったんだ・・・・・・。

「・・・・・・あ、あのさ」

「え・・・なぁに?」

「うん。あの、さ・・・・・・いつかきっと・・・・・・・・ほんも「少対に〜〜〜〜〜!」からさ!」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「少年ー! もう12時回ったわよー! 早くしないと、ひびきの戻るの朝になっちゃうわよん!」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・はぁ・・・・・・」

柊さんが溜息を吐いた。

「もう戻らなくちゃ・・・あんまり話してないけど」

「うん、でもしょうがないよ。今日は本当に、ありがとうね? わたし、この指輪、大事にするから」

「うん。・・・・・・じゃあ、また・・・・・・」

「ウン! またね!」
 
 








今日もやっぱり、少しだけすれ違う。
 

今日と言う日。
 

特別な日にかけられた魔法が解ける。
 

でも、大丈夫。
 

わたしはシンデレラでもないし。
 

ガラスの靴も履いてないけれど。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

バイクにまたがって、見えなくなって行く王子様の背中に、わたしは言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「今度はわたしから、このガラスの指輪を持って会いに行くね?」













>続?<
 


*ご挨拶(弁明?)*

一大決心して楓子ちゃん・柊さんLOVE2計画発動中の柊です。
と言うことで、まずは誕生日をLOVE2に過ごしてみました。どうして楓子ちゃんに会いに行かない! と言う、フラストレーションの解消の意味もあります。
えーと、正直に言いますと、バレンタインに続いてこれまた一日(2〜3時間)書きです。忙しいんだもん!
なので、かなり書いた本人でもアラが気になります。楓子ちゃん一人称にしては変だし。読みにくいし<語感
でも気にしないで下さい。お願いします。
って言うか、「ちょ、ちょっと大胆、だったかな・・・・・・?」のところでつい口元がにやけちゃいませんか!? 僕はにやけますッ!!

では、楓子ちゃん・柊さんLOVE2計画への参加者をお待ちしております<いねーだろ、さすがに・・・。

作:柊雅史


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