前注:)このお話はちょっとばかりネタバレしています。
    内容そのものには触れていませんが、イベント内容が分かってしまうような話です。
    これを読む人はその点を踏まえてお読み下さい。
 
 
 
 
 

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             <X'mas特別SS>
          「数瞬のプレゼント」

              書き人:柊雅史

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「あ・・・、雪・・・?」

足元を見詰めて歩いていた楓子は、不意に視界に舞い下りた白い粉雪に歩みを止めた。

落していた視線を上げて、薄曇に覆われた空を見上げる。

クリスマス・イブ。綺麗に飾られたイルミネーションは、星空を飾ることが出来ず、その美しさを半減させていた。

だが今は、イブには不釣り合いであったはずの暗雲から、白い小さな妖精達が舞い下りている。

今年初めて舞い下りた彼らは、人工の明かりを受けてキラキラと輝いている。

まるで宝石のように。

無愛想だった空を、楽しげに踊っている。

「うわぁ・・・、ホワイトクリスマスだぁ・・・。綺麗・・・」

不意に訪れた幻想的な光景に、楓子は感動の呟きを漏らした。

同じように足を止め、空を見上げているカップルがそこここにいる。

そのことに気付いた楓子は、見上げていた視線を再び足元に落した。

「・・・良いな、みんなは。好きな人と、一緒にいられて・・・」

羨望と落胆と、そして・・・後悔。

もしもあの時、ちゃんと言えたなら・・・もしかしたら変わっていたのかもしれない。

色とりどりの花火が舞う空の下で。勇気を出して、この気持ちを伝えられていたら・・・。

こんな風に寂しい気持ちにはならなかったかもしれない。

「・・・でも、仕方ないよね。勇気を出せなかった、自分が悪いんだもん・・・」

カップルに埋め尽くされた駅前通りを、楓子は視線を落したまま歩き出した。
 
 
 
 

楓子が楽しげなBGMの中、沈んだ気持ちで視線を落し、歩いているのにはわけがある。

ほんの1時間ほど前のこと。

久し振りにひびきの市に帰って来た楓子は、ある人の家を訪れた。

聖夜の奇跡を夢見たのかもしれない。

いや、それがなくとも迷わずに会いに行っただろう。

いつの間にか彼女の心の中で大きくなっていた、あの人に。

いつの間にか好きになっていた、あの人に。

好きなのに会うことの出来なくなってしまった、あの人に。

・・・だけど、聖夜の現実は必ずしも奇跡を起こすわけもなく。

彼女を迎えたのは、応える者のいないチャイムの音だけだった。

好きだと言う気持ちに気付いた時、彼女に時間はなくなっていた。

そして友人のお陰で再会出来た時も、時間がまた邪魔をした。

そして今は・・・。

離れている時間と距離とが、また邪魔をする。
 
 
 

・・・駄目、なのかな・・・。

そんな想いが心のどこかで蟠っている。

好きだと思うほどに、寂しさが募っていく。

電話で話す度に、会いたいという想いが強まっていく。

彼と話すことは楽しい、けれど。

彼の優しい笑みが見れないから・・・。
 
 
 

いつの間にか楓子は、人通りの多い駅前通りを抜けていた。

気がつくと周りに人の姿はなく、彼女は一人になっていた。

・・・言いようのない寂寥感が、心を満たしていた。

「・・・・・・もう、やだよぉ・・・・・・」

堪えていた涙が一筋、冷たくなった頬を伝った。

「・・・う・・・っう・・・」

一度堰を切って溢れ出した涙と想いは、もう止められなかった。

小雪の舞う中で、小さな子供のように泣きじゃくった。
 
 
 

・・・クリスマスなんて、嫌い・・・。

・・・ひびきの市に戻ってこれて、浮かれていた自分が嫌い・・・。

・・・いつもいつも、後になって一人で泣いている自分が嫌い・・・。

・・・みんなみんな、大嫌いだよぉ・・・。
 
 
 

・・・どのくらい、そうしていただろう。

ふと、楓子は顔を上げた。

小雪舞う冷たい風が、一瞬暖かくなったような気がしたからだ。

「・・・・・・?」

視線を上げた楓子は、暗い空に仄かな光を見たような気がした。

気のせいかもしれないけれど、でも確かに仄かな光が夜空を走っていった気がした。

そして誘われるように・・・。

楓子はゆっくりと歩き出した。
 
 
 

仄かな光が導いたのは、あの人に別れと気持ちを伝えられなかった、あの場所だった。

伊集院大橋のある河川敷。

夏には花火大会が開かれる場所。

そこまで来て楓子は光を見失い、足を止めた。

・・・そしてまた、ふわりと温かな風が楓子を包み・・・。

楓子は振り返った。

ゆっくりと近付いてくる、人影を・・・・・・。
 
 
 
 

「・・・楓子、ちゃん・・・!?」

「あ・・・・・・」

驚いて足を止める彼。

驚きの表情から、徐々に笑みへと・・・いつも楓子を包み込んでくれた笑みへと変わっていくのを見て。

楓子の目に再び涙が浮かんだ。

さっき流した涙とは、違う涙が。

「・・・本当に、会えた・・・」

雪を見た時よりも遥かに嬉しそうに、楓子は呟いた。
 
 
 
 
 
 
 

奇跡を信じる少女に。

聖夜の奇跡を信じる恋する少女に。

それは誰かからの贈り物。

ほんの少しの時間、残された短い時間。

数瞬の奇跡のプレゼント。

彼女がその笑みと、人を愛する気持ちを失わないように・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 

そしてひびきの市の上空を渡った仄かな光は。

数多の奇跡を生むために流れていく。

・・・清らかな鈴の音を響かせて・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 >数瞬のプレゼント・FIN<
 
 
 
 
 


*あとがきのようなもの*

間に合った、かな・・・? どうだろう?
すっかりX'masのこと忘れてたよ、僕。スカイさんの書き込み見て、慌てて脳みそ回転させました。
・・・だから短いこととか、出会いのシーンがイベントと違う、などの問題点は御容赦下さい。m(_ _)m

X'masすぺしゃると言うことで、あのイベントに至るまでの楓子ちゃんを書いてみました。
う〜む、守る会の会員なのに、楓子ちゃんを泣かせてしまった・・・。反省。
でもあの場合はやっぱり泣いちゃうんじゃないかなぁ、楓子ちゃんなら。

それと今回もまた「相手」の名前は伏せました。っつーか、ほとんど出てない。でもこういう形式って難しいよぉ。
早急に波風立たない「相手」の名前を考えねば・・・。

思うに、これと似たような話が殺到する可能性がありますな。いやだなぁ、同じネタだと比較されちゃうから。
でもすぐにお正月・バレンタイン・ホワイトデーと、試練が連続してやってくる・・・。
うう、頑張ろう・・・。

今回、短すぎて楓子ちゃんらしさがイマイチ出せなかったのが心残りです。
次に書く「勇気の神様」か「お正月すぺしゃる」では頑張ろう。
でも長いの書くのって苦手なんだよなぁ・・・。

思いつくまま徒然と書き連ねましたが、最後に一筆。
楓子ちゃんに訪れたような奇跡が、これを読んで下さった皆様にも訪れますように。

では、「一緒に帰ろう・・・。ね?」
 

作者:柊雅史


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