ふわふわふわふわって、体が浮いているみたい。

「・・・ちゃん・・・楓子ちゃん!」

あれ? 北条さんが呼んでる・・・?

そう言えばわたし・・・北条さんと海に来て・・・それで、どうしちゃったんだっけ?

あ、そっか・・・急に目眩がして、それで・・・。

それで・・・どうしちゃったんだろう?
 
 
 

ぼんやりと霞む視界が次第にハッキリしてきて、わたしの顔を覗き込んでいる北条さんの顔が、すぐそこに見えた。

「・・・楓子ちゃん・・・良かった!」

ほっと息を吐く北条さんの吐息がかかって、ぽっと頬が熱くなる。

だってだって・・・すぐ目の前に北条さんの顔があるんだも〜ん!

「ハイハイ、少〜年。嬉しいのは分かったからもうちょっと離れる離れる。彼女が驚いてるわよ?」

わたしが硬直していると、北条さんの脇から女の人が現れて、ぐいっと北条さんを横に押しやった。

「気分はどう? 気持ち悪くない?」

「あ、はい・・・大丈夫です・・・」

って、答えた瞬間。

 くぅ〜〜〜〜〜。

お腹が小さな音を立てる。

・・・い、いやぁ〜ん! なんでこんな時にお腹が鳴っちゃうのぉ〜! それも、北条さんの前でぇ〜!

真っ赤になるわたしに、女の人は微笑を浮かべて傍らの北条さんを振り仰ぐ。

「さて、と。少年、君は向こうで待っててくれるかな?」

「え、でも・・・」

「それとも少年はこの子の診察、見てたいのかな? 恋人同士でも、それはないでしょう?」

「わ、分かりました・・・。じゃあ、楓子ちゃん。向こうで待ってるね」

北条さんが部屋の扉を開けて出て行くのを見送って、ほっと息を吐く。

はぁ・・・恥ずかしかった。

「・・・さて、と。楓子ちゃん・・・で良いわよね? 起きれる?」

「は、はい・・・大丈夫です」

慌てて起き上がって辺りを見回してみる。

どうやらここは医務室らしくって、ベッドとかがいくつか並んでいた。

多分この人はお医者さん、なのかな・・・?

「私は・・・そうねぇ、さすらいのバイト看護婦とでも呼んで」

「さ、さすらい・・・?」

「もしくは舞佳お姉さんでも良いわよぉ?」

・・・良かった、本当に良かった・・・。
 
 

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          をとめの戦い
         <4:それぞれのマイロード!>

             書き人:柊雅史
         (注:季節外れでゴメンなさい!)
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「さてとぉ・・・熱はないみたいね〜」

熱を測り終えて舞佳お姉さんはすらすら〜ってメモにペンを走らせた。

ちらって見てみると、『熱ナシ!』って、そのまんまのことが書かれている。

「いやぁ〜、お姉さんねぇ、実は看護婦免許なんて持ってないのよぉ〜。まぁこ〜ゆうとこの医務室だから問題ナシでしょ?」

わたしの視線に気付いて舞佳お姉さんが乾いた笑いを発する。

「このこと、内緒よん? ね、ね、お願い〜」

ウインクしながら「お願いっ!」って手を合わせる。その様子がおかしくて、ちょっと笑みが零れた。

「まぁね〜、それでも楓子ちゃんの症状はバッチリ分かるから、安心して」

にこにこ笑いながら舞佳お姉さんが言う。

「ズバリ・・・恋の病ねっ!」

・・・ズバリって・・・いきなり何言うのぉ〜!

「ち、違います! そ、そのぉ・・・ちょっと、お腹が減っちゃって・・・それで、目眩がしちゃっただけで・・・」

「うんうん、皆まで言うな、恋する乙女! 私にも経験あるんだから〜。彼氏と一緒に海! ドキドキの肌と肌との触れ合い! 去年の水着にしようか、新しいのを買おうか迷う日々! そしてそして・・・!」

ピッと指をわたしに突きつけて、にんまり笑う舞佳お姉さん。

「彼氏にアッピ〜ルするための、愛と努力のダイエット! くぅ〜、泣かせるわねぇ!!」

う、ううぅ・・・完全に決め付けてるよぉ・・・!

でも・・・鋭いなぁ、舞佳お姉さんって・・・。

「それで当日、彼氏と一緒にはしゃいじゃえば、そりゃ目眩も起きるわよぉ。ほら、やっぱり恋の病じゃない?」

・・・そ、そうかもしれないケドぉ・・・べ、別に北条さんは、こ、恋人じゃないよぉ・・・。

そんなことを考えながら黙っていると、舞佳お姉さんはくすくすと笑った。

「ふふふ、可愛いわねぇ〜。はぁ〜、私にもこーんな時期、あったハズなんだけどなぁ・・・」

はぁと溜息を吐いて呟く舞佳お姉さんだけど・・・でも、舞佳お姉さんだってまだ20歳ちょっとくらいだと思う。

「でもねぇ、楓子ちゃん? 気持ちはすっごく分かるんだけど、まだまだ成長期なんだから、あんまり無理しちゃ駄目よ?」

「はい・・・」

「それに、お姉さんから見れば、楓子ちゃんってわざわざそ〜んなこと、する必要もないと思うけどぉ?」

「でもぉ・・・やっぱりわたしって、太めだから・・・」

「そうかなぁ? だって・・・楓子ちゃんてどのくらい?」

「え・・・?」

「多分・・・45kgくらいでしょう? それで身長は・・・155くらいかな? 私なんてね、こう見えて50キロ以上あるんだから」

「え、そうなんですか!?」

だって・・・舞佳お姉さんってウエストも細いし、全然50キロ以上あるようには見えないケド・・・?

「あはは、そんなにびっくりしないでよ、傷付くじゃな〜い! 私の場合はねぇ、ほら、これがあるから」

と、舞佳お姉さんは大きな胸をグラビアのアイドルみたいに寄せて強調する。

・・・う、羨ましい、カモ・・・。

「だから、ね。女の子は数字じゃないの。体重だけじゃ何も分からないのよ? だって楓子ちゃん・・・見たところ、その水着、去年のでしょう?」

「は、はい・・・」

「それで、胸の辺りとかお尻の辺りとか・・・ちょっときつく感じない?」

「はい・・・よく分かりますね」

「私だって女だもんね。それで、太っちゃったんだぁ〜って、思ったんでしょう? でも、それじゃあウエストはどう?」

「え?」

「ウ・エ・ス・ト。きつい? ちょうど良い? それとも、緩く感じない?」

言われてみれば・・・ちょっと去年より、緩いような感じがする。

「ほら、ね。楓子ちゃんは太ったんじゃないわよ。それってね、なんて言うか知ってる?」

「?」

「綺麗になった、って言うのよ?」

「え・・・」

そんな・・・わたしが、綺麗になった・・・?

まじまじと舞佳お姉さんを見詰めちゃったけど・・・舞佳お姉さんはにこにこ笑ってるけど、別にからかっている感じじゃない。

ホント・・・なのかな? 信じて、良いのかな?

綺麗に・・・なれたのかな・・・?

「自信、持って良いんじゃないかな? 今のままでも、十分彼氏に大事にされてるでしょう? さっきの少年ねぇ、物凄く必死だったわよぉ? 楓子ちゃんを背中に背負って、扉を蹴って飛び込んで来たんだから」

くすくす笑う舞佳お姉さんに、かぁ〜って顔が熱くなる。

それってちょっと恥ずかしい・・・ケド。でも、なんかちょっと・・・ううん、すっごく、嬉しい・・・。

「あらあら、真っ赤になっちゃって。初々しいなぁ・・・。はぁ、私にもそんな時代が・・・って、空しくなるからやめとこう・・・」

大袈裟に首を振る舞佳お姉さん。なんだか優しくて、面白い人だなって、思う。

「ま、ともかく・・・楓子ちゃんだって、少年のこと、好きなんでしょう・・・?」

「・・・・・・う、うん・・・・・・」

ちょっと迷ったけど・・・ちゃんと、頷く。

舞佳お姉さんって、まるで本当のお姉さんみたいで。

ちょっとだけ、素直になれる。

「それなら、あんまり心配させちゃ駄目よん? まぁ、少年におんぶされたいっていうなら、止めないけど?」

「もう・・・舞佳お姉さんっ!」

「ハイハイ、それは冗談として。でもね、数字だけに振り回されて、型に嵌まること、ないでしょう? 楓子ちゃんは楓子ちゃんらしく、綺麗になっていけば良いんだから。らしさがなくなっちゃったら、少年に嫌われちゃうぞ?」

ツン、とおでこを指で突っついて、舞佳お姉さんがにまりと笑う。

「それにねぇ、やっぱりおんぶするならこう、柔らか〜な胸が背中に当たる方が、少年も嬉しいじゃない? ダイエットなんてしちゃうと、せっかく大きくなった胸が、小さくなっちゃうわよ?」

「ま、舞佳お姉さんっ!」

「あら、これって本当よ?」

「そういう意味じゃなくて・・・!」

そういう意味じゃなくて・・・って、でも、えっとぉ・・・。

こ、ここまで、北条さんがおぶって連れてきてくれた、ってことは・・・。

い、いやぁ〜〜〜〜ん! 恥ずかしいよぉ!

くらくらと・・・今度はお腹が空いたわけじゃなくて・・・頭が回るわたしに、舞佳お姉さんはそれはもう、大きな溜息を吐いた。

「はぁ・・・、私にもこ〜んな初々しい時代が、あったのよねぇ・・・」
 
 

               ★     ☆     ★
 
 

わたしは舞佳お姉さんにお礼を言ってから、北条さんの待っていた隣室へ向かった。

去り際に「そう言えばぁ、楓子ちゃん、水をいっぱい飲んで大変だったのよぉ?」って、意味ありげな視線を送って来たけれど・・・。

ち、違うよね? まさか、そんなことされてないよね?

い、いくら北条さんでも・・・やっぱり、それは嫌だよぅ! だってだって、全然覚えてないし・・・って、何言ってるんだろ、わたし・・・。

「楓子ちゃん! 大丈夫だった?」

舞佳お姉さんの捨て台詞(?)に混乱していたわたしに、北条さんが心配そうな顔で駆け寄ってくる。

・・・うん、大丈夫だよね。だって北条さんて、隠し事とか、上手じゃないモン。

もし・・・もし本当に、その・・・人工呼吸とかされてたら・・・きっと、こんな風に普通に接してこない・・・よね?

・・・うん、そうだよ! それに、そ〜ゆうのってカウントされないモン! そうだモン!

「・・・楓子ちゃん?」

「あ、ううん、なんでもないよ。えへへ、ゴメンね、心配かけちゃって」

「それは良いけど・・・本当に大丈夫?」

「うん、平気だよ。お腹空いてるのに、無茶してはしゃぎ過ぎたからだって、怒られちゃった」

ダイエットのこととかは話さないで誤魔化しておく。だって、恥かしいモン!

「そっかぁ、それなら良いけど・・・でも、気分がよくなかったら、遠慮しないで言ってね?」

「うん、分かった。じゃあちょっと、甘えちゃおうかな!」

「え、なに?」

「うん、お腹ペコペコだから、ゴハンにしよう?」

「あ、そう言えば・・・俺ももう、お腹ペコペコだわ・・・」

急に思い出したように、北条さんが情けない顔になる。

時計を見るともう2時過ぎ。ということは、1時間くらいも気を失ってたことになるのカナ?

ホントに、北条さんに迷惑かけちゃった。

「じゃあ・・・わたし、ヤキソバとお好み焼き! それに、かき氷も食べたいな〜」

「後はスイカに・・・たこ焼もあったし、カレーライスもあったなぁ・・・」

「そ、そんなに食べるの、北条さん?」

「だってもう、死にそうだもん、俺・・・」

お腹を押さえて顔をしかめる北条さんに、くすっと笑みが漏れる。

「うん、そうだね! じゃあわたしも、スイカとたこ焼も、食べよっと!」

「え、楓子ちゃんも!?」

「うん! だって・・・まだまだ成長期、だもんネ!」

わたしと北条さんは、美味しいゴハンの待つ砂浜へ駆け出した。
 
 
 
 
 

 >をとめの戦い:おしまい<
 
 
 
 


*あとがき*

そんなわけで楓子ちゃんのダイエット奮闘記「をとめの戦い」は、終了しました。
どこがダイエット奮闘記なのかって意見もあるだろうなぁ。ノリはただのデート風景描写だもんなぁ。
これは僕自身が、ダイエット嫌いなためですね。女の子は楓子ちゃんくらいぽっちゃりが良い!
って、楓子ちゃんも実は、むしろ痩せている部類に入るのですけどね、医学(?)的には。
最終話は全然北条さんは出番ないし、ラブラブもないしでゴメンなさい。
尻つぼみでしたけど、どうでしたでしょうか。まだまだ甘さが足りないかな?
ちなみに人工呼吸が行われたか否かは・・・北条さんに聞いて下さい♪(核爆)

今回、舞佳さんを登場させましたけど、うむぅ、なんか違う。難しいなぁ。楓子ちゃん語りも・・・どこか違和感とか、あるかも。
そうそう、楓子ちゃん語りなこのSS、オフ会で僕を知っている人は決して書いている姿を想像しないで下さい!
それで気持ち悪くなっても、当方は一切責任を負いませんので、あしからず。

んでは、皆さんさようなら!
この作品をもって、多分しばらくは投稿、出来ないと思います。
とか言いながら、きっと体を壊してでも書くんだろうなぁと、思わなくもない、楓子ちゃん狂いの、
柊雅史でした☆

作者:柊雅史(00.4.2)


ときめきメモリアル2はコナミ・KCETの作品です。
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