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                  高校2年 夏 地方大会

                                         あタル


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 やってるやってる。甲子園の地方大会が近いから、みんながんばってるなぁ。

 7月3日月曜日。

期末が終わって、クラブもこの間の土曜から解禁だったもんな。

終業式までは授業も午前中で終わるから、お昼を食べたら夜までメいっぱい練習できるもんな。

しまった!また、「もん」って言ってるな。

最近、口癖がうつってきたかな?


 さて、いつものように邪魔にならないように、グラウンド脇の土手に座って練習を見学するかな。

えーっと、楓子ちゃんは、と・・・。

あっ、いたいた。彼女もがんばってるみたいだ。

ノートに何やら書き込んだり、別のノートを見ながら、監督や部員たちと話してる。


 試合に勝ったら部員たちが誉められる。

「よくやったな。」

「実力以上を出せたな。」

「次もまたがんばれよ。」

でも、負けるとマネージャである彼女が部員たちから怒られる。

「何やってたんだ。」

「情報が集めきれなかったんじゃないのか。」

「もっと、相手の選手を観察してこい。」


 僕は部外者だから、そのことには何も言えない。

でも、何か力になりたくて、よその高校に行く時には彼女に連れていってもらっている。

彼女だけでは解らないところを、アドバイスというわけではないけど、

いっしょに見ながら話しをしている。

だから、彼女のデータ不足は、僕の責任のような気がしている。

練習試合で負けたのは、別に彼女だけが悪いわけではないんだ。

僕にだって責任があるはずなんだ。

でも、彼女はそのことで何も言わない。

わたしがもっと頑張らないとって言ってるだけで、僕を攻めたりしない。

でも、それが悲しい。


 彼女たちがあのノートを何て呼んでるか知らないけど、僕は「閻魔帳」と呼んでる。

部員とか他校の有力選手のデータがぎっしり詰まってるからだ。

でも、そう言うと彼女は、

「えーっ。じゃあ、わたし、閻魔大王なのぉ?」

と、口を尖らせて怒る。

「えー、いやー、そのー、閻魔大王は男だし、楓子ちゃんみたいに可愛くないよ」

「いいモン!わたし、閻魔女王だモン!かわいくないモン!」

すねた彼女もかわいい。そんな顔も見たいから、たまにわざといじめてみる。


 そんなことができるようになったのは、つい最近のことだ。

ちょっと前までは嫌われてしまうんじゃないかと思って、できなかった。

自信が出てきたというより、不安がなくなってきたっていう感じだ。

自信は、まだない。

彼女にもっと好かれたい。

楓子ちゃんは僕のことをどう思ってるんだろうか。

なんか解んないけど、最近よく一緒にいる人、くらいにしか思ってなかったりして・・・。

でも、最初の頃と違って、「楓子ちゃん」って呼んでも怒らないしなぁ。

はぁ・・・・・・。

もっと自信持たなきゃだめだな。


 彼女と話しをするようになって、もう1年以上過ぎた。

彼女と出会って、野球部の練習を見に来るようになったのはいつの頃からだったろうか・・・。

僕の入ってる電脳部(去年までは科学部だったんだけど)は水曜と土曜がクラブの日。

それ以外の日は、こうして野球部のグラウンドに来るようになった。

最近では、僕も、彼女も、そして野球部の部員たちも、それが当たり前のように感じている。

別に何をするわけでもない。

彼女と一緒に帰るためにここで待っている。

ただ、それだけだ。

まぁ、練習が終ったあとに用具を片づけるのを手伝ったりはするけど・・・。

まだ、手をつないで帰ったこともない。


 駅まで一緒に歩いて改札口で別れる。

彼女の家は、駅から見て高校とは反対側の水族館の方向。

僕は電車に乗って帰るからだ。

時間があれば、駅前のハンバーガーショップでお茶することもあるけど、

いつもってわけじゃない。

日曜日に会うこともあるけど、ヒマだから会ってくれてるだけなのかもしれない。

別れ際に、「また誘ってね」って言ってくれるから、月に1回くらいのペースで会ってるけど、

これってデートなのかなぁ・・・。

なんか考えれば考えるほど、彼女にとって自分が役不足のような気がしてならない。

はぁ・・・・・・。

なんか、ため息ばっかりだ。


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 彼女との出会いは去年の5月。

運動部の部室のそばで用具らしいものを運んでる女の娘を見かけた。

それが彼女を見た最初。


 荷物からすると、野球部だよな。

そして、マネージャだな。

学年は・・・クラスは・・・うーん、わかんないなぁ。

僕の推理力もここまでか・・・。


 そんなことより、大丈夫なのかなぁ?

あんなにヨロヨロして・・・。

手伝ってやる部員はいないのか?

あっ、コケた!

・・・・・・。

もう見てられない!

「あ、あのぉ・・・だいじょうぶですかぁ?」

可愛い娘じゃなかったらどうだったか解んないけど、ついつい近寄って声をかけてしまった。

一瞬、自分の性格を情けなく思ったが、すぐに吹っ飛ばした。

「あっ、はいぃ。だいじょうぶですぅ。」

見たところ、全然大丈夫じゃなさそうだけどな・・・。

「部室まで運ぶの?手伝うよ。はい、貸して。」

話し方から彼女が1年と思った僕は、口調を変えた。

そして、落っこちてる用具を拾って部室に向かった。

「ありがとうございますぅ。助かっちゃった!」

部室に荷物を運び込むと、ようやく彼女の口から二言めが聞けた。

「こんな重い荷物、女の娘一人に持たせるなんて、野球部の連中はひどいなぁ」

「そんなことないモン!部員の人たちは、練習で疲れてるし、

それに、これはマネージャの仕事だモン!」

自分のクラブの人の悪口を言われたと思ったらしい。

一気にしゃべって、下を向いてしまった。

「だったら、ほかのマネージャは?君、一人だけなの?」

何も言わず、下を向いたまま、ゆっくりコクンとうなずいた。

「そうなんだ・・・。でも、一人じゃ、大変でしょ?誰かに手伝って・・・」

「大変じゃないモン!ほかの人たちのほうがもっと大変で、

それにわたし、こういうことしかできないモン!」

彼女の口癖なのかな?「モン」って。

可愛いしゃべり方するんだな・・・。

と思っていたのだが、彼女がその言葉を言い終えて顔を上げると、

その瞳にうっすらと涙が溜まっていた。

しまった!泣かせたのか。

やばいなぁ。こういう状況って、慣れてないんだよなぁ・・・。

「あっ、ごっ、ごめんなさぁい。なんかわたし、くやしくって。何にもできないわたしが情けなくって・・・」

ジャージーのポケットから、可愛い、動物みたいな柄のハンカチを取出して、涙をぬぐった。

「そ、その、ご、ごめん。あの、これ、どこに片づけるのかなぁ?

ほら、もう遅いし、早く片づけて帰ろうよ」

情けない話しなのか、この年では当たり前なのかは別にして、

泣いてる女の子にどう対応していいのか解らなかったから、とりあえず話題をそらした。

「ぐすっ、そ、そうね。片づけちゃいましょう。これは、向こうね。

あっ、そこじゃなくて、その向こう・・・そうそう。で、これはね・・・・・・・・・」


 話題をそらすことには成功したが、

いつの間にか僕は野球部の新入りのマネージャになってしまった。

言われる通りに用具を片づけて、彼女が制服に着替えるのを待った。

「どうもありがとう。何か悪かったね。でも、助かっちゃった」

ようやく笑顔が戻ってきた。

ふう、さっきはどうなることかと思った・・・。

でも、あの泣き顔、結構可愛かったな。

笑った顔も可愛いけど・・・。

「ねえ、もし良かったら、一緒に帰らない?」

言ってから、しまったと思った。

良くないから一緒に帰らない、とか言われたらどうしよう。

後悔先に立たず。

一度出した言葉は引っ込められない。

どうしよう・・・・・・。

「そうね。帰りましょう」

よ、良かったぁ。

ええと、話題、話題・・・。

「そうだ、まだ、名前言ってなかったよね。僕は1年E組の鎌田。鎌田和行」

「わたしは、1年F組の佐倉楓子って言います。よろしく」

「か、かえでこさん?どういう字を書くの?」

「木へんに風、ほらっ、楓の葉っぱの楓に子供の子で、楓子っていうの」

「へぇ、なんか、紅葉の頃に産れたっていう感じの名前だね。楓子さんか・・・」

初対面で、いきなり「ちゃん」付けはずうずうし過ぎるよな。

楓子さんならいいよな。

「そうなの。わたし、11月14日に産れたの。

そろそろ紅葉が終りっていう頃よね?それで、お父さんが楓子ってつけたんだって。

それにね、わたし、この名前すご〜っく気に入ってるんだぁ。」

「へぇ、どうして?」

「だってね・・・あっ、まだ教えてあげないモン!」

「えっ・・・どうして?」

まだ?まだってことは、いつかは教えてくれるのかな?

期待しちゃっていいのかな?

「だって・・・、だって恥ずかしいモン!」

やっぱり、「モン」は口癖みたいだな。可愛い。

「あ、あのね、さっき、楓子さんって呼んだでしょ?あの、名字で呼んでくれない?

わたし、名前で呼ばれるのって、好きじゃないんだ」

「あっ、ごめん。あの、佐倉さん、ならいい?」

「うん。えーっと、かまたさん、だったよね?」

「そう、鎌倉の鎌に田んぼの田。蒲田の蒲じゃないからね」

「ええ〜、わたし、蒲田の方かと思ってた〜。」

「ははは・・・良く間違われるんだ」

「そうなの。でも、もう、間違えないモン!。鎌田さん。えへへ・・・。

あっ、もう駅。おしゃべりしてると早いね。

いつもクラブが終って一人だから、長く感じちゃって。」

「え、一人で帰ってるの?」

「うん。そう。」

「あっ、だったら、明日から一緒に帰らない?僕がクラブの日はだめだけど、それ以外の日」

「え・・・」

「ああ、ほら、用具とか片づけるのも大変そうだし、手伝うし、それから・・・」

「考えとくね。じゃ、今日はここで、またね」

考えとくというのは、期待していいのか、単に結論を先延ばしにされてるだけなのか・・・。

とりあえず今日のところは、ここまでにしといた方がいいかな・・・。

「う、うん。じゃ、僕は電車だから、ここで」

「あっ、いいなぁ、電車通学なんだぁ。わたしも電車が良かったなぁ」

「か・・・佐倉さんは歩きなの?」

楓子ちゃんって呼びたいなぁ・・・。

「うん。あっちの方」

「学校と反対の方なんだね?でも、歩きの方が良いよ。混んだ電車なんか乗るもんじゃないよ」

「そうかなあ。でも、電車通学してみたいモン!」

憧れてんのかな、電車通学。

いつも乗る電車の、いつものドアの、素敵なあの人・・・。

うーん、少女マンガだ。

「じゃあ、また明日。鎌田さん」

しまった、一人の世界に入ってた。

「あっ、さようなら。佐倉さん」


 全部を覚えてるわけじゃないけど、初めてあった日はこんな感じだったな。

あれからもう1年と2ヶ月くらいたつんだ。早いなあ・・・。


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 7月17日月曜日。

地方大会は13日から始まってたけど、うちの学校は今日が初戦だ。

予定通り14時に試合が始まったけど、1回もリードすることなく、1対6で負けてしまった。

コールドでなかっただけ良かったのかもしれない。

でも、勝ってほしかった。

勝たせてあげたかった。

今日の試合だけでも勝って、いっしょに喜びたかった。

あんなに部員たちのために一所懸命だった彼女のために、勝ってほしかった。

僕たちは2年だから、また来年があるかもしれない。

でも今年がだめだから、来年でもいいっていうわけじゃあない。

今年の夏は、1回しかないんだもん・・・じゃない、1回しかないんだから。


 試合後、彼女は泣いてた。

試合に負けたから泣いてただけじゃないと思う。

実は、今日の試合に隣りの市のきらめき高校のマネージャのOGが応援に来てくれた。

虹野さんと秋穂さんだ。

よく練習試合をするから、マネージャ同士仲良くなったみたいで、

僕も話しくらいはしたことがある。

せっかく応援に来てくれた虹野さんたちに申し訳なくて、泣いてたんだと思う。

いつも、自分のことより他人のことで悲しんでる。

彼女らしいといえば、彼女らしいんだけど・・・。


 来年は1試合でも多く勝ってほしい。

できることなら、甲子園に行ってもらいたい。

僕はアルプススタンドで応援をしていたい。

ひび高だけじゃなく、楓子ちゃんをスタンドから応援するんだ。


 そして、勝っても負けても、彼女を胴上げしてあげたい。

頑張ったね。楓子ちゃんの力で、みんながここまで来れたんだよ。って・・・。




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読了いただきましてありがとうございました。
感想をいただけたら、maple_rainbow@nifty.ne.jp とってもうれしいです。

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 書き終えて・・・

 え〜、いかがでしたでしょうか?ホントは書くつもりなんてなかったんですよぉ。
 誰かにそそのかされて、もとい、奨められて書くことになっちゃってさぁ・・・。
 書き終って、全体を通して読んだら・・・全然ストーリー性がないじゃん!もう、やだぁ(;_;)
 地方大会がメインなのか、出会いがメインなのかも解らなくなっちゃって・・・。
 もう、支離滅裂!書かなきゃ良かったなぁ・・・。

 SSっていうか物語っぽいやつを書いたのは、かれこれ15年ぶりくらいになります。
以前書いてたのは創作系。内容はナイショです。
もともと文章書くのって好きなんですけど、内容に自信がないので他人には見せたくないんですよ。
公開したのは初めてっていうわけでもないんですが、やっぱり恥ずかしさ130%、
指示値振切れ、計器異常(意味不明)。

 そうそう、勝手に設定を作ってしまったところがありますね。
科学部の活動日とか、「楓子」の命名者がお父さんとか・・・。
許して下さいね?筆・・・いや、キーの打ち進み具合でこうなってしまいました。
それから、わたしの本名は決して「鎌田和行」ではありません。
まぁ、本名から連想して考えましたけどね。
ちなみに、7月17日に1対6で負けたのは、わたしのの母校です。

 今回は奨められたこともありますが、「守る会」の会員としての自分自身への証として
書いてみました。
会員として何かを残しておきたかったんです。
以前似たようなことで後悔してますので・・・。
わたしの場合CGが描けませんから、SSを書くしかないと思ったんです。
だから、次はないかもしれません。あるいは、図に乗って書き続けるかもしれません(爆)。

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