(注)このSS前「START AGINN」の続きっぽい話です、前回のを呼んでおいた方が楽しめるかも知れません

START AGINN〜夏の約束〜

                                      書き人 柴崎洋魔

SideA〜柊雅史〜

 楓子ちゃんから一緒に走ろうと言われたあの日から俺達は毎朝走り続けた。
あの事故の日から失われていっていた、体力も徐々に回復してきていた
念のため続けていたリハビリにはさらに力を入れた

そして、半年が過ぎ、俺達も2年になった・・・

「みんなよく聞くっすよ、今までマネージャーとして頑張ってきた柊っすが今日から選手として復帰する事になったっす。」
ひびきの高校野球部グラウンドに野球部顧問の中村加奈先生の声が響く
「知らない人のために説明しとくと、柊は中学時代はかなりの実力を持っていたっす。腰を壊したため今までマネージャーをしていたがリハビリも終わりめでたく今日から選手に復帰するっす。よし、柊、あいさつするっす」
加奈先生が俺に挨拶を促した
「2年のブランクがありますがマネージャから選手へこれからも頑張っていきます、もちろん夢は甲子園、改めてよろしく」
「また、お前と野球ができてうれしいよ、この日をまってたよ」
「おう、よろしくな」
「くっ、柊が復活となるとおれもちょっとやばいかな」
「これからが本当の正念場だぞ、がんばれ」
「目指すは甲子園だ!」
チームメイトの先輩、同級生が俺に声をかけてくれる
俺はちらっと楓子ちゃんの方を見た
それに気付いた楓子ちゃんがにこっと微笑む
俺もつられて微笑み返した
「よし、それじゃあ、今日も練習始めるぞ!」
キャプテンの叫びが聞こえる
「いくぞー!!!!!!」
「「「「「「「「オー!!!!!!!」」」」」」」」
こうして、俺の選手復帰としての1日目が過ぎた

それからも昔の勘、体力を取り戻すために朝のランニングは続けた
楓子ちゃんもそんな俺にずっとつきあってくれた

楓子ちゃんのおかげで今の俺がいる
俺は絶対に甲子園に連れていってあげたいと思った
今年はまだ無理でも来年には絶対に・・・

俺は必至に練習した
そして、季節は春から夏へと移り変わっていた

 

SideB〜佐倉楓子〜

柊さんは選手復帰するために一生懸命頑張っていました
そんな柊さんを私は一生懸命応援しました

秋から冬、冬から春へ季節は移り変わり柊さんはやっと選手として復帰をはたしました

そして、季節は夏へと向かっていきました

「こんにちは、佐倉さん」
お昼休み、次の生物の移動教室で生物室に向かっているとき私は後ろから声をかけられました
「あっ、柴崎君」
それは去年から同じクラスの柴崎君でした
「どう、柊の様子は?」
「うん、かなり頑張って練習してるよ。朝のランニングもかかさずやってるしね」
「ふ〜ん、そっか(^^)しかし、柊もうらやましいよな、こんな可愛い佐倉さんに想われて」
柴崎君が私の方を見てそんなことを言います
「えっ、、えっ、あのその・・・」
私は柴崎君が突拍子もないことを言うから焦ってしまいました
「佐倉さんが柊の話するときの顔、最高に輝いてるんだよ」
柴崎君がニコニコしながらそんなことを続けます
私は照れて下を向いてしまいました
キーンコーンカーンコンキーンコーンカーンコン
その時、始業5分前のチャイムが鳴りました
「さて、急ごうか、佐倉さん」
柴崎君が走り出しました
「あ、ちょっと」
私も急いで生物室に向かいました

その日の放課後、私は校門で柊さんを待っていました
しばらくすると柊さんがやってきました
「柊さん、一緒に帰ろ」
私は柊さんに声をかけます
「もちろん、いいよ」
柊さんが優しい笑顔で答えてくれます
私はこの笑顔が大好きです
私達は歩き出しました
「ついに来週だね、県大会」
「そうだね、だけど、俺は今回はまだ無理そうだよ」
「そうなの?」
「先輩もいるしね、それに2年のブランクは結構大きいよ」
私達はそんな話をしながら帰りました

SideC〜夏の甲子園予選県大会〜

そして、県大会ひびきの高校は順調に勝ち進んで準決勝まで駒を進めた
柊は本人の予想通り補欠だった

しかし、思わぬところで柊に出番が回ってきた
なんと、9回の表守備で、強烈なバウンドボールがサードの田中の足首に直撃、足首を骨折するというアクシデントが起きたのだった
そして、田中の変わりとして柊が試合に出ることとなった
残りの守備はエースが押さえた
そして、裏の攻撃で柊に出番が回ってきた
得点は1対1、2アウト3塁、後一点で決勝に進出という大事な場面である
自然と球場全体が静寂につつまれる
ピッチャーが構えて1球目を投げた
内角低めストライク
2球目
再び、内角低めストライク

柊は楓子の方を見た
楓子は祈るように目をつぶっていた
そして、3球目
ストレート
柊は懇親の力を込めバットを振る
カキーン
「オオーー!!」
場内に歓声がわき上がる
記録、レフトオーバーヒット
柊の記念すべき高校生活初ヒットとひびきの高校決勝進出決定の瞬間だった

続く決勝柊は、先発出場した
しかし、チームの要だった田中の抜けた穴は大きく惜しくも2対1、ひびきの高校は敗退した

「お疲れ、みんなよく頑張ったっす」
顧問の中村が部員達の顔を見回して言う
「3年は今日で引退っす、甲子園に行けなかったのは残念っすがいい試合だったっすよ、胸を張れ3年ども、そして、来年に向けて2年どもは明日から新しい気持ちで頑張るっす」
中村が最後の激励をとばした
こうして、柊の復帰最初の大会は終わった

SideD〜花火大会〜

あの大会の後、俺達は次の大会に向け練習を開始した
2年ぶりの選手としての夏の練習はなかなかきついものがあった
だけど、楓子ちゃんは俺達のことを一生懸命応援してくれた
だから、俺達は頑張れた

そして、久しぶりの休みが訪れた

その日、楓子ちゃんから電話がかかってきた
「柊さん?」
「うん、そうだけど、何か用?楓子ちゃん」
「今日の花火大会、一緒に行かない?」
「もちろん、いいよ」
俺はその場で小躍りを始めそうになったが冷静に即答した
「じゃあ、7時に柊さんの家に行くね?」
「わかった、じゃあ待ってるね」
「うん」
電話が切れた後、俺は部屋で一人ガッツポーズを決めていた

 

 

電話をかけ終わった後、私は少しせつない気分になっていた
私は昨日お父さんから聞いた言葉を思い出す

「楓子、ごめんな、また転勤することになった・・・」
言いづらそうにするお父さんに変わりお母さんが続けた
「引っ越しは急だけど明後日、それまでに友達にお別れの挨拶済ませて・・・、ごめんね楓子」

・・・
もう、柊さんに会えなくなる
そう、考えただけで私の胸は張り裂けそうだった
でも、転校のことを今日柊さんに言わないといけない
柊さんとお出かけするのはとてもうれしい
でも、後に待っている別れの言葉・・・私は言えるのかな・・・

そんなことを考えているうちに時間が過ぎ私はお母さんに手伝ってもらって浴衣に着替え柊さんの家に向かった
家を出るときチャーリーが頑張れとでも言うように一鳴きした

 

 

6時30分、俺は居間で楓子ちゃんが来るのを待ちわびていた
それから20分後、玄関のチャイムが鳴った
俺は今から飛び出し玄関に向かった
玄関には楓子ちゃんがいた
「こんばんは」
楓子ちゃんが俺に挨拶をした
だけど、俺は挨拶を返すのも忘れて楓子ちゃんに見とれていた
楓子ちゃんの浴衣姿がとってもきれいだったから
「柊さん、どうしたの?」
楓子ちゃんが心配そうに俺の顔をのぞき込んだ
「いや、楓子ちゃんの浴衣姿があんまりきれいだったから・・・」
俺はちょっと照れてそう言った
楓子ちゃんも照れたのか
「ありがとう」
と言って少し顔を赤らめた
「じゃ、いこっか」
「うん」
俺と楓子ちゃんは家を出て会場の河原へと向かった

 

 

私達は花火を楽しみました
大小さまざま、色とりどりな花火がひびきのの夜空に舞いました
私は花火の最中そっと柊さんの手に私の手を添えました
柊さんはちょっととまどったようだけど私の手を握り返してくれました
「柊さん、今年の夏は惜しかったね」
「うん、でも来年は絶対にいくよ、甲子園に!」
「うん、絶対だよ」
私は精一杯の笑顔でそれに返しました
「まかせといて」
柊さんも笑顔で答えました

でも・・・

来年・・・

私は・・・

もう・・・

ひびきのには・・・

そして、花火大会は終わりました
「きれいだったね、花火」
柊さんがそう言い私に笑いかけます
私はこの柊さんの笑顔が大好きです
でも、今は少し辛いです
これから、私は別れを告げないといけない
「どうしたの、楓子ちゃん?」
悲しそうな顔をしてたんだと思います
「どうしたの?」
今度は柊さんが心配そうに私の顔をのぞき込みました
・・・言えない
柊さんにさよならなんて言えないよ・・・
気付くと私の頬に水が滴っていました
「大丈夫!楓子ちゃん」
柊さんが本当に心配そうに私を見ます
柊さんの顔がとても近くにあります
・・・

ちゅ

私はほんの一瞬、柊さんの唇にそっと唇を重ねました
そして
「柊さん、絶対に甲子園行ってね」
私はそれだけ言うと柊さんに背を向け走り出しました
後ろから柊さんの声が聞こえたけど私は振り向くことなく走りました
そして、気付くと家に着いていました
涙が止まりませんでいた
私はその晩、ベットで泣き通しました

 

 

SideE〜転校〜

楓子ちゃんが泣いていた、そして不意にされたキス
俺は走り去った楓子ちゃんを追いかけた
だけど、人混みに紛れて彼女の姿を見失ってしまった
しかたなく、俺は家へと引き返した
次の日は出校日だった
俺は学校で昨日のことを聞こうと楓子ちゃんの教室に向かった
だが、そこに楓子ちゃんの姿はなかった
そして、俺はその後、信じられないことを聞いた

「おい、柊」
声をかけてきたのは柴崎だった
「なんだ?」
「佐倉さんのことなんだが」
「何か知ってるのか」
俺は柴崎の肩を強く握っていた
「佐倉さん、転校したらしい、で引っ越しは今日らしい」
その言葉に俺は愕然とした
柴崎が続けた
「今ならまだ間に合うかも知れないぞ」
「ありがとな、柴崎」
俺は柴崎に一言礼を言うと学校を抜け出し楓子ちゃんの家に向かって走り始めた
「頑張れよ、柊」
後ろで柴崎の声が聞こえた

 

 

私は手紙を書いた
そして、玄関の前に置いて置いた
柊さんが来るような予感がしてたから

・・・さようなら、ひびきの高校、さようなら、柊さん

私はひびきの市を出ようとするトラックの窓からひびきの高校の方を見てつぶやいた

 

 

俺は楓子ちゃんの家に走った

俺に再び野球をやるチャンスをくれた楓子ちゃん

楓子ちゃんがいてくれたから頑張れた

楓子ちゃんを甲子園に連れていきたい

その思いが強くなっていったから俺は今も頑張っていられる

俺の野球をやる理由

楓子ちゃん君がいなければ俺は・・・

 

俺が楓子ちゃんの家に着いた時、そこはもう誰もいなかった
だけど、そこで俺は一通の手紙を見つけた

柊さんへ

突然の転校で挨拶もできなかったことお詫びします

昨日も突然泣き出してあんなことして何も言わず帰ってしまってごめんなさい

だけど、言えなかったの・・・

言おう、言おうと思っても柊さんの顔見てるとどうしても言えなかったの

本当にごめんなさい

絶対に甲子園に行ってね

私、頑張ってる柊さんがとっても好きだから

一生懸命な柊さんがとっても好きだから・・・

たとえこの町にいなくても、私ずっと応援してるから

ファイトだよ

それじゃあ、さよなら・・・

 

                                          大好きな柊さんへ

                                           佐倉楓子より

 

俺はそれを読み終わって空を見上げた
その日は雲一つない青空だった

俺は空を見上げながら思った

そして、もう一つの野球を続ける理由も思い出した

俺は楓子ちゃんのためにも頑張っていた

でも、俺は根っから野球が好きだ

だから、俺はこれからも野球を続ける

野球を続けていれば、甲子園に行けば、楓子ちゃんに再会できる気がしたから

「俺、絶対に甲子園行くから!」

はてしない青空に柊の叫びが吸い込まれていった

 

                                               END

あとがき

START AGINNの続編みたいな作品です
今回は花火大会の後までを書いてみました
ええと、時間的に前回のSSの早朝ランニングを始めたところと甲子園までの間の話です

とかいいつつ、今回は楓子ちゃんとの別れまでしか書いてません
もしかしたら、次回3部作完結編(謎)ということで続き書くこともあるかも知れません(謎)
というわけで、ときメモSSは久しぶりなので口調がかなり違うような気もしますが(^^;
読んでくれたかたありがとうございます

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