・・・本当はいつもと変わらないってこと、分かってる。

時間の流れの中で、ごく自然に起こること。

人が作った数字の気紛れ。

たまたまそこに居合わせただけなんだよね。

・・・だけど、だけどね。

ちょっとだけ・・・ちょっとだけ信じてみたい。

それが特別なんだって。

それが幸せな特別なんだって。

そうすれば、きっとわたしも勇気が出せるから。

特別な日なんだからって、元気を出せるから。

だから、ちょっとだけ信じてみよう・・・。
 
 
 
 

一千年代が終わり、二千年代へ変わる瞬間。

それは人が作り上げた数字の、自然な流れの中での小さな偶然。

本当は当たり前のことなんだけど、でも、特別な年の始まり。
 
 
 
 
 

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        <お正月特別SS>
    ミレニアム・ドリーム

         書き人:柊雅史
     (今回はネタバレはありません)

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空は初詣日和の上天気。

風もあんまり強くなくて、太陽がぽかぽかと暖かく包み込んでくれる。

行き交う人の流れの中には、ちらほらと着物姿の女性も見える。

2000年代最初のお正月だから、着物を引っ張り出した人もたくさんいるかもしれない。

・・・わたしも一緒なんだけど、ね。

お正月だから、お母さんに頼んで着物を出してもらったの。

着付けは大変だったけど、着物って可愛いからわたしは好き。

それに・・・ね。

”あの人”も「可愛いよ」って言ってくれるかもしれないでしょう?

制服とかお洋服とかだと、あんまり言ってくれないんだもん。

一度だけ、「可愛いね」って言ってくれたのは、花火大会の時。

浴衣を着て行ったわたしに、”あの人”は「浴衣が似合ってるね。可愛いよ」って言ってくれた。

わたしね、凄く嬉しかったんだ。

好きな人に「可愛いよ」って言ってもらったんだもん。やっぱり嬉しい。

わたしって童顔だし、子供っぽいから、あんまり「可愛い」って言われるのって好きじゃないの。

でもね、”あの人”だけは別なんだ。

”あの人”に「可愛いね」って言ってもらえるのは、嬉しいの。

えへへ、現金だよね、わたしって。

でも誰だって、そういうトコロ、あると思うんだ。

好きな人は特別だもん。みんなだってそうだよね?

・・・だから、今日もちょっとだけ・・・ちょっとだけだよ? 期待してるんだ。

”あの人”に「可愛いよ」って言ってもらえるかな、って。

言って欲しいな、って・・・。
 
 
 
 

”あの人”の家までは電車とバスで30分くらい。

いつもは駅前広場とかで待ち合わせをしているから、”あの人”の家に行くのは始めてなんだ。

行き方は匠くんに教えてもらったの。匠くんって親切だから、凄く丁寧に教えてくれたんだ。

お陰でおっちょこちょいなわたしでも、迷わないで来ることが出来た。

でも・・・念のために早めに家を出ちゃったから、ちょっと着くのが早過ぎちゃった。

・・・どうしようかな・・・。

この辺は住宅地だから、休めそうなお店は見当たらない。それにお正月だから、普通はしまっちゃってるよね。

それに・・・それに、ね。

お店に入ると注文しなくちゃ駄目だから、やっぱり入れないよね。

そうしたら、ここまで来た意味がなくなっちゃうもん。

・・・え、どうして注文しちゃうと駄目なのかって?

えへへ、秘密だよ。
 
 
 
 

結局”あの人”の家まで来ちゃった。

匠くんの話だと、御両親の都合で一人暮らしなんだって。

だからアパートかな、って思ってたんだけど、ちゃんとした一軒家だった。

・・・兄弟とか、いるのかな?

もしそうだったら・・・”あの人”以外の人が出てきたら、どうしよう。

ずっと黙ってるわけにも行かないし・・・。

匠くんにちゃんと聞いておけば良かった・・・。
 
 
 
 

ここまで来て迷ってても仕方ない、よね・・・。

せっかく朝から頑張って来たんだもん。ここまで来たら、頑張らなくちゃ!

わたしは玄関のチャイムに手を伸ばした・・・。

・・・けど。

・・・お、押す勇気が・・・出てこないよぉ。

だ、だって・・・だって、もしも迷惑そうな顔されちゃったら、どうしよう・・・。

今日行くっていう約束もしてなかったし、それに、お正月なのにこんなに早く来ちゃったりして・・・。

もしかしたらまだ寝てるかもしれないし。

9時は回ってるけど・・・でも、わたしだって寝たのは12時頃。昨日は夜更かしした人なんて、珍しくないだろうし・・・。

寝てるところを起こされたら、迷惑だよね。

・・・それに・・・もしかしたら、もう他の人と出掛ける約束とか、してるかもしれない・・・。

匠くんの話だと、陸上部の女の子と幼馴染みだって言うし・・・。

・・・やっぱり・・・やっぱり、止めた方が良いのかな。

でも、せっかくここまで来たのに・・・。

着物も着て、朝から誰とも話さないように、頑張って来たのに・・・。

でも・・・やっぱり、怖いよぉ・・・。
 
 
 
 

・・・わたしって、どうしていつもこうなんだろう・・・。

最後の最後で、いつもいつも意気地なしで。

色々言い訳して、いつも逃げちゃう。

朝からずっと、頑張って来たのに。

朝からずっと、決心して来たのに。

2000年になって初めての言葉を、”あの人”と交わすんだって。

「あけましておめでとう」って、”あの人”に言うんだって。

2000年の最初の言葉は、それにするんだって。

”あの人”への言葉にするんだって。

決めたんだモン。
 
 
 

・・・本当はいつもと変わらないってこと、分かってる。

時間の流れの中で、ごく自然に起こること。

人が作った数字の気紛れ。

たまたまそこに居合わせただけなんだよね。

・・・だけど、だけどね。

ちょっとだけ・・・ちょっとだけ信じてみたい。

それが特別なんだって。

それが幸せな特別なんだって。

そうすれば、きっとわたしも勇気が出せるから。

特別な日なんだからって、元気を出せるから。

だから、ちょっとだけ信じてみよう・・・。
 
 
 
 

 ”ピンポーン”

チャイムが鳴った。

・・・押しちゃった。結局、押しちゃった・・・。

心臓が、ドキドキ鳴ってる。

うるさいくらいに、ドキドキって・・・騒いでる。

「・・・はい、どなたですか・・・って、楓子ちゃん!?」

玄関のドアが開いて、”あの人”がびっくりしたような顔で出て来た。

「あ、あの・・・あのね・・・、あのね・・・」

頑張らなくちゃ。

だってそのために、来たんだもん。

この一言のために・・・来たんだもん。

・・・特別な日なんだって、信じて。

ありったけの勇気を出して。

「・・・あ、あけましておめでとう・・・」

「あ・・・、うん。あけましておめでとう!」

「あの・・・ね。これから・・・一緒に、初詣に・・・行かない・・・?」

「初詣・・・? うん、良いよ。一緒に行こう」

・・・え?

い、良いの・・・?

「あ、じゃあ・・・着替えてくるよ」

「う、うん・・・」

”あの人”が家の奥に戻りかける・・・けど、ふと足を止めた。

「・・・あ、あのさ・・・楓子ちゃん」

「え・・・、なに?」

「その・・・着物、可愛いね。似合ってるよ」

「・・・・・・うん・・・・・・ありがとう、嬉しい・・・・・・」

・・・あ、顔が赤くなっていくって、分かる。

でも・・・”あの人”もちょっと照れたように頭を掻いている。

えへへ・・・、嬉しいな。

2回目だね、「可愛い」って言ってくれたの。

「・・・じゃあ、ちょっと待ってて。速攻で着替えてくるから!」

急いで階段を駆け上がっていく”あの人”を、わたしは幸せな気分で見送った。
 
 
 
 

・・・やっぱり今日は、特別な日。

それはきっと、特別な日だって信じて、勇気を出せたから。

だから・・・ね。

今年は特別な年だって、信じてみよう。

そうすればきっと、本当に特別な年に出来るから・・・。

わたしだけじゃなくて・・・誰にとっても、ね!
 
 
 
 
 
 

 >ミレニアム・ドリーム:FIN<
 
 
 
 
 

PS:えへへ、もう一つ嬉しいことがありました。
   あのね、”あの人”も今年最初に話したのがわたしだったの。
   子供っぽい、小さなことだけど。
   ”あの人”の特別になれて嬉しかったです。
   来年もまた、一緒に初詣に行けると良いな♪
 
 
 
 
 


*あとがきのようなもの*
 

・・・すんません、無茶苦茶ブームに振り回されました。
でもねぇ、せっかく世間がこんだけ盛り上がってるのだし、一度くらいは便乗するのもOKでしょう・・・?
 

今回は全編楓子ちゃん語りでした。うぐぅ、難しひ・・・。僕、一人称って苦手だし。
そもそも男で、2X才の僕が楓子ちゃん語りを書くことに無理があったような気もする・・・。もう二度とやるまい・・・。
良い年こいた兄ちゃん(おっちゃん?)が、「えへへ」とか「〜だもん」とか書いている姿を想像してはいけません。
無茶苦茶怪しさ200%です。自覚、あります・・・。
 

で、今回も反省。
もっと”初めての会話”をメインに持ってくれば良かった。ほとんどストーリーの流れに対して意味がないもんなぁ、これじゃあ。
やっぱり”あの人”表記じゃここが限界だよ。二人の会話シーンが書けないんだもん。
会話が成立しないと、”初めての会話”云々に触れられない。PS部の会話シーンも考えてあったのに、”あの人”表記の前に挫折しました。
というわけで、どなたか名前、考えて! もしくは名前貸して!
僕の書くSS内で、楓子ちゃんの好きな”あの人”になってくれる人、大募集! メールか掲示板にて!!
 

・・・ちょっと真面目な話(?)。
とりあえず単発SSを続けて書きました。どうでしたか?
これが載る頃には他の人の作品も集まってれば良いなぁ、と思っています。
SSは誰にだって書けます。絵が描けない人、もっと楓子ちゃんを活躍させたい人、是非とも挑戦してみませんか?
有料サイトでもないし、素晴らしい物を書かなくちゃいけないわけではないです。現に僕みたいなんが好き勝手に書いてるくらいです。
みなさん、楓子ちゃんへの愛を文字にしてぶつけてみませんか!?
こんなイベントがあっても良いじゃないか! という思いを実現させてみませんか!?
・・・以上、他の人の書いたSSが読みたいだけの、僕からの勧誘でした。
(だって自分が書いたSS読んでもつまらんし・・・)
 

最後に。
今年一年が皆さんにとっても良い一年でありますように・・・。
 

作者:柊雅史


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