カードキャプター佐倉

第3話 カードキャプターVSラブラブスター(前編)

「ラブラブエクストリームサンダーッ!!」

ピシャーーーンッ!!

静寂をたたえる公園広場に轟音が響き渡る。そして閃光。

空高くより舞い降りた稲光の一筋は、少女の指差したその不届者達に、聖なる審判を下した。

「な、なんだコイツ・・・普通じゃねえっ・・・」

「クソ・・・お、おぼえてやがれっ!」

情けない捨てゼリフを吐いてフラフラと立ちあがると、短ランの3人組は逃げる様にして(いや、実際に逃げたのだが・・・)、走り去って行ったのである。

静けさを取り戻し、夕闇を落とし始めた公園には、未来的なフォルムに身を包んだ少女の、小さなシルエットだけが満月に型取られて―

「宇宙アイドルラブラブスターにおまかせよ〜っ★」

月光の中、クルリとターンを決めると、もとの制服姿・・・『寿 美幸』となって再び、蒼の闇の中へと消えていったのである。

 

キーンコーンカーンコーン・・・

「―これで今月に入って6件目・・・ね、佐倉さん、あなたどう思う?」

放課後の廊下。野球部の部室に向かう佐倉のトートバッグから、ロドリゲスがひょっこりと顔を覗かせて佐倉に訊ねた。

廊下に開け放たれた窓からは春の暖かい陽射しと、開きかけた桜の匂いが舞い込んで来る。

佐倉はそれを確認するとロドリゲスへと視線を戻して

「う〜ん・・・噂だと、それって悪い人をやっつける正義のヒーローなんでしょ? たしか、『ラブラブスターにおまかせよ』って言い残して消えていくっていう」

マシュマロのようなほっぺたに人差し指を立てながら、笑顔でそう返した。

「そうね・・・でも、あたしが気になるのは、その噂のヒーローが、本物の『魔法』を使っているらしいっていう事よ。・・・勿論、尾ヒレ背ビレのついた大袈裟な噂だっていう可能性も充分に考えられるんだけど・・・」

「そっかぁ、魔法を使うヒーローかぁ・・・そういえば私にも一応魔力があって、カードを通してそれを使えるんだったよね。まあ、私の場合、格好悪くて、とても人には言えないけど・・・」

そう言って佐倉は、スカートのポケットから2枚のカードを取り出して見比べると、およそ『魔法のカード』らしからぬそのデザインに、「ふぅっ」と肩で大きな溜息を吐いた。

それも無理はない話で、今の佐倉が持っているのは、『頭』と『削』のカードだけ。しかもそれぞれの絵柄が、『ドクロ』と『ロボット』だと来ている。これでは溜息のひとつも吐きたくなるというのが、『女の子』の心情だという物だろう。

ババ抜きのように広げられた2枚のカードは、パタパタと春風に揺られて―

「―そう、何だか匂うのよね・・・佐倉さん、今日あたり、そのヒーローとやらが出没する例の公園に行ってみましょう。もしかしたら何かカードの手掛かりが掴めるかも知れないわ!」

「うん、そうだね。それにどうせなら私もカッコイイ魔法が使えるようになりたいし・・・噂のヒーローにも会ってみたかったんだ。うん、クラブが終わったら行ってみようね」

・・・・・・・・・・・・。

 

ひびきの中央公園は、もともと緑の多いひびきの市内でも特に豊かな自然をたたえている場所というだけあって、いつも家族連れからデート中のカップルまでの、幅広い利用層を確保している。

太陽の沈みかけた薄闇に対し、開きかけた蕾を携える桜の樹だけは街頭の頼りない灯りに照らし出されている。

普段見慣れない蒼色の景色の中で、佐倉達はキョロキョロしながらベンチに腰掛けていた。

出掛かった星々を映す静かな池面に時折小石を投げ込んだりする様子は、佐倉がよほどヒマであるという事を物語っているようである。

「ね〜っ、もう一時間もこうしてるのに何も起きないよ。ロドリゲスちゃん、私、思うんだけど、ヒーローって何か事件が起こらないと現われない物なんじゃないの?」

肌寒くなってきた風にしびれを切らせて、佐倉が愚痴をこぼす。空の色も夕闇から夜の闇へと変わりつつあり、白んだ満月さえもその存在を強調しつつあった。

ロドリゲスは、不満そうに頬を膨らませる佐倉の肩の上で腕を組み、少し考えるような仕草を見せたかと思うと、パッと顔を上げて

「・・・そうよ! 今まで襲われた連中は、何かしらの『悪さ』をしていたって言うじゃない! だったら佐倉さん、あなたも・・・」

「ま、まさか・・・」

ひきつった表情で佐倉がたじろいだが、ロドリゲスは全く気にしない

「そうよ、それしかないわ。うんっ、そうと決まれば実行あるのみよ。さあ、佐倉さん、ここで思いっきり悪事をはたらいてちょうだい」

「ちょ、ちょっと! 私を悪のヒーローにするつもりなの? ねぇ、他の方法を考えてよ〜っ!」

「そうねぇ・・・それじゃ、このままここでボーッと一夜を明かすっていう作戦もあるんだけど・・・」

「うぅ・・・。」

「あたしは別に、どっちでも良いのよ」

「わ、分かったから〜っ! でも、悪事って一体何をすればいいの?」

「うふふ、その辺はバッチリよ。あたしに良い考えがあるの。あのね・・・」

・・・・・・・・・・・・。

 

春がすぐそこまで近づいて来ているとはいえ、太陽が沈んでいる今、4月の風はやはり冷たく感じられる。時折吹き抜ける春の風が、ザワザワと木々を唄わせて―

遠慮がちに水を吹き上げている噴水には、挙動不審を絵に描いたような佐倉が、恐る恐る手を伸ばしていたのであった。

「ね、ねえ、これってものすごく格好悪くない? こんなトコ、もし人に見つかったら・・・」「馬鹿ね! 見つかる為にやってるのよ。いい加減、覚悟を決めなさい」

「でも〜っ、いくらなんでも情けなさすぎるよ〜っ」

半泣きになりながらも、もう一度噴水を覗きこみ、その中に目的の物を探す。

そう、ロドリゲスの提案した悪事とは、「噴水の小銭をネコババする」事であったのだ。

「こうしている内にも、悪事の匂いを嗅ぎ付けて例の犯人が現われるはずよ」

ロドリゲスの得意げな口調に、いつの間にか、正義のヒーローは犯人扱いされていた。

もっとも、この状況ではどう見ても佐倉の方が『犯人』に見えるわけなのだが・・・ここでは伏せておこう。

ともかく、佐倉は腕まくりをして冷たい水に手を突っ込むと、暗くてよく見えない噴水の底を、手探りで探し始めたのである。

 

チャポン・・・

(うっ・・・思ってたより・・・)

パシャパシャ・・・

(水が冷たいよぉ・・・)

じゃぼじゃぼ・・・

(なんかヌルヌルしてるし・・・)

ピチャ・・・

(ん?この手応えは・・・)

バシャア!

 

「やったぁー!500円だよ!500円玉見つけちゃったよ」

水の中から引き出した掌にそれを確認すると、佐倉は満面の笑顔を肩の上のロドリゲスに向けた。

「佐倉さん・・・目的を忘れて本気で喜んでるでしょ・・・」

「そ、そんな事ないよ・・・エヘヘ」

気まずそうに頭を掻くと、名残惜しそうに500円玉を見つめて、再び噴水に投げ込んで

「そうだ!」

思い出したように、ぴょこんと首を上げると、両手のひらを合わせながら

(・・・これ以上ミジメになりませんように)

他人の硬貨に、図々しくも願い事など掛けていたのであった。

 

そして―

 

「さ、ボヤボヤしてないで続けるのよ」

「はぁ・・・」

チャプ・・・

佐倉達が『悪事』を開始して、かれこれ1時間にもなろうとしていた時である

変化の無い空気に、もういい加減うんざりし始めていたのだが・・・

 

「あれっ!?」

水面に写る街灯に目を留めた佐倉は、その風景の違和感に初めて気が付いたのである

高さ5メートル程の街灯の小さな灯りの上には、これまた小さな人影が立っている

驚いた佐倉は、目を擦りながら振り返り、改めて『それ』を確認すると

「あぁっ!もしかして・・・出た!出たよ!ロドリゲスちゃん!きっとあの人だよ」

「いよいよお出ましってわけね・・・でも、どうして何もしてこない・・・というより全然動きもしないのかしら・・・」

「もしかしたら私達の隙を覗ってるのかも」

「馬鹿ね!どうして正義のヒーローが小銭泥棒を警戒するのよ!」

佐倉達が言い合っている間にも、やはりその影は動こうとしない。

いや、よく見てみると動いてはいるようだ・・・街頭の上で小刻みに震えて・・・?

「ねぇ、もしかしたら・・・」

「・・・まさかねぇ」

「とりあえず街灯の下まで行ってみようよ」

・・・・・・・・・・・・。

 

街灯の下から小さな人影を見上げると、やはり震えているようであった。

しかも、何やら大声で騒いでいる

「ねぇ〜っ、そんな所でなにしてるの〜?」

そう言いながらも、佐倉は大体の状況を察していた。

そう、恐らくこの人影、もとい派手な服装の少女は・・・

「お願い!たすけて〜っ!・・・格好良く登場しようと思ってこんな高い所に登ったら、今度は降りられなくなっちゃったんだよ〜!」

佐倉が言うまでもなく、少女の方からわざわざ説明してくれた

他にも何か言っていたようだが、泣きながら喋っている上に声が(自主規制)なので何を言っているか全く分からない

「で、でも・・・助けてって言ったって、私じゃどうしようも出来ないし・・・」

「そんな〜!なんとかしてよぉ〜っ!一生のお願い〜っ!」

少女は相変わらず泣き喚いている

「困ったなぁ・・・人を呼ぼうにも誰も通り掛かって来ないし」

腕を組んだ佐倉は、何か良い案が無いかと俯きながら考え込んで

そいて、それは少女から目を離した一瞬の事だった

 

ズルッ!

「きゃーーーーっ!」

 

空から悲鳴が・・・少女の身体と一緒に降って来たのである

 

ズゴシャーーー・・・ン!!

「はうぅっ!」

 

物理の法則に従い、地面のアスファルトに勢い良く叩きつけられる少女。

あの高さから落ちたのでは、ひとたまりもない筈である。

「きゃ〜〜〜〜っ!」

こちらは佐倉の悲鳴。まぁ、こんな光景を目の当たりにすれば無理もないのだが・・・

「ロ、ロドリゲスちゃん!と、飛び降り自殺だよ!ひ、人が目の前で死んじゃったよぉ!」

「・・・美幸は大丈夫だよ〜っ」

両手をバタバタさせながらパニックに陥る佐倉

「お、落ち着いて佐倉さん。とりあえず病院・・・いえ、警察に連絡しないと・・・」

「・・・だから美幸は死んでないってぇ〜」

ロドリゲスの方も平静を保ってはいられないようだ

「でも、まだ若いのに可哀想・・・」

「そうね・・・自殺なんて何の解決にもならないのに・・・」

「あの〜っ」

波風立っていた空気は、次第にしんみりとした物へと変わっていき・・・

 

すぅ〜〜っ・・・

「わーーーーーーーーっ!!!」

 

少女の大声がその空気を遮断したのであった。

「きゃっ!・・・えぇっ?」

「ど、どうしたの?・・・ってウソぉ?」

大声に驚いた二人は休む暇もなく、今度は目の前の少女が『生きて』いる事に驚いた

「うぐぅ・・・美幸は全然大丈夫だし、死んでもいないよ〜っ!・・・それより」

一方の『寿 美幸』はパタパタと土埃を払うと、唖然としている佐倉を指差して

「噴水のお金を泥棒するなんて許せないよ〜っ!」

「ちょ、ちょっと待って・・・これには理由が・・・」

「問答無用よ〜っ!」

佐倉の弁解など、美幸の耳には入らない

「夜空に煌く星達よ・・・今こそ我に力を与えたまえ・・・」

「ま・・・まさか」

「宇宙の契約の下、汝の封印されし力を解放する・・・」

「そのようね・・・佐倉さん、頑張ってちょうだい!」

格好良いポーズを意識しながら、カードを構える佐倉

美幸の身体には目映いばかりの閃光が集まっていき

「インプラントパワーッ!レディエーショーン!!!」

「ま・・・まぶしい!」

光の中から現われたのは

 

「宇宙アイドル★ラブラブスター参上!」

佐倉とは対照的な『格好良いヒーロー』だったのである。

 

「うぅっ・・・向こうの方が主役っぽいよぉ・・・」

 

 

次回予告

5つ目のスタークリスタル。地球支配をもくろむ『女帝カスミ』

ダークプラネットの野望の下、冥王星の暗黒獣が長き眠りから目覚める

「絶対に負けない!私には・・・信じてくれる仲間がいるから!」

次回、宇宙アイドル★ラブラブスターR第37話!

『星に願いを・・・燃えて私の小宇宙』!

インプラントパワーでお仕置きよ〜っ

   ↓

   ↓

   ↓

(佐倉)「・・・ちょっと待ったぁ!次回予告まで乗っ取るつもり?アイツ許せない!」

(ロド)「佐倉さん・・・もっと『可愛く』してないと本当に主役乗っ取られるわよ」

(佐倉)「・・・・・・うふっ♪私『佐倉 楓子』ちょっぴりドジな女の子なの♪次回のお話はねぇ・・・」

(ロド)「・・・・・・・・・どうぞ」

▼次回予告▲

宇宙の神秘と魔法の不思議、お互いの正義は分かり合える事もなく・・・

「いん石衝突〜?ちょ、ちょっと地球を壊すつもりなの〜?」

次回、カードキャプター佐倉『カードキャプターVSラブラブスター(後編)』

お楽しみに♪


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