カードキャプター佐倉

 

第2話 佐倉とドリルと生徒会長

 

「きゃ〜っ、もうこんな時間〜? 完全に遅刻だよ〜っ」

アラーム『OFF』の目覚ましをひったくって、パジャマ姿の佐倉が飛び起きた。

時計の針は8時15分、いつもならば、校門前の坂を登っている時間である。

寝癖を押さえながら鏡を覗きこむと、慌ててブラウスのボタンに手を掛けて―

「ど、どうしよう、遅刻しちゃうよ〜っ」

そんな佐倉の声に、この部屋のもう一人の住人はというと―

「一体何事? んもぅ〜っ、朝っぱらからウルサイわね〜」

眠そうな目を擦って、そう愚痴をこぼしたのは、ガラスケースの中の『ロドリゲス』であった。

「・・・・・・。」

制服のリボンを掴んで、その場に固まる佐倉・・・

「きゃ〜〜〜っ! 何なの〜〜〜!?」

起床3分目にして、この朝2度目の悲鳴が響く。ロドリゲスは、尻餅をついた佐倉を横目に

「何を今更驚いているのよっ。あたし昨日、佐倉さんに事情を説明したじゃない。だからこれからは遠慮なく、人間の言葉を使わせて貰う事にしたのよ。何か文句でもあるのかしら?」

腰(?)に両手を当てて、まくし立てる。佐倉の方は、半分眠っている頭をブルブルと振って

「う、うん、覚えてるよ・・・夢じゃなかったんだよね・・・でも・・・」

「ん、どうかしたの?」

「いや〜ん、やっぱり気持ち悪い〜〜〜〜〜」

・・・・・・・・・・・・。

 

「―ふぅっ、このまま行けば、滑り込みセーフってとこかな」

校門のアーチを見上げながら、一気に坂を駆け上がる。

家から走り続けて来たおかげで、佐倉達はなんとかギリギリで、校門をくぐれそうにあった。佐倉「達」というのは、トートバッグに潜んでいる『ロドリゲス』も含めての事で、佐倉一人では心配だと言うロドリゲスが、無理矢理もぐり込んできたのだ。

「よ〜しっ、到着〜♪」

校門前。腕時計を見て、ホッと溜息をついた。しかし―

 

「ちょっと待てぇ〜〜いっ!」

 

ふいに上からの叫び声、眩しい太陽に目を細めて佐倉が見上げると、確かに上空からは小さな人影が迫ってきていた・・・・・・・・・・・・って、上空から!?

「だ、誰っ?」

「・・・とうっ! ひびきの高校生徒会長、赤井ほむら、只今見参!!」

青空から降って来た少女はスタン、と見事に着地し、佐倉の前でポーズを決めたのである。

「え? あなたが、あの有名な生徒会長の・・・」

ほぇ〜っ、と呆気口を開けたまま、佐倉がそう返した時、 

 

 キーンコーンカーンコーン・・・・・・

 

無情にもチャイムは鳴り響いたのである。

「ああっ、チャイムが鳴っちゃったよ〜。せっかく急いで来たのに〜」

そう言って、タイムオーバーを知らせる鐘の中、佐倉がガックリと肩を落とした。

「お前、遅刻は御法度だぞ」

一方、ほむらの方は腕を組んで佐倉を見下ろ・・・いや、『見上げて』ニシシと笑っていた。何しろ、この迫力の割に、目の前の生徒会長はあまりにも小柄なのだ。佐倉にしても、身体の大きな方ではないのだが、それと比べてもやはり5センチ程は小さい。

「もぅ〜っ、誰のせいだと思ってるの? 大体あなたも遅刻じゃない」

「あ、あたしは良いんだよ。生徒会長だからな・・・・・・それに、一度や二度や三度の遅刻なんて、もうどうだって良いんだよ」

「そんな〜、私は良くないよ〜。せっかく皆勤賞ねらってたのに〜」

そう、この佐倉という少女は、本気で皆勤賞を狙っていたのだ。・・・理由は至極簡単、他の事で表彰される事のない佐倉は、講堂の表彰ステージに憧れていた。つまり、皆勤賞という位の手段でしか、そこに上がれないと、自分自身で見切りをつけていたのである。

「うぅ〜っ、どうしてくれるのよ〜」

「し、知らねーよ、あたしゃ、用があるからもう行くぜ・・・」

言い終わらない内に、ほむらは昇降口へと駆け出して行った。佐倉は、悔しそうにその背中を見つめていたが

「彼女を捕まえて、佐倉さん!」

バッグの中から、ふいに声がした。当然、そんな所から声を発するのは

「どうしたの? ロドリゲスちゃん」

佐倉はバッグのファスナーを開けて、その中の小さな瞳を覗きこんだ

「・・・魔力よ。カードの強い魔力を感じるわ。発信源はあの娘、赤井ほむら!」

「えぇっ! 赤井さんから!?」

遠くに駆けて行く小さな背中。もう一度目を送ると

「そうよ。理由は分からないけど、どうやらあの娘がカードを持っているみたいね」

「じゃ、じゃあ、私はどうすれば良いの・・・」

「そうね・・・・・・じゃ、こういうのはどうかしら・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・って、なんでこうなっちゃうの〜っ!」

情けない声を上げたのは佐倉。それに対し、ここ、人気の無い体育館裏でその存在を主張しているのは、構えた拳に笑いを浮かべる『赤井 ほむら』。二人は同じように真っ直ぐと向かい合っているものの、その瞳はまるで、ヘビとカエルのようである。

「へっ、なかなか面白い事を言い出すじゃねえか。気に入ったぜ」

「あ、あのね、これにはね、ホントは事情があって・・・」

「ゴタクはいらねーぜっ! あたしゃ、ウズウズしてんだよ。ほら、さっさと始めようぜ!」

「ふぇ〜ん・・・・・・ロドリゲスちゃん、恨むからね」

佐倉は半泣きになって、トカゲ入りのバッグを睨みつけた

一方、バッグの中から外の様子を見守るロドリゲスの方は、真剣な眼差しで佐倉を見つめ

(佐倉さん・・・・・・赤井ほむらの性格からして、たとえカードを持っていたとしても、それを素直に渡すとは思えないわ・・・事情など話そうものなら、かえって面白がるのは目に見えているわ。だから彼女のようなタイプには、何といっても決闘。熱い拳を交わしあって理解を深めるのが一番なのよ・・・・・・って、そうなのかしら? 自分で言ってて良く分からないわね)

一人、納得したように頷いて、決闘の行く末を見守った―

で、肝心の決闘の方はと言うと―

 

「もしお前が勝ったら、この『ゴッドリラーのカード』をお前にやる。あたしが勝ったら、お前が学食の『爆裂山ラーメン』をおごる。条件はこれで良いんだよな」

「うぅ〜っ、分かったよぉ。やっぱ、やるしかないんだよね・・・」

「何だよ、言い出したのはお前の方だぜ」

「それはそうなんだけど・・・・・・」

自分から勝負を挑んだものの(指示したのはロドリゲスだが・・・)、やはり佐倉の表情に、不安の色は隠せなかった。ほむらが『最強格闘系生徒会長』であるという事は有名な話で、佐倉も勿論、その事を知っていたからである。

(やだなぁ、「会長キック」とか飛んできたらどうしよう・・・)

「何ボーッとしてんだ? もういいっ、試合開始だっ! ほら、とっととかかって来やがれ」

(そうだ、皆勤賞の恨みもあるし・・・・・・よしっ、覚悟を決めよう・・・)

「じゃ、じゃあ行くよ〜〜〜っ!」

「よーし、来いっ!!!」

「とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・」

ギュッと目をつむり、佐倉は半ば、ヤケクソになって、突っ込んで行ったのである。

・・・・・・・・・・・・。

 

 

「ウ、ウソ・・・・・・?」

佐倉は驚いていた。

「す、すごいじゃないの・・・・・・」

ロドリゲスも驚いていた。

「ぐ、ぐあ・・・・・・・・・痛ってぇ〜!」

そしてほむらは倒れていた。

若草色の風が吹き抜け、決闘の足跡を拭い去っていく―

「勝っちゃったの?・・・私」

頭のてっぺんをさすりながら、佐倉はうわずった声を上げた。そして、地面に転がる赤井ほむらに手を差し出すと

「大丈夫? 今、すごい音したよね・・・」

「・・・くっ、お前、なかなかやるじゃねえか。まさか、あそこで頭突きを放ってくるとはな・・・」

「あ、あれはね・・・・・・」

 

先程の一瞬。その一瞬には、まさに一瞬のドラマがあったのである。

覚悟を決めた佐倉は、その後どうするのかも考えず、ほむらに突っ込んでいった。

ほむらもそれに答えるようにして、ファイティングポーズをとったが・・・「何!?」

突進してきた佐倉は小石につまずくと、そのまま軌道を変えずに、頭から『飛んで』きたのだ。つまり、派手な『頭突き』ということである

―そんな突拍子もない攻撃を、ほむらが予想できるはずもなく・・・

 

「あたしの負けだ・・・ほら、これを持って行け・・・」

差し出された佐倉の手にカードを渡し、ほむらは、ガックリと首を垂れた

「赤井さん、しっかりして!」

・・・・・・・・・・・・。

「―どうやら気を失ったようね」

ロドリゲスが言った。見ると、いつの間にやら佐倉の肩に乗っている

「ロドリゲスちゃん!? ねえ、今の『頭突き』・・・まだ納得出来ないんだけど」

困惑した表情の佐倉。ロドリゲスを手の平に乗せて―

「そうね・・・説明するわ。まず佐倉さん、あなたに『史郎カード』の事は、説明してあるわよね」

「うん、たしか魔力を秘めたカードで・・・・・・え、まさか!」

佐倉は、昨日ひろった『ドクロのカード』をポケットから取り出した。

「そう、そのまさかよ。史郎カードには強力な魔力が宿っているの。そして、カードを所有する者にその資格があれば、その所有者を主と認めて、魔力を与えてくれる・・・・・・佐倉さん、あなたがさっき使ったのは、『頭』(ヘッド)のカード、使った者の頭がい骨を一時的に堅くしてくれるカードよ」

「えぇ〜っ! 私に魔力が〜? う〜ん・・・でも、やっぱり頭突きなんてカッコ悪いよぉ・・・・・・ね、じゃあ、コレは?」

そう言って、佐倉はたった今、手に入れたばかりの『ゴッドリラーのカード』をヒラヒラさせる。ロドリゲスは腕組みをして

「それは『削』(ドリル)のカードね。アニメやゲームキャラに詳しくなるわ」

「いや〜〜〜ん、こんなのばっかし〜・・・やっぱりカッコ悪いよぉ!」

「うふふ、佐倉さん。史郎カード集めはまだ、始まったばかりなのよ。これからも頑張ってちょうだいね」

「うぅ〜、なんか、もうヤメたくなってきたよ〜」

 

 

―こうして佐倉達は、無事に、最初のカードを入手する事が出来たのである。

しかし、佐倉はこの時、すでに一限目の授業が終わろうとしていた事には、全く気付いていなかったのである。佐倉にとって、初めての『サボリ』であった。

 

 

▼次回予告▲

魔法少女を夢見る、世界一不幸な女の子。ある日、夢は現実となって・・・

「それ以上目立たないでよ〜っ! ・・・だって、ヒロインは私なんだモン!」

次回、カードキャプター佐倉 『カードキャプターVSラブラブスター』

お楽しみに♪