カードキャプター佐倉

 

第1話 佐倉と不思議な落し物

 

「はい、みんなお疲れ様」

女の子が両手に抱えたスポーツドリンクを差し出すと、汗に汚れた野球部員達は銘々にそれを掴み上げる。

赤くなった太陽にライトアップされ、グラウンドに無数の人影が伸びる中、ひと回りだけ小さなその影は、ピョコンと首を振って―

「もうすぐ試合だねっ、みんな、頑張ってね」

可愛らしい声でそう言った。

そんな声に、これまた相応しいルックスを持つ少女。 野球部のマネージャーを務める彼女の名は― 佐倉 楓子という。そのポッチャリとした風貌が彼女の魅力なのだが、どうやら彼女自身はその事にコンプレックスがあるらしく、誉め言葉としては受け取ってくれない。

「さて、もうひと仕事っ―」

 

― グラウンドの景色が赤から黒へと変わっていった― 小さなプレハブから漏れる光が、校庭の寂しさを際立たせている。『野球部部室』と書かれたドアの奥で、ユニフォームのほつれを繕っていた佐倉は

「ふう、これで終わりっと」

17着目のユニフォームをパンパンと叩いて、そのまま、備え付けの洗濯機に放り込んだ。スイッチを入れると、大きな伸びをしながら窓を開け、

ガコンガコン・・・

洗濯機の音をBGMにしながら、冬色に澄んだ星空を見上げた

きらめく夜空に、オリオンがその存在を主張している

「う〜ん、これなら明日も晴れるね」

そんな事を言いながらグラウンドの向こうに視線を落とす。

「あれ?」

暗闇の中、ふと何かが光ったような気がしたので、手持ち無沙汰にあった佐倉は、直ぐに光のした方へと足を運んでいった

 

― 「あ〜、可愛い〜」

佐倉が見つけたのは小さなカードだった― 大きさはハガキ程で― 表面にはひび割れたドクロの絵、裏にはグロテスクなトカゲのイラストがあしらってある・・・・・・ つまり、可愛いなどという言葉とは遠く離れたシロモノのはずなのだが、この佐倉という少女はポストカード集めを趣味としていて、そして何より、無類の爬虫類好きであったのだ。

「うふふ、居残りは三文の得・・・かも」

カードをそっとポケットに仕舞うと、佐倉はその日、家に辿り着くまでずっと、ニコニコしっぱなしだった。

 

「ロドリゲスちゃん、ご飯ですよ〜」

ペットのトカゲに餌をあげながら、佐倉はまだニコニコしていた。よっぽどあの『カード』が気に入ったのだろう。そして、それを裏付けるかの様に

「あのね、私ね、今日いい物拾っちゃったんだよ〜」

ペットにまで、自慢し始めたのである。

ゴソゴソとスカートのポケッットを漁り―

「じゃ〜ん、これだよ」

佐倉は例のカードを取り出した― が、その時である

「そ、それ、史郎カードじゃない!!」

唐突に叫んだのは佐倉― ではなくガラスケースの中のトカゲだった・・・トカゲ!?

「ちょっと佐倉さん、あなたドコでそれを手に入れたの?」

トカゲは尚も話し続ける。何故かオネエ言葉で・・・

「いや〜〜〜〜〜〜っ!気持ち悪い〜〜〜〜っ!」

今度は佐倉が叫び声を上げた。― 悲鳴を聞きつけた母親が、何事かと駆けつけてきたが

「ロ、ロドリゲスが、しゃ、喋ったの〜」

しどろもどろの佐倉が言うと、

「全く、何バカ言ってんの。それよりその名前を何とかしなさい、それじゃまるで外国のオカマみたいじゃないの」

― 説教だけして出ていってしまった

バタンッ!

「誰が気持ち悪いですって?まったく、失礼しちゃうわね」

ドアが閉まると同時に、トカゲが喋りだす

佐倉はかろうじて正気を保ちながら―

「ね、ねえ、こ、これって一体どういう事?」

恐る恐る『ロドリゲス』に訊ねてみた

するとトカゲは真剣な顔つき(?)になって語り始めたのである

 

「実を言うと・・・あたしはね、カード・・・そう、佐倉さんの持っているそのカード、史郎カードの守護神だったの。そして、主である 小林 史郎さん(47)の元でカードを守り続けてきたわ・・・でも、あの日・・・」

悲しそうに目を伏せるトカゲ。そして―

「事件は突然起こったわ・・・あの夜、史郎さんは上司との付き合いで遅くまで飲んでいたの。勿論、カードは肌身離さずポケットに仕舞って・・・だけど、帰りのタクシーに乗る時、大切なカードの入った箱をうっかり、タクシーの屋根の上に乗っけて・・・」

「それで、タクシーはそのまま走っちゃったのね・・・」

黙っていた佐倉が相槌を打ちながらそう言うと

「ちょっと!人が話してる時は黙って聞いてなさい!」

トカゲに怒られ、佐倉はシュンとなってしまった

「まったく・・・それで、どこまで話したかしら? そうそう、そのタクシーが走り出してしまったのよ。カードと、あたしの入った箱を乗せたままね・・・・・・そして、その時にカードは勿論、あたしも一緒に吹き飛ばされ、史郎カードはあちこちに散らばってしまった・・・」

「じゃ、あの夜の・・・」

佐倉が、遠慮がちにそう言うと

「そう、佐倉さんが傷付いたあたしを拾って、介抱してくれたのよね」

ニッコリと笑い

「で、佐倉さんにお願いがあるの」

小さな手をアゴの前で合わせる

「お願いって・・・私に?」

「そうなの、実は、史郎カードって魔力のある者にしか見えないの・・・でも、佐倉さんはそれを見つけて、こうして私の前に持って来てくれた・・・つまり佐倉さん、あなたにはカードを探す者としての素質があるのよ! だからお願いっ、カードと、ご主人様を一緒に探してちょうだいっ」

「で、でも〜、う〜ん、どうしようかな〜?」

考えあぐねる佐倉に―

「協力してくれないなら、あなたの体重、逐一学校に言いふらしてもいいのよ」

「いや〜ん、それだけはやめて〜っ!」

 

― この時を境に、佐倉は『カードキャプター佐倉』として、ひびきのに散らばる史郎カードを集めていく事になったのである― そう、これから大変な騒動に巻き込まれようとは、これっぽっちも考えずに―

 

▼次回予告▲

ひびきの高校をまとめる優秀な生徒会長、その名は・・・

「って・・・会長キック〜?正義のヒーロー?ええ〜!」

次回、カードキャプター佐倉 『佐倉とドリルと生徒会長』

お楽しみに♪

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◆作者より◆

今回のお話、いかがだったでしょうか?

実は、次回予告などしておきながら、次の話、全く考えておりません(笑)

こんなストーリーでも続きが読みたいという方、もしいらっしゃったら、苦情、感想等まじえながらメールにてご連絡下さい。リクエスト(と、時間)さえあれば続編を制作していきたいと思っています

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